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追放された没落貴族、拾った通信水晶で神々の配信者になる〜規格外チートと温かいご飯で古代竜もテイムして無双〜  作者: 黒崎隼人


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第3話「深い森の瞳と温かいスープ」

 迷宮の中層へと足を踏み入れると、空気は一段と冷たさを増し、肌を刺すような冷気が肌着の隙間に入り込んできた。


 石造りの壁はより緻密になり、天井からは奇妙な発光性の苔が青白い光を放っている。リオンは慎重に足を進めながら、周囲の音と匂いに神経を集中させていた。祝福によって研ぎ澄まされた五感は、遠くのわずかな変化すら逃さない。


 不意に、湿った空気の中に鋭い金属音と、何かが弾けるような音が混じって聞こえてきた。


 リオンは即座に足を止め、耳を澄ませた。音の方向は左奥の通路。どうやら複数の魔物が暴れ回る音と、何者かが激しく抵抗している気配がする。


「誰か、戦っているのか」


 リオンは剣の柄に手をかけ、足音を殺して通路を駆け抜けた。


 角を曲がった先の広い空間で、信じられない光景が広がっていた。


 青白い苔の光に照らされていたのは、緑色の外套を羽織った若いエルフの女性だった。長い銀色の髪を後ろで束ね、尖った耳が緊張でわずかに震えている。彼女は背中の矢筒から矢を引き抜き、滑らかな動作で弓を引き絞って放っていた。


「くっ……」


 彼女の口から、苦痛と焦りが混じった声が漏れる。


 彼女の周囲を取り囲んでいるのは、硬い甲殻を持った巨大な蜘蛛のような魔物だった。数は十匹以上。エルフの女性であるルミナの放つ矢は正確に魔物の急所を貫いているが、多勢に無勢であり、彼女の矢筒にはもう数本の矢しか残っていなかった。


 ルミナは二十二歳という若さながら、熟練の狩人特有の鋭い眼差しを持っていた。しかし、繰り返される魔物の連携攻撃に体力を削られ、足元はわずかにふらついている。彼女の額から流れる汗が、青白い光の中でキラリと光った。


『このままでは、彼女がやられる』


 リオンは迷うことなく、開けた空間へと飛び出した。


「伏せてくれ!」


 リオンの声が空間に響いた瞬間、ルミナは驚いたように目を見開いたが、瞬時に状況を判断して地面に身を低くした。


 リオンの体は弾丸のように前へと飛び出し、剣を大きく振りかぶった。祝福の力が全身の筋肉を爆発的に加速させる。風を切る音が甲高く鳴り響き、銀色の軌跡が暗闇の中に弧を描いた。


 一閃。


 最前列にいた巨大な蜘蛛の魔物三匹が、硬い甲殻ごと真っ二つに切り裂かれ、緑色の体液を撒き散らして吹き飛んだ。


 残りの魔物たちが一斉にリオンへと標的を変え、鋭い足で襲いかかってくる。しかし、リオンの目に映る彼らの動きはあまりにも遅かった。彼は体を滑らせるようにして攻撃をかわし、流れるような剣さばきで次々と魔物の急所を切り裂いていく。


 肉を断つ鈍い音と、魔物たちの断末魔の叫びが冷たい石壁に反響する。


 わずか数十秒。最後に残った一匹の頭部を叩き割ると、空間には再び静寂が戻った。血と体液の生臭い匂いが空気を満たしている。


 リオンは剣を振り、付着した汚れを落としてから鞘に収めた。そして、地面に座り込んでいるルミナの方へと振り返った。


 ルミナは大きく肩で息をしながら、信じられないものを見るような目でリオンを見つめていた。彼女の長い耳が警戒を示すようにぴんと立ち上がっている。エルフである彼女にとって、人間は欲望にまみれた厄介な存在であり、簡単には信用できない相手だった。


「怪我はないか」


 リオンが数歩近づくと、ルミナはびくりと体を強張らせ、とっさに弓を握り直した。


「……来ないで。私は一人で大丈夫よ」


 強がる声はわずかに震えていた。彼女の手足は疲労で小刻みに震えており、立ち上がる気力すら残っていないのは明白だった。


 リオンはそれ以上近づくのをやめ、その場に腰を下ろした。


「無理はしない方がいい。私は少し休んでいくから、君もここで休むといい」


 そう言うと、リオンはリュックから道具を取り出し、手慣れた様子で小さな焚き火の準備を始めた。火打ち石の音が響き、やがて温かいオレンジ色の炎が暗い空間を照らし出す。


 ルミナは警戒を解かないまま、焚き火の向こう側でじっとリオンの動きを観察していた。


 リオンはポケットの水晶が嬉しそうに瞬いているのを感じながら、小さな鉄鍋を炎の上に乗せた。水筒の水を注ぎ、神々からの贈り物である新鮮な野菜と、干し肉を細かく刻んで鍋に放り込む。


 パチパチと薪が爆ぜる音に混じって、次第に鍋からグツグツという音が聞こえ始めた。野菜の甘みと肉の旨味が溶け出した、優しく香ばしい匂いが迷宮の冷たい空気を満たしていく。


 ルミナの喉が、わずかに動いた。


 リオンは木の器に熱々のスープをたっぷりと注ぎ、ゆっくりと立ち上がってルミナの前に置いた。


「毒なんて入っていない。温かいうちに飲んでくれ」


 リオンはそう言い残すと、再び自分の場所に戻り、自分用のスープを飲み始めた。


 ルミナはしばらく器を見つめていたが、立ち昇る湯気と抗いがたい香りに負け、そっと両手で器を包み込んだ。凍えていた指先に、じんわりと心地よい熱が伝わってくる。


 彼女は器に口をつけ、少しだけスープを啜った。


 その瞬間、ルミナの瞳が大きく見開かれた。野菜の甘みと肉の深いコクが、疲弊しきった体に染み渡っていく。温かい液体が胃の奥に落ちるたび、強張っていた筋肉の緊張が解け、心の奥底にあった恐怖や不安が溶けていくのがわかった。


 彼女は無言のまま、夢中でスープを飲み干した。


「……ありがとう」


 空になった器を膝に置き、ルミナは小さく、しかしはっきりとした声で言った。彼女の尖った耳は、先ほどの警戒の角度から少しだけ下がり、リオンに向かって柔らかく傾いていた。


「私はルミナ。仲間とはぐれてしまって、出口を探していたの。……あなたの剣の腕、人間とは思えないほど見事だったわ」


「私はリオンだ。たまたま、少しだけ運が良かっただけだよ」


 リオンが微笑みながら答えると、上着のポケットの中で水晶がチカチカと激しく光った。


『リオン、ルミナちゃんすごく可愛いわね! 神様たちも、二人が一緒にご飯を食べてるシーンを見て大号泣してるわよ! また食材と、それからルミナちゃん用の新しい矢を送るから、しっかり彼女を守ってあげてね』


 アリアの元気な声が頭の中に響き、リオンは苦笑しながら焚き火の炎を見つめた。冷たく危険な迷宮の奥深くで、焚き火の温もりと、小さな絆が静かに芽生え始めていた。

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