第26話:準決勝、レオナルドと対決(ガチ戦闘開始)
準決勝の時間が、近づいていた。
闘技場には、これまでで最も多くの観客が集まっていた。
学院最強の剣士と、謎の第三王子の対決。
誰もが、この試合を見たがっていた。
「殿下、準備はいいですか」
控え室で、セラが声をかけた。
ルーカスは、ふわふわ棒を握りしめていた。
「はい。準備はできています」
「緊張していますか」
「少しだけ」
「大丈夫です。殿下なら、きっと上手くやれます」
「ありがとうございます」
ルーカスが、小さく微笑んだ。
セラも、微笑み返した。
「では、行ってきます」
「はい。頑張ってください」
ルーカスは、控え室を出た。
闘技場へ向かう廊下を、歩いていく。
心臓が、少し速く鳴っていた。
* * *
闘技場に入ると、歓声が響いた。
観客席は、満員だった。
皆が、この試合を待ち望んでいた。
「第三王子だ……」
「また、ふわふわ棒を持っているな」
「レオナルドに、あれで勝てるのか」
「見ものだな」
囁き声が、あちこちから聞こえる。
ルーカスは、それを無視して、フィールドの中央に向かった。
反対側から、レオナルドが入ってきた。
金髪を後ろに撫でつけ、鋭い目つきをしている。
手には、訓練用の長剣を持っていた。
堂々とした立ち姿だった。
「来たな、第三王子」
「はい。よろしくお願いします」
「言っただろう。全力で来い」
「分かりました」
「手加減するなよ」
「……やってみます」
ルーカスが答えた。
レオナルドが、にやりと笑った。
「準決勝、第三王子ルーカス殿下対、レオナルド・フォン・アルブレヒト」
審判が、対戦カードを読み上げた。
観客席から、歓声が上がった。
「両者、構え」
ルーカスは、ふわふわ棒を構えた。
レオナルドは、長剣を構えた。
二人の視線が、交差する。
「試合、開始!」
* * *
レオナルドが、一気に距離を詰めてきた。
速い。
今までの相手とは、比較にならない速さだ。
長剣が、横から薙がれる。
ルーカスは、後ろに下がって避けた。
しかし、レオナルドは止まらない。
連続攻撃を仕掛けてくる。
斬り上げ、斬り下ろし、突き、払い。
次々と攻撃が繰り出される。
ルーカスは、すべてを避けた。
しかし、反撃する隙がなかった。
「どうした、避けてばかりか」
「すみません。速いので」
「もっと速く動けるはずだ。見れば分かる」
「……」
レオナルドの言葉は、正しかった。
ルーカスは、まだ本気を出していない。
避けることに集中して、攻撃を抑えていた。
「つまらないな」
レオナルドが、一瞬止まった。
その目には、失望の色が浮かんでいた。
「俺は、お前の本気が見たいんだ。手加減された試合なんて、意味がない」
「でも、本気を出したら……」
「出したら、どうなる」
「傷つけてしまうかもしれません」
「傷つけろ。それが、戦いだ」
レオナルドが、きっぱりと言った。
その言葉に、ルーカスは胸を打たれた。
傷つけろ。
それが、戦いだ。
確かに、そうかもしれない。
戦いとは、本気でぶつかり合うこと。
手加減しては、相手に失礼だ。
「分かりました」
ルーカスが、構えを変えた。
ふわふわ棒を、両手で握りしめる。
目つきが、変わった。
「本気で、行きます」
「ああ。来い」
二人が、同時に動いた。
* * *
ルーカスが、前に踏み出した。
レオナルドも、同時に踏み出した。
二人の武器が、ぶつかり合った。
ドンッ。
重い衝撃が、闘技場に響いた。
ふわふわ棒と長剣が、激しくぶつかる。
火花が散るような、激しい攻防だった。
「いいぞ! それだ!」
レオナルドが、叫んだ。
その顔には、喜びが浮かんでいた。
これこそ、彼が求めていた戦いだった。
ルーカスは、攻撃に転じた。
これまで、避けてばかりだった。
防御を重視して、攻撃を抑えていた。
しかし、今は違う。
防御を捨てて、攻撃に全振りする。
ふわふわ棒が、唸りを上げる。
レオナルドに向かって、振り下ろされる。
速い。
これまでとは、比較にならない速さだ。
「くっ……!」
レオナルドが、長剣で受け止めた。
しかし、衝撃で身体が押し戻される。
ふわふわ棒の威力が、予想以上だった。
「これは……」
レオナルドの目が、見開かれた。
ルーカスの攻撃が、続く。
一撃、二撃、三撃。
連続で、ふわふわ棒が振るわれる。
レオナルドは、すべてを受け止めた。
しかし、その度に、身体が押し戻される。
ふわふわ棒の威力が、尋常ではなかった。
「柔らかいはずなのに……この威力……」
「すみません。力を入れすぎたかもしれません」
「入れすぎ……いや、これでいい。これこそ、お前の本気だ」
レオナルドが、にやりと笑った。
そして、反撃に転じた。
* * *
観客席では、誰もが息を呑んでいた。
これほど激しい戦いは、見たことがなかった。
学院最強のレオナルドと、謎の第三王子。
二人の戦いは、想像を超えるものだった。
「すごい……」
「何だ、あの動き……」
「第三王子、本気を出していたのか……」
「レオナルドが、押されてる……」
囁き声が、あちこちから聞こえる。
皆が、目の前の光景に釘付けになっていた。
セラは、観客席の最前列で試合を見ていた。
その顔には、複雑な表情が浮かんでいた。
嬉しさと、心配が混ざり合っていた。
「殿下……」
ルーカスは、本気で戦っていた。
これまで見せなかった力を、発揮していた。
それは、素晴らしいことだ。
しかし、同時に危険なことでもあった。
この力を見れば、誰もがルーカスの「異常さ」を認識するだろう。
監察官たちは、喜んで「証拠」として使うだろう。
それでも、ルーカスは戦っている。
全力で、戦っている。
「頑張れ、殿下……」
セラが、小さく呟いた。
声を出して応援したかった。
しかし、昨日の騎士科団体戦のことがあるので、控えていた。
* * *
闘技場では、激しい攻防が続いていた。
ルーカスが攻め、レオナルドが受ける。
レオナルドが反撃し、ルーカスが避ける。
どちらも、一歩も引かなかった。
「お前、本当に強いな」
「レオナルドさんも、強いです」
「だが、まだ俺の方が上だ」
「そうですか」
「証明してやる」
レオナルドが、構えを変えた。
長剣を、高く掲げる。
全身に、力を込める。
「秘剣、雷光斬!」
レオナルドが、叫んだ。
長剣が、稲妻のように振り下ろされる。
常人には見えない速さだった。
しかし、ルーカスには見えた。
すべてが、スローモーションのように見えた。
ルーカスは、ふわふわ棒を横に構えた。
レオナルドの攻撃を、真正面から受け止める。
ガキィン!
金属がぶつかり合うような音がした。
ふわふわ棒と長剣が、激しくぶつかる。
衝撃波が、周囲に広がった。
観客席の前列まで、風が届いた。
「……受け止めた」
レオナルドが、信じられないという顔をしていた。
雷光斬は、彼の必殺技だった。
これまで、受け止めた者はいなかった。
「すごい技ですね」
「受け止めるな……普通は」
「すみません。反射的に」
「反射的に……はは」
レオナルドが、笑った。
乾いた笑いだった。
「お前、本当に何者だ」
「人間です。たぶん」
「たぶん……」
「はい。たぶん」
ルーカスが、真顔で答えた。
レオナルドは、その答えに言葉を失った。
* * *
試合は、さらに続いた。
二人の戦いは、もはや常人の域を超えていた。
レオナルドは、持てるすべての技を繰り出した。
ルーカスは、すべてを受け止め、反撃した。
しかし、ルーカスは気づいていた。
レオナルドの動きが、少しずつ鈍くなっていることに。
体力の限界が、近づいていた。
「レオナルドさん、大丈夫ですか」
「うるさい。まだ戦える」
「でも、息が乱れています」
「だからどうした。試合は、終わっていない」
「……」
レオナルドは、諦めなかった。
体力が尽きかけていても、戦い続けた。
その姿に、ルーカスは心を打たれた。
これが、戦士だ。
最後まで諦めない。
全力で、戦い抜く。
それが、レオナルドの生き方だった。
「分かりました。最後まで、付き合います」
「当然だ」
ルーカスが、構え直した。
レオナルドも、構え直した。
二人は、お互いを見つめた。
「行くぞ」
「はい」
二人が、同時に動いた。
最後の攻防が、始まった。
* * *
レオナルドが、渾身の一撃を放った。
全身の力を込めた、最強の一撃。
これで、勝負を決める。
そう思っていた。
ルーカスは、その攻撃を見切った。
そして、カウンターを放った。
ふわふわ棒が、レオナルドの胸に向かう。
当たる直前、ルーカスは力を抜いた。
軽く、当てる。
相手を傷つけない程度に。
ボフッ。
柔らかい音がした。
ふわふわ棒が、レオナルドの胸に当たった。
しかし、レオナルドは倒れなかった。
ふらりと、よろめいただけだった。
「……手加減、したな」
「すみません」
「謝るな。それが、お前の答えか」
「はい」
「……そうか」
レオナルドが、長剣を下ろした。
その顔には、複雑な表情が浮かんでいた。
悔しさと、納得が混ざり合っていた。
「俺の負けだ」
「え……」
「体力の限界だ。これ以上は、戦えない」
レオナルドが、膝をついた。
息が荒い。
全身に、汗が滴っている。
限界だった。
「勝者、第三王子ルーカス殿下!」
審判が、宣言した。
観客席から、大きな歓声が上がった。
誰もが、この試合に感動していた。
* * *
「レオナルドさん、大丈夫ですか」
ルーカスが、手を差し出した。
レオナルドは、その手を取って立ち上がった。
「お前、強いな」
「レオナルドさんも、強かったです」
「だが、お前の方が上だった」
「……」
「最後に、手加減しただろう」
「はい。すみません」
「謝るな。それが、お前の優しさだ」
レオナルドが、にやりと笑った。
「俺は、お前を認める」
「認める……」
「ああ。お前は、強い。そして、優しい。それは、武人として最高の資質だ」
「ありがとうございます」
「決勝も、頑張れ。俺の分まで」
「はい。頑張ります」
二人は、握手を交わした。
観客席から、また歓声が上がった。
* * *
控え室に戻ると、セラが待っていた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「殿下、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「すごい試合でした」
「力を出しすぎたかもしれません」
「いいえ。殿下の本気を、見られて良かったです」
セラが、微笑んだ。
ルーカスも、微笑んだ。
「明日は、決勝ですね」
「はい」
「相手は、誰でしょうか」
「まだ分かりません。もう一つの準決勝の結果を待ちましょう」
「そうですね」
二人は、しばらく黙っていた。
疲れた身体を、休ませていた。
「殿下」
「はい」
「今日の試合、本当に良かったです」
「そうですか」
「はい。殿下が、本気で戦っている姿を見て、私は嬉しかったです」
「……」
「殿下は、いつも力を抑えています。でも、今日は違いました。全力で戦っていました」
「レオナルドさんが、本気で来てくれたので」
「はい。彼は、良いライバルですね」
「そうですね」
ルーカスが、頷いた。
レオナルドとの戦いは、自分にとって大きな経験になった。
全力で戦う喜び。
認め合う喜び。
それを、教えてもらった。
「明日も、全力で戦います」
「はい。応援しています」
「ありがとうございます、セラ」
「……はい、ルーカス」
二人は、お互いの名前を呼び合った。
その声には、深い信頼が込められていた。
実技祭も、残りわずか。
明日は、決勝だ。
最後の戦いが、待っている。




