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追放された没落貴族、拾った通信水晶で神々の配信者になる〜規格外チートと温かいご飯で古代竜もテイムして無双〜  作者: 黒崎隼人


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第4話「黄金の矢と寄り添う孤独」

 迷宮の底に横たわる重く冷たい空気が、焚き火の熱気と交じり合って微かな上昇気流を生み出していた。


 石壁に投影された二人の影が、オレンジ色の炎の揺らめきに合わせて不規則に踊っている。ルミナは空になった木の器を両手で包み込むように持ったまま、その温もりを逃すまいと指先をきつく押し当てていた。彼女の長い銀色の髪の毛先が、炎の光を反射して琥珀色に染まっている。


 リオンは自分の分のスープを飲み終えると、静かに器を置き、上着のポケットから微かな熱を発している透き通った水晶を取り出した。


 その瞬間、迷宮の暗がりを切り裂くように、水晶から黄金色の光の粒が滝のように溢れ出した。


 光の粒子はまるで意思を持っているかのように宙を舞い、焚き火の真上の空間で渦を巻き始める。ルミナは驚愕に目を大きく見開き、反射的に腰の短剣に手を伸ばそうとしたが、その光から一切の害意や殺気が感じられないことに気づき、途中で動きを止めた。


 エルフの鋭敏な視覚は、その光が単なる魔力の塊ではないことを見抜いていた。それは限りなく純粋で、生命の源に触れるような圧倒的な温かさを伴っていた。


 やがて光の渦が収束し、チリンという澄んだ音と共に、幾つかの物体が石畳の上に姿を現した。


 一つは、朝露を帯びたように瑞々しい青々とした果実の山だった。そしてもう一つは、白銀に輝く矢尻と、ほのかに青い魔力を帯びた羽根を持つ二十本ほどの真新しい矢の束だった。


 リオンは落ち着いた動作でその矢の束を拾い上げ、ルミナの足元にそっと置いた。


「君の矢筒は、もう空になっていたからね。使ってくれ」


 ルミナは信じられないものを見るような目で、リオンと矢の束を交互に見つめた。彼女の震える指先が、恐る恐る青い羽根に触れる。その瞬間、微かな静電気が走るような心地よい刺激が彼女の肌を伝い、矢に込められた尋常ではない精霊の力が流れ込んでくるのを感じた。


「これは……ただの矢じゃない。矢柄の木目は神星樹のそれに似ているし、矢尻には恐ろしいほどの魔力が凝縮されているわ。あなた、一体何者なの」


 ルミナの問いかけには、警戒よりも純粋な畏敬の念が勝っていた。


 リオンは少しだけ困ったように微笑み、手の中の水晶をそっと撫でた。


「私自身は、ただの没落した家から追い出されたしがない人間だ。魔力もほとんど持っていない。ただ、少しばかり運が良くて、空の上の住人たちから気まぐれな恩恵を受けているだけだよ」


『ちょっとリオン、気まぐれだなんて失礼ね! 神様たちはみんな、ルミナちゃんを助けたあなたの勇姿に感動して、徹夜で矢の概念を編み上げたのよ』


 リオンの脳内に響くアリアの声は、どこか得意げでありながらも抗議の響きを含んでいた。彼はその声に苦笑しつつ、焚き火に新しい薪をくべた。


 パチッという高い音と共に火の粉が舞い上がり、二人の間に落ちていた緊張の糸を完全に焼き切った。


「没落した家から、追い出された……」


 ルミナは矢の束を自分の膝の上に抱え込みながら、小さな声でつぶやいた。彼女の尖った耳が、悲しげにわずかに垂れ下がる。


「私と同じね。私も、故郷の森が正体不明の瘴気に飲まれて、仲間たちとはぐれてしまったの。生き延びるためにこの迷宮に入ったけれど、結局は魔物の群れに囲まれて、一人で死を待つしかなかった」


 彼女の声には、長く孤独な時間を耐え抜いてきた者の疲労が色濃く滲んでいた。湿った石の匂いと、焚き火の煙の匂いが混ざり合う中、彼女の言葉は迷宮の静寂に吸い込まれていく。


「一人で死を待つ。つい数時間前までの私と同じだ」


 リオンは自分の手を見つめた。冷たい雨の中でかじかんでいたあの時の感覚が、まだ皮膚の奥底に微かに残っている。


「私の家族は、血筋と魔力の強さだけを誇りとしていた。私はそのどちらにも見放されて生まれたから、存在そのものが彼らの邪魔だったんだ。冷たい雨が降る中、荷物一つで屋敷を追い出された時、私は自分の人生がそこで終わるのだと本気で思っていた」


 リオンの静かな語り口には、怒りや恨みの感情は混じっていなかった。ただ、過ぎ去った嵐を振り返るような、静かな諦観だけがあった。


 ルミナは顔を上げ、炎越しにリオンの横顔を見つめた。彼の瞳には、人間特有の強欲さや狡猾さは一切なく、ただ深く澄んだ夜空のような静けさが広がっていた。


「でも、あなたは今、生きている。そして、私を助けてくれた」


 ルミナは抱えていた矢の束から一本を抜き取り、その美しい羽根を指の腹で優しく撫でた。


「この矢は、私が責任を持って使わせてもらうわ。私の命を繋いでくれたあなたの背中を、今度は私が守る」


 彼女の言葉は、エルフとしての誇りと、かけがえのない恩人への誓いに満ちていた。


 リオンは小さく頷き、温かい果実を一つ手に取って彼女に差し出した。


「ありがとう、ルミナ。それはとても心強い。明日はこの迷宮のさらに下層を目指そう。君の仲間が見つかるかもしれないし、何か出口への手がかりがあるかもしれない」


 ルミナは果実を受け取り、その表面の滑らかな感触を確かめるように両手で包み込んだ。彼女の唇の端が、わずかに緩んで柔らかな微笑みの形を作る。


 深い地の底、光の届かない迷宮の暗闇の中で、二つの孤独な魂が焚き火の熱を介して静かに寄り添い始めていた。


 水晶の向こう側では、その美しい情景を見守る神々が、感動のあまり言葉を失い、ただ温かい光の祝福を静かに送り続けていた。

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