第3話:剣術基礎、木剣が粉になる
剣術基礎の授業は、週に三回行われる。
月曜、水曜、金曜の午後。
場所は、学院の東側にある訓練場だ。
ルーカスは、訓練場の入り口に立っていた。
広い砂地が広がり、その周囲を木製の柵が囲んでいる。
すでに他の生徒たちが集まり、準備運動をしていた。
「殿下、こちらへ」
教官が声をかけてくる。
40代半ばの男で、筋骨隆々の体格をしている。
名前は、ヴィクトル・ガルシア。
元王国騎士団の隊長で、引退後に学院の教官になったと聞いている。
「本日から、剣術基礎の授業に参加していただきます。まずは、木剣の扱いからです」
「承知しました」
ルーカスは頷いた。
木剣。
それが問題だった。
以前の訓練で、三本の木剣を粉砕してしまった記憶がある。
今日も同じことが起きないか、不安だった。
いや、不安という感情が何なのか、まだよく分からないが。
「では、まず木剣を選んでください」
教官が、木剣の並んだ棚を指し示す。
様々な長さ、太さの木剣が並んでいた。
ルーカスは、その中から一本を手に取った。
瞬間、違和感を覚えた。
軽い。
あまりにも軽い。
まるで、紙でできた棒を持っているようだ。
「それでよろしいですか?」
「……はい」
ルーカスは頷いたが、内心では嫌な予感がしていた。
この軽さは、力加減を間違える予兆だ。
授業が始まった。
まずは基本の構えから。
教官が見本を見せ、生徒たちがそれを真似る。
「剣は、体の延長です。力で振るのではなく、体全体で動かします」
教官の言葉を、ルーカスは注意深く聞いていた。
力で振るのではない。
体全体で動かす。
それは、つまり――
ルーカスは構えを取り、木剣を振った。
軽く、のつもりだった。
しかし。
パキッ。
乾いた音がした。
見下ろすと、木剣が真っ二つに折れていた。
「……」
周囲の生徒たちが、息を呑む気配がした。
教官が、目を丸くしている。
「殿下……今、何をなさいましたか」
「構えを取って、振りました」
「それだけで、折れた?」
「はい」
ルーカスは、折れた木剣を見つめた。
断面は、まるで刃物で切ったように滑らかだった。
力加減を間違えた、というレベルではない。
何かが、根本的におかしい。
「……別の木剣を、お取りください」
教官が、やや緊張した声で言った。
ルーカスは頷き、棚に向かった。
今度は、より太い木剣を選ぶ。
これなら、少しは持つだろう。
構えを取る。
今度は、もっと力を抜いて。
ゆっくりと、慎重に振る。
パキパキパキッ。
木剣が、三つに砕けた。
「……」
訓練場が、静まり返った。
生徒たちが、遠巻きにルーカスを見ている。
その目には、恐怖の色が浮かんでいた。
「殿下」
教官が、慎重に近づいてくる。
その顔には、困惑と警戒が入り混じっていた。
「力加減が、できないのですか?」
「……はい。申し訳ありません」
ルーカスは、正直に認めた。
力加減ができない。
それは、事実だった。
自分の身体が、どれだけの力を持っているのか、把握できていないのだ。
「しばらく、見学していてください」
「承知しました」
ルーカスは、訓練場の隅に移動した。
砕けた木剣の残骸を、侍従が慌てて片付けている。
見学しながら、ルーカスは自分の手を見つめた。
普通の、少年の手に見える。
しかし、中身は普通ではない。
骨格強度が上昇し、筋力も増強されている。
自己修復機能が、勝手に身体を強化しているのだ。
その結果、木剣程度では、自分の力に耐えられない。
かといって、真剣を持つわけにもいかない。
他の生徒を傷つける危険がある。
「困りましたね……」
ルーカスは呟いた。
どうすれば、力加減ができるようになるのだろう。
前世では、力加減など必要なかった。
敵を排除する。それだけが目的だったから。
しかし、今は違う。
人間として生きるなら、力を制御しなければならない。
* * *
授業の後、ルーカスは一人で訓練場に残っていた。
他の生徒たちは、すでに去っている。
夕暮れの訓練場は、静かだった。
ルーカスは、新しい木剣を手に取った。
今度こそ、壊さないように。
慎重に、ゆっくりと、構えを取る。
そこに、足音が近づいてきた。
「殿下?」
振り返ると、セラが立っていた。
訓練着のまま、腰には木剣を佩いている。
自主訓練の帰りだろうか。
「セラさん。こんにちは」
「こんにちは……何をしているのですか」
「練習です。木剣を壊さない練習を」
ルーカスが、手元の木剣を見せた。
セラが、複雑な表情を浮かべた。
「授業で、二本壊したと聞きました」
「はい。力加減が、分からなくて」
「……見せてください」
セラが、訓練場の中央に歩いていった。
ルーカスも、それに続く。
「普通に、構えてみてください」
ルーカスは、教官に教わった通りの構えを取った。
セラが、それをじっと観察する。
「……構えは、悪くないです」
「そうですか」
「問題は、力の入れ方ですね。見ていると、全身に力が入りすぎています」
「全身に」
「はい。剣を振るときは、必要な筋肉だけを使います。不要な力は、抜くのです」
セラが、自分の木剣を構えた。
その動作は、流れるように滑らかだった。
無駄がない。必要最小限の動きだ。
「こうです。見ていてください」
セラが、木剣を振った。
風を切る音がした。
しかし、その動きには、力みがまったくなかった。
「どうすれば、そうできますか」
「練習です。何度も繰り返して、身体に覚えさせるのです」
「何度も……」
ルーカスは、セラの言葉を反芻した。
練習すれば、できるようになる。
それは、希望のある言葉だった。
「では、やってみます」
ルーカスが構えを取った。
全身の力を抜く。
必要な筋肉だけを使う。
ゆっくりと、振る。
パキッ。
木剣の先端が、折れた。
「……」
セラが、絶句している。
ルーカスは、折れた木剣を見つめた。
「力、抜いたつもりだったのですが……」
「殿下、『つもり』と『実際』は違います」
「そうですね……」
ルーカスは、しょんぼりと肩を落とした。
しょんぼり、という感情が正しいのかは分からないが、今の気分を表すならそれが近い気がした。
「……手を、貸してください」
セラが、ルーカスの傍に近づいてきた。
その手が、ルーカスの手首を掴む。
「こうして、力加減を教えます。私の動きを、感じてください」
「感じる?」
「はい。力がどう入って、どう抜けるか。それを、体で覚えてください」
セラの手が、ルーカスの腕を動かした。
ゆっくりと、剣を振る動作をなぞる。
その瞬間、ルーカスの脳に、大量のノイズが流れ込んできた。
温度。
セラの手の温度が、異常に高く感じられる。
実際には、人間の体温は36度前後のはずだ。
しかし、ルーカスの感覚は、それを「熱い」と処理していた。
――触覚感度、上昇中。
脳内に警告が浮かぶ。
神経系の高速化が、さらに進んでいるのだ。
その結果、触覚が過敏になっている。
「殿下? 顔色が悪いですが……」
「いえ、大丈夫です」
ルーカスは首を振った。
大丈夫ではない。
セラの手の温度が、ノイズとして処理されている。
このまま続けると、処理落ちするかもしれない。
しかし、やめるわけにはいかない。
これは、力加減を学ぶための貴重な機会だ。
「続けてください」
「……分かりました」
セラが、ルーカスの腕を動かし続ける。
ゆっくりと、剣を振る。
力の入れ方、抜き方を、体で感じる。
ノイズが、どんどん増えていく。
温度、圧力、摩擦。
セラの手から伝わるすべてが、情報として処理される。
脳の負荷が、上昇していく。
しかし、同時に、何かが見えてきた。
力の流れだ。
セラの動きには、無駄がない。
必要な力だけが、必要な場所に、必要な量だけ入っている。
それが、「力加減」というものなのだ。
「……なるほど」
ルーカスが呟いた。
セラが、手を離した。
「分かりましたか?」
「少しだけ。でも、理解はできました」
「では、やってみてください」
セラが、新しい木剣を手渡した。
ルーカスは、それを受け取った。
構えを取る。
今度は、セラの動きを思い出しながら。
力の入れ方、抜き方を、意識して。
ゆっくりと、振る。
木剣は、折れなかった。
「……っ!」
セラが、目を見開いた。
ルーカスも、自分の手元を見て驚いた。
「折れませんでした」
「はい、折れませんでしたね……」
セラの声が、少し震えている。
驚きと、安堵が混ざっているようだった。
「もう一度、やってみます」
ルーカスが、再び構えを取った。
振る。
折れない。
もう一度。
折れない。
「できた……」
ルーカスの口元に、笑みが浮かんだ。
笑い方が正しいかは分からない。
しかし、胸の奥に、温かいものが広がった。
「セラさん、ありがとうございます」
「い、いえ……」
セラが、少し顔を赤くしている。
照れているのだろうか。
ルーカスには、よく分からなかった。
「これで、授業にも参加できます」
「はい。ただ、まだ油断は禁物です。意識していないと、また壊すかもしれません」
「そうですね。練習を続けます」
ルーカスが頷いた。
セラも、小さく頷いた。
夕日が、訓練場を赤く染めている。
二人の影が、長く伸びていた。
* * *
「ところで、セラさん」
「はい」
「優しさ、というのは、どういうものですか」
ルーカスが唐突に問いかけた。
セラが、怪訝な顔をした。
「優しさ、ですか」
「はい。セラさんが今してくれたことは、優しさ、というものですか」
「……どうでしょう。単に、見ていられなかっただけです」
「見ていられない?」
「はい。殿下が困っているのを見ると、放っておけないのです」
セラが、そっぽを向いた。
耳が、少し赤いように見えた。
「それが、優しさ、なのでは」
「……かもしれません」
セラが、小さく認めた。
ルーカスは、その言葉を記憶に刻んだ。
優しさとは、困っている人を放っておけない気持ち。
それは、前世にはなかったものだ。
戦闘用ロボットは、困っている人を助けたりしない。
任務に関係なければ、無視する。
それが、効率的だったから。
しかし、セラは違う。
ルーカスが困っていたら、助けてくれる。
それが、人間というものなのだろうか。
「優しさって、圧力ですか?」
「……は?」
セラが、目を丸くした。
ルーカスは、首を傾げた。
「優しくされると、何かお返しをしなければならない気がします。それは、圧力ではないですか」
「……殿下」
「はい」
「優しさは、圧力ではありません」
セラが、きっぱりと言った。
その表情は、呆れと困惑が入り混じっていた。
「見返りを求めて優しくする人もいます。でも、本当の優しさは、そういうものではありません」
「では、どういうものですか」
「単純に、相手に幸せになってほしいと思う気持ち、です」
「幸せに……」
ルーカスは、その言葉を反芻した。
幸せになってほしい。
それは、利益を求めない感情だ。
効率とは、無縁のものだ。
「難しいですね」
「……そうですか?」
「はい。優しさを理解するのは、とても難しいです」
ルーカスが、正直に言った。
セラが、長いため息をついた。
「殿下は、本当に不思議な方ですね」
「よく言われます」
「それは、褒め言葉ではありません」
「そうですか」
ルーカスが首を傾げた。
セラが、また小さくため息をついた。
「……でも、嫌いではないです」
「え?」
「何でもありません。そろそろ、寮に戻りましょう」
セラが、足早に歩き始めた。
ルーカスは、その後を追いかけた。
嫌いではない。
それは、つまり、好き、ということだろうか。
いや、好きと嫌いは対義語ではないのかもしれない。
その中間に、何かがあるのかもしれない。
人間の感情は、複雑だ。
ルーカスは、そう思った。
* * *
翌日の剣術基礎の授業。
ルーカスは、昨日の練習の成果を試すことになった。
「殿下、準備はよろしいですか」
教官のヴィクトルが、慎重な声で問いかける。
昨日の惨劇を、彼も目撃している。
警戒するのは当然だった。
「はい。今日は、大丈夫だと思います」
「では、構えてください」
ルーカスは、木剣を手に取った。
昨日学んだことを、思い出す。
力の入れ方、抜き方。
セラの手の感覚。
構えを取った。
周囲の生徒たちが、固唾を呑んで見守っている。
その視線が、ノイズとして流れ込んでくる。
しかし、今は無視する。
集中するのは、力加減だけだ。
振った。
木剣は、折れなかった。
「おお……」
教官から、感嘆の声が漏れた。
生徒たちが、ざわめき始める。
「もう一度、お願いします」
「はい」
ルーカスは、再び振った。
折れない。
もう一度。
折れない。
「素晴らしい。昨日とは、別人のようです」
教官が、安堵の表情を浮かべた。
生徒たちも、緊張を解いたようだった。
ルーカスは、自分の手を見つめた。
力加減。
それは、まだ完璧ではない。
意識していないと、すぐに元に戻ってしまうだろう。
しかし、できるようになった。
それが、重要だった。
「では、二人一組で、打ち合いの練習をします」
教官が、指示を出した。
生徒たちが、ペアを組み始める。
ルーカスは、誰と組むべきか、周囲を見回した。
「殿下、私と組みましょう」
声をかけてきたのは、金髪の少年だった。
整った顔立ちで、貴族らしい気品がある。
記憶データベースを検索すると、フェリクス・ヴァレンティ伯爵家の嫡男と出た。
「よろしくお願いします、ヴァレンティ殿」
「フェリクスで結構です、殿下」
フェリクスが、にこやかに笑った。
その笑顔には、どこか計算高いものを感じた。
しかし、敵意はない。
とりあえず、組んでみよう。
二人で向かい合い、構えを取った。
フェリクスの構えは、洗練されている。
幼い頃から、剣術を学んできたのだろう。
「では、参ります」
フェリクスが、木剣を振った。
ルーカスは、それを受け止めた。
カンッ。
木剣と木剣がぶつかる音がした。
折れていない。
受け止められた。
「おや、噂と違いますね」
「噂?」
「木剣を粉砕する王子、と聞いていました」
「昨日は、そうでした。今日は、違います」
ルーカスが答えた。
フェリクスが、興味深そうに目を細めた。
「一日で、そこまで変わりましたか。誰かに教わった?」
「……セラフィーナさんに」
「ああ、騎士科のセラですか。なるほど」
フェリクスの目に、何か別の色が浮かんだ。
それが何なのか、ルーカスには分からなかった。
打ち合いを続ける。
フェリクスは上手い。
動きに無駄がなく、的確だ。
ルーカスは、それを受け止め、時に反撃する。
しかし、問題が一つあった。
手加減だ。
フェリクスの攻撃を受けるたびに、反射的に強く打ち返しそうになる。
それを、意識して抑えなければならない。
「殿下、もう少し攻めてもいいですよ」
「いえ、これで十分です」
「遠慮しなくても……」
「遠慮ではありません。力加減を練習しているのです」
ルーカスが正直に言った。
フェリクスが、少し驚いたような顔をした。
「なるほど。では、私がもう少し攻めましょう」
フェリクスの動きが、速くなった。
連続で打ち込んでくる。
ルーカスは、それを一つ一つ受け止めた。
しかし、速度が上がるにつれて、反応が追いつかなくなってきた。
いや、反応は追いついている。
問題は、力加減だ。
速く動こうとすると、力が入ってしまう。
それを抑えながら、相手の攻撃を受けるのは、非常に難しかった。
「くっ……」
一瞬、力が入りすぎた。
フェリクスの木剣を弾き返す。
その衝撃で、フェリクスが後ろによろめいた。
「おっと……」
「すみません、力が入りました」
「いえ、大丈夫です。しかし、すごい力ですね」
フェリクスが、興味深そうにルーカスを見ている。
その目には、警戒と興味が入り混じっていた。
「殿下は、本当に不思議な方ですね」
「よく言われます」
「噂以上に」
フェリクスが、意味深に笑った。
ルーカスは、その笑顔の意味が分からなかった。
* * *
授業が終わり、ルーカスは訓練場を後にした。
廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「殿下」
振り返ると、セラがいた。
訓練着姿で、少し息が上がっている。
走ってきたのだろうか。
「セラさん。どうしましたか」
「授業、見ていました」
「そうでしたか」
「木剣、壊しませんでしたね」
「はい。セラさんのおかげです」
ルーカスが頭を下げた。
セラが、少し顔を赤くした。
「私は、何もしていません」
「いいえ。セラさんが教えてくれなければ、今日も壊していたと思います」
「……そうですか」
セラが、そっぽを向いた。
照れているのだろう。
ルーカスは、そう判断した。
「ただ、まだ完璧ではありません」
「分かっています。最後の方、力が入っていました」
「見ていたのですか」
「ええ。速い動きになると、制御が難しくなるようですね」
「はい。練習が必要です」
ルーカスが頷いた。
セラも、頷き返した。
「もし良ければ、また練習に付き合いましょうか」
「いいのですか?」
「はい。私も、訓練相手が欲しかったので」
セラがそう言ったが、その目が泳いでいるのを、ルーカスは見逃さなかった。
本当の理由は、別にあるのかもしれない。
しかし、深く追及するのは、やめておいた。
「では、お願いします。いつがいいですか」
「放課後、時間があるときに」
「分かりました」
ルーカスが頷いた。
セラも、小さく頷いて、足早に去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、ルーカスは考えていた。
セラは、なぜ自分を助けてくれるのだろう。
困っているのを見ると、放っておけない。
彼女はそう言った。
それが、優しさ、というものなのだろう。
しかし、それだけではない気がする。
セラの行動には、何か別の理由があるような気がした。
それが何なのかは、まだ分からない。
しかし、いつか分かるときが来るだろう。
「優しさ……」
ルーカスは呟いた。
その言葉の意味を、少しずつ理解し始めている気がした。
* * *
その夜、ルーカスは寮の自室で、今日の出来事を振り返っていた。
木剣を壊さなくなった。
力加減を、少しだけ覚えた。
セラと、また練習することになった。
良い一日だった、と言えるだろう。
少なくとも、昨日よりは進歩した。
しかし、問題もある。
フェリクスの視線だ。
あの少年は、明らかにルーカスに興味を持っていた。
その興味が、良いものなのか悪いものなのか、まだ分からない。
そして、教会の監察官の存在。
学院長が言っていた、「目立たない」という指示。
今日の授業で、また目立ってしまった気がする。
木剣を壊さなかったことは良いが、その「回復の速さ」は、また別の意味で注目を集めたかもしれない。
「難しいですね……」
ルーカスは、窓の外を眺めながら呟いた。
夜空には、星が瞬いている。
月は、半分だけ欠けていた。
人間として生きる。
普通になる。
それは、想像以上に難しい。
しかし、諦めるわけにはいかない。
セラが、助けてくれている。
それが、とても心強かった。
心強い、という感情が正しいのかは分からない。
しかし、胸の奥に、温かいものがあるのは確かだ。
ルーカスは、小さく笑った。
笑い方が正しいかは、まだ分からない。
しかし、笑うことが増えてきた気がする。
それは、きっと、良いことなのだろう。
目を閉じて、眠りにつく。
今夜は、枕が焦げないといいな、と思いながら。
自己修復機能が、睡眠中も働いているのは、相変わらずだった。
明日も、練習がある。
力加減を、もっと上手くならなければ。
そう思いながら、ルーカスは意識を手放した。




