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もしとんでもロボが異世界の第三王子に転生したら  作者: とま


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第9話:魔法基礎で"自動防御"が暴発

 魔法基礎の授業は、週に二回行われる。


 火曜と木曜の午後。


 場所は、学院の西側にある魔法棟だ。




 ルーカスにとって、魔法の授業は未知の領域だった。


 前世には、魔法など存在しなかった。


 科学と技術が支配する世界だったからだ。


 しかし、この世界では魔法が当たり前のように存在する。


 それを学ぶことは、人間として生きる上で必要なことだった。




「今日の授業は、魔力の基礎的な使い方です」


 教官が、黒板に図を描きながら説明している。


 白髪の老人で、名前はアルベルト・ゼーゲル。


 元宮廷魔導師で、退官後に学院の教官になったと聞いている。




「魔力は、誰もが持っています。しかし、それを引き出し、操るには訓練が必要です」


 ルーカスは、教官の言葉を注意深く聞いていた。


 魔力。


 それは、この世界特有のエネルギーらしい。


 人間の体内に宿り、様々な現象を引き起こすことができる。




「では、まず自分の魔力を感じてみましょう。目を閉じて、体の中心に意識を集中してください」


 生徒たちが、一斉に目を閉じた。


 ルーカスも、それに倣った。




 体の中心に意識を集中する。


 しばらくすると、何かが感じられた。


 胸の奥に、温かいものがある。


 それは、いつもセラと一緒にいるときに感じる「温かさ」とは違う。


 もっと、純粋なエネルギーのような感覚だ。




「感じられましたか? それが、魔力です」


 教官の声が聞こえる。


 ルーカスは目を開けた。


 周囲の生徒たちも、それぞれ何かを感じ取ったようだった。




「次に、その魔力を手のひらに集めてみましょう」


 教官が、実演して見せた。


 彼の手のひらに、淡い光が浮かび上がる。


 それが、魔力を可視化したものらしい。




 ルーカスは、自分の手のひらに意識を集中した。


 胸の奥の「温かさ」を、手のひらに向けて流す。


 イメージするように、エネルギーを移動させる。




 すると、手のひらに何かが集まってきた。


 しかし、それは教官のような淡い光ではなかった。


 もっと、強い輝き。


 金色に近い、眩しい光だ。




「おお……」


 周囲から、驚きの声が上がった。


 ルーカスの手のひらから放たれる光は、教室を照らすほど強かった。




「殿下、少し魔力を抑えてください」


 教官が、やや焦った声で言った。


 ルーカスは頷いて、魔力を引っ込めようとした。




 しかし、うまくいかない。


 魔力が、勝手に溢れ出ている。


 コントロールができない。




「抑えられません……」


「何ですと?」


「魔力が、止まりません」


 ルーカスの手のひらから、光がさらに強くなっていく。


 教室が、金色の光に包まれる。




 その瞬間、教官が杖を構えた。


 魔力を抑えるための術式を発動しようとしているのだろう。


 しかし、杖がルーカスに近づいた瞬間――




 ガシャン!




 教室の机が、ひとりでに立ち上がった。


 文字通り、立ち上がったのだ。


 四本の脚で立ち、教官の前に壁のように並んだ。




「なっ……!」


 教官が、驚愕の声を上げた。


 生徒たちも、悲鳴を上げて後ずさる。


 ルーカス自身も、何が起きたのか分からなかった。




「殿下、これは……」


「分かりません。勝手に……」


 ルーカスは、立ち上がった机を見つめた。


 机たちは、まるで盾のように教官との間に並んでいる。


 教官の杖を、ルーカスに近づけまいとしているかのようだ。




「自動防御……」


 教官が、呟いた。


 その顔には、驚きと、別の何かが浮かんでいた。


 恐怖、だろうか。




「殿下、杖を下げます。落ち着いてください」


「はい……」


 ルーカスは、深呼吸した。


 手のひらの光を、意識的に抑えようとする。


 胸の奥の「温かさ」を、そのままにしておく。




 ゆっくりと、光が弱まっていった。


 それに合わせて、立ち上がっていた机も、元の位置に戻っていった。


 まるで、何事もなかったかのように。




「……」


 教室が、静まり返った。


 誰も、何も言わない。


 全員が、ルーカスを見つめていた。


 その目には、恐怖の色が浮かんでいた。




 * * *




 授業の後、ルーカスは教官室に呼び出された。


 アルベルト教官が、険しい顔で待っていた。




「殿下、今日のことについて、お話があります」


「はい」


「あれは、『自動防御』と呼ばれる現象です」


「自動防御……」


「魔力が、持ち主の意思とは関係なく、外部からの脅威を排除しようとする現象です」


 教官が、重い声で説明した。


 ルーカスは、その言葉を噛み締めた。




「僕の意思とは関係なく……」


「はい。殿下は、私の杖を『脅威』と判断したのでしょう。そして、魔力が勝手に防御反応を起こした」


「でも、杖は脅威ではありませんでした」


「そうです。私は、殿下の魔力を抑えようとしただけでした。しかし、殿下の身体は、それを『攻撃』と判断した」


 教官の言葉に、ルーカスは考え込んだ。


 自分の身体が、勝手に判断している。


 それは、前世の「戦闘用ロボット」としての本能が、まだ残っているということだろうか。




「これは、非常に危険な状態です」


「分かっています」


「いいえ、分かっていないと思います」


 教官が、厳しい目でルーカスを見た。




「『自動防御』は、古代魔法の一種です。かつて、強大な魔導師たちが身につけていた護身術です」


「古代魔法……」


「しかし、それは長い修行の末に会得するものです。生まれつき持っている者など、聞いたことがありません」


「……」


「殿下、あなたは一体、何者なのですか」


 教官の問いかけに、ルーカスは答えられなかった。


 自分が何者なのか、自分でも分からないからだ。




「……すみません。答えられません」


「答えられない、ですか」


「はい。僕自身、自分の身体のことが、よく分かっていないのです」


 ルーカスが正直に言った。


 教官が、長いため息をついた。




「分かりました。今日のことは、他言しないようにします」


「ありがとうございます」


「ただし、条件があります」


「条件?」


「魔法の授業では、私の近くには来ないでください。危険ですから」


 教官の言葉は、冗談ではなかった。


 彼は、本気でルーカスを恐れているのだ。




「……分かりました」


 ルーカスは頷いた。


 胸の奥に、重いものが沈んでいくのを感じた。




 * * *




 教官室を出ると、廊下にセラが待っていた。


 心配そうな顔で、ルーカスを見つめている。




「殿下……」


「セラさん」


「授業のこと、聞きました。大丈夫ですか」


「はい。大丈夫です」


 ルーカスが答えた。


 しかし、その声には力がなかった。




「……本当ですか」


「はい……いいえ、分かりません」


 ルーカスが、正直に言った。


 セラが、眉をひそめた。




「何があったのですか」


「僕の魔力が、勝手に暴走しました。教官の杖が近づいたら、机が盾のように立ち上がって……」


「机が……」


「自動防御、というものらしいです。僕の意思とは関係なく、身体が勝手に反応する」


 ルーカスが説明した。


 セラが、息を呑んだ。




「それは……」


「教会の監察官が知ったら、どうなるでしょうか」


「……」


「『禁忌』として、処分されるかもしれません」


 ルーカスの声が、震えていた。


 初めて、本当の恐怖を感じていた。




「殿下……」


 セラが、ルーカスの手を取った。


 手袋越しでも、その温かさが伝わってきた。




「大丈夫です。私が、守ります」


「セラさん……」


「何があっても、私は殿下の味方です。教会が何と言おうと、私は殿下を守ります」


 セラの言葉が、ルーカスの胸に響いた。


 涙が、目の奥に溜まっていくのを感じた。




「……ありがとうございます」


「礼を言わないでください。私は、自分がしたいことをしているだけです」


「でも……」


「殿下は、私にとって大切な人です。大切な人を守るのは、当然のことです」


 セラが、きっぱりと言った。


 その目には、強い意志が宿っていた。




 ルーカスは、その目を見て、少しだけ安心した。


 セラがいてくれる。


 それだけで、前に進む勇気が湧いてくる。




「セラさん」


「はい」


「僕は、人間として生きたいのです」


「分かっています」


「でも、僕の身体は、人間ではないことを証明し続けています」


「……」


「自動防御も、その一つです。普通の人間には、できないことです」


 ルーカスの声が、沈んでいった。


 セラが、その手を強く握った。




「殿下、聞いてください」


「はい」


「人間であることは、身体で決まるのではありません」


「え?」


「心で、決まるのです」


 セラの言葉に、ルーカスは目を見開いた。




「殿下は、人間として悩み、苦しみ、成長しようとしています。それは、人間の心がある証拠です」


「でも、身体は……」


「身体がどうあれ、心が人間なら、殿下は人間です。私は、そう信じています」


 セラの言葉が、ルーカスの胸に深く刻まれた。


 心が人間なら、人間。


 それは、希望のある言葉だった。




「……ありがとうございます、セラさん」


「どういたしまして」


 セラが、微笑んだ。


 その笑顔を見て、ルーカスの胸が温かくなった。




 * * *




 その日の夕方、ルーカスは中庭のベンチに座っていた。


 セラは、騎士科の訓練に行っている。


 一人で、考え事をしていた。




 自動防御。


 それは、自分の身体に宿る「戦闘用ロボット」としての本能が、まだ残っている証拠だ。


 外部からの脅威を排除する。


 それが、前世の自分の「任務」だった。




 しかし、今は違う。


 今は、人間として生きようとしている。


 脅威を排除するのではなく、共存することを学ぼうとしている。


 なのに、身体が言うことを聞かない。




「困りましたね……」


 ルーカスは呟いた。


 どうすれば、自動防御を制御できるのだろう。


 そもそも、制御できるものなのだろうか。




 ふと、視線を感じた。


 顔を上げると、中庭の向こうに、誰かが立っていた。


 黒い衣を着た人物。


 教会の監察官だった。




 監察官は、ルーカスをじっと見つめていた。


 その目は、以前よりも鋭くなっている気がした。


 何かを、確信したような目だ。




 ルーカスの身体が、緊張した。


 自動防御が、発動しそうになる。


 しかし、それを意識的に抑えた。


 ここで発動させたら、疑惑が確信に変わる。




 深呼吸をする。


 胸の奥の「温かさ」を、そのままにしておく。


 魔力を、暴走させない。




 しばらくして、監察官は踵を返して去っていった。


 その後ろ姿を見送りながら、ルーカスは冷や汗を拭った。




「危なかった……」


 もう少しで、自動防御が発動するところだった。


 監察官が「脅威」と判断されたら、何が起きていたか分からない。




 制御しなければならない。


 自分の身体を、自分の意思で。


 それが、人間として生きるために必要なことだ。




「練習しよう……」


 ルーカスは立ち上がった。


 自動防御を制御する方法を、見つけなければならない。


 そのためには、自分の身体をもっと理解する必要がある。




 セラに相談しよう。


 彼女なら、何か良いアイデアを出してくれるかもしれない。


 そう思いながら、ルーカスは寮に向かって歩き始めた。




 * * *




 その夜、ルーカスは寮の自室で、今日の出来事を振り返っていた。


 魔法基礎の授業で、自動防御が暴発したこと。


 教官に恐れられたこと。


 監察官に見つめられたこと。




 問題が、また増えた。


 しかし、希望もある。


 セラが、味方でいてくれる。


 それだけで、前に進む力になる。




「心が人間なら、人間……」


 ルーカスは、セラの言葉を反芻した。


 それは、真実だと思いたい。


 身体がどうあれ、心が人間であり続ければ、自分は人間でいられる。




 しかし、心とは何だろう。


 前世の自分には、心がなかった。


 プログラムと、データと、演算だけがあった。


 今の自分には、心があるのだろうか。




 セラのことを考えると、胸が温かくなる。


 それは、感情だ。


 感情があるなら、心もあるのだろう。


 そう信じたい。




 ルーカスは、目を閉じた。


 明日も、授業がある。


 魔法基礎は、教官に近づかないようにしなければならない。


 それは、辛いことだ。


 しかし、仕方ない。




 自動防御を制御できるようになるまで、慎重に行動しよう。


 そして、いつか、自分の身体を完全にコントロールできるようになろう。


 人間として生きるために。




 その思いを胸に、ルーカスは眠りについた。


 今夜も、悪夢を見ないことを願いながら。


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