エピローグ「星空の神話」
夜の帳が下り、リオンの領地は深い静寂と、満天の星空に包まれていた。
領主の館のバルコニーに出たリオンは、手すりに寄りかかりながら、夜風の冷たさを心地よく感じていた。館の裏手では、イグニスが巨大な体を丸めて静かな寝息を立てており、その体温が周囲の空気をわずかに温めている。
館の中からは、ルミナとクレアが楽しそうに談笑する声が微かに聞こえてくる。
彼は上着のポケットから通信水晶を取り出し、そっと手のひらに乗せた。水晶は、天上界の神々の穏やかな呼吸に合わせるかのように、ゆっくりと黄金色の光を明滅させている。
「アリア、起きているか」
リオンが小声で話しかけると、水晶の光がふわりと強くなった。
『ええ、起きているわよ。神様たちも、今日はすごく穏やかな気持ちであなたのことを見守っているわ』
「そうか。……あの鬱蒼とした森の中で、君がこの水晶を繋いでくれた日のことを、今でも時々思い出すんだ」
リオンは夜空を見上げた。数え切れないほどの星の瞬きが、まるで神々の優しい瞳のように彼を見下ろしている。
「あの時、私には何もなかった。絶望と、空腹と、冷たい雨だけだった。でも、君たちが見ていてくれたから、私は立ち上がることができた。ルミナと出会い、クレアと出会い、イグニスと心を通わせることができた」
リオンの声には、深い感謝の念が込められていた。
『リオン……。私の方こそ、ありがとうよ。あなたの真っ直ぐで温かい生き方は、退屈していた神様たちに、本当にたくさんの感動と、人を信じることの美しさを教えてくれたの。あなたは、私たち天上界にとっても、かけがえのない存在なのよ』
アリアの声は少しだけ潤んでいるようだった。
「これからも、どうか見ていてほしい。私がこの世界で、仲間たちと共にどんな物語を紡いでいくかを」
『もちろんよ! 天上界のネットワークが続く限り、私たちはいつまでもあなたの特等席の観客なんだから』
リオンは微笑み、水晶を胸の奥にしっかりと抱きしめた。
彼の物語は、まだ始まったばかりだ。
没落貴族から身を起こし、神々の祝福を受けた青年の歩みは、やがてこの世界で最も温かく、そして力強い新しい神話として、後世の歴史に深く刻み込まれていくことになる。
夜風が吹き抜け、バルコニーのカーテンを静かに揺らした。星空の下、リオンの心には、明日への希望という決して消えることのない光が、力強く燃え続けていた。




