第24話:ライバルキャラ登場(一方的に敵視される)
本選二日目の朝。
ルーカスは、いつも通り朝食を済ませ、闘技場に向かっていた。
今日は、三回戦が行われる。
「殿下、調子はいかがですか」
「はい。昨日よりは、力加減のコツが分かってきた気がします」
「良かったです」
セラと並んで歩く。
朝の空気は、爽やかだった。
しかし、その平穏は長くは続かなかった。
「待て!」
突然、声が響いた。
ルーカスとセラは、立ち止まった。
振り返ると、一人の青年が立っていた。
背が高く、筋肉質な体格。
金髪を後ろに撫でつけ、鋭い目つきをしている。
胸には、剣術部のバッジがついていた。
「お前が、第三王子ルーカスか」
「はい。そうですが……」
「俺は、レオナルド・フォン・アルブレヒト。剣術部のエースだ」
「剣術部のエース……」
ルーカスは、その名前を聞いたことがあった。
学院最強の剣士と噂される人物だ。
三年生で、昨年の実技祭では剣術部門で優勝している。
「レオナルド殿、何か用ですか」
セラが、警戒した様子で言った。
レオナルドは、セラを一瞥した。
そして、視線をルーカスに戻した。
「お前に、宣言しに来た」
「宣言……?」
「俺は、この実技祭で、お前を倒す」
「……」
ルーカスは、困惑した。
倒す?
なぜ?
「あの、レオナルドさん。僕、何かしましたか」
「何もしていない。だが、お前は俺の前に立ちはだかる存在だ」
「立ちはだかる……」
「昨日の試合、見た。ふわふわ棒で相手を吹っ飛ばし、触れずに勝ち、判定で勝つ。どれも異常だ」
「異常……」
「お前は、強い。それは認める。だが、俺の方が強い」
レオナルドが、自信満々に言った。
その目には、炎のような闘志が宿っていた。
「だから、俺がお前を倒して、学院最強を証明する」
「はあ……」
「準決勝か決勝で当たるはずだ。そのとき、全力で来い。手加減するな」
「手加減……」
「お前は、力を抑えているな。見れば分かる。だが、俺には通用しない。全力で来い」
レオナルドが、そう言い残して去っていった。
ルーカスとセラは、呆然と見送った。
* * *
「何だったのでしょうか……」
しばらくして、ルーカスが呟いた。
セラも、首を傾げていた。
「ライバル宣言……でしょうか」
「ライバル……」
「はい。殿下を倒すべき相手として、認識しているようです」
「なぜ?」
「殿下が強いからでしょう」
「でも、僕は目立たないようにしているのですが」
「その『目立たないようにする努力』が、逆に目立っているのです」
セラが、苦笑した。
ルーカスも、苦笑した。
「困りましたね」
「はい。レオナルド・フォン・アルブレヒトは、学院最強と言われています。彼に目をつけられたのは、まずいかもしれません」
「まずい……」
「はい。彼と戦えば、力を隠すのは難しいでしょう」
「全力で来い、と言われましたし」
「そうですね……」
二人は、考え込んだ。
レオナルドと戦えば、力を見せざるを得ない。
力を見せれば、さらに注目される。
そして、監察官たちに「証拠」を与えることになる。
「どうしましょうか」
「……難しいですが、避けることはできません。もし準決勝か決勝で当たったら、戦うしかありません」
「はい」
「そのときは、力加減を上手くやりましょう」
「やってみます」
ルーカスが、頷いた。
しかし、不安は消えなかった。
* * *
三回戦の会場。
観客席は、昨日よりもさらに賑わっていた。
本選の三回戦ともなると、実力者同士の戦いが増える。
観客の期待も高まっていた。
「次の試合、第三王子ルーカス殿下対、マルティン・ホフマン」
審判の声が響いた。
ルーカスは、ふわふわ棒を持って闘技場に入った。
「また、ふわふわ棒か……」
「あれで三回戦まで来たのか……」
「今度の相手は強いぞ。ホフマンは騎士科のホープだ」
観客席から、囁き声が聞こえる。
対戦相手のマルティン・ホフマンは、騎士科の二年生だった。
均整の取れた体格で、落ち着いた表情をしている。
手には、標準的な木剣を持っていた。
「殿下、お手合わせ願います」
「よろしくお願いします」
二人が、構えを取った。
「試合、開始!」
審判の合図。
マルティンが、じりじりと距離を詰めてくる。
慎重な動きだ。
ルーカスの試合を、よく研究しているのだろう。
「殿下、お聞きしたいのですが」
「何ですか」
「なぜ、ふわふわ棒を使っているのですか」
「安全だからです」
「安全……なるほど」
マルティンが、少し笑った。
しかし、その目は真剣だった。
「では、私は普通に戦わせていただきます」
「お願いします」
マルティンが、攻撃を仕掛けてきた。
木剣が、横から薙がれる。
速い。
しかし、見える。
ルーカスは、後ろに下がって避けた。
そして、ふわふわ棒を振った。
軽く、当てる。
ボフッ。
マルティンの腕に、ふわふわ棒が当たった。
軽い音がした。
しかし、マルティンは動じなかった。
「効きませんね」
「はい。力を抑えていますので」
「では、もう少し強く打ってください」
「でも……」
「大丈夫です。私は、簡単には倒れません」
マルティンが、自信を持って言った。
ルーカスは、少し考えた。
そして、頷いた。
「分かりました。少しだけ、強く打ちます」
「お願いします」
試合が、再開された。
マルティンが攻撃し、ルーカスが避ける。
ルーカスが反撃し、少し強く当てる。
ボフッ、という音が響く。
しかし、マルティンは倒れない。
「もう少し、強くても大丈夫ですよ」
「本当ですか」
「はい」
ルーカスは、力を少し上げた。
ふわふわ棒が、マルティンの胴体に当たる。
ドスッ。
今度は、少し重い音がした。
マルティンが、一歩後ろに下がった。
しかし、倒れなかった。
「いい威力です。でも、まだ耐えられます」
「すごいですね」
「鍛えていますから」
マルティンが、にやりと笑った。
そして、攻撃を再開した。
試合は、白熱していった。
マルティンの攻撃は、どんどん激しくなる。
ルーカスも、それに応えて反撃する。
力加減が、少しずつ上がっていく。
* * *
「いい試合だな……」
観客席で、レオナルドが試合を見ていた。
その隣には、剣術部の副部長がいた。
「ホフマンも、なかなかやりますね」
「ああ。だが、第三王子の方が上だ」
「そうですか?」
「見れば分かる。まだ、本気を出していない」
レオナルドの目が、鋭く光った。
闘技場では、ルーカスとマルティンの戦いが続いていた。
「あのふわふわ棒、見かけによらず威力がある」
「柔らかいのに、不思議ですね」
「武器の問題じゃない。使い手の問題だ」
「使い手……」
「第三王子は、力を抑えている。それでも、あの威力だ。本気を出したら、どうなるか」
レオナルドが、にやりと笑った。
その笑顔には、闘志が溢れていた。
「楽しみだ。奴と戦うのが」
「レオナルド、あまり無茶をしないでくださいよ」
「無茶はしない。ただ、全力で戦うだけだ」
レオナルドが、立ち上がった。
自分の試合の準備をするために。
* * *
闘技場では、試合が佳境に入っていた。
マルティンの攻撃が、さらに激しくなる。
連続技、フェイント、変則的な角度からの攻撃。
あらゆる技を駆使して、ルーカスに迫ってくる。
ルーカスは、すべてを見切っていた。
しかし、反撃するたびに、力加減に悩んでいた。
強すぎれば、相手を傷つける。
弱すぎれば、ダメージを与えられない。
その中間を探っていた。
「殿下、もう少し本気で来てください」
「これでも、結構本気なのですが」
「嘘でしょう。まだ余裕があるじゃないですか」
「……」
マルティンの言葉は、正しかった。
ルーカスには、まだ余裕があった。
しかし、それ以上の力を出すのは、怖かった。
「では、少しだけ」
ルーカスが、構えを変えた。
ふわふわ棒を、両手で握る。
少しだけ、力を入れる。
マルティンが、攻撃を仕掛けてきた。
ルーカスは、それを避けて、カウンターを放った。
ドンッ。
重い音がした。
ふわふわ棒が、マルティンの胸に当たった。
マルティンが、大きく後ろに吹っ飛んだ。
しかし、彼は空中で体勢を整え、着地した。
「……今のは、効きました」
「大丈夫ですか」
「はい。でも、もう一発は耐えられないかもしれません」
マルティンが、苦笑した。
胸を押さえている。
息が乱れていた。
「続けますか」
「もちろん」
マルティンが、再び構えを取った。
その目には、諦めの色がなかった。
むしろ、闘志が燃えていた。
「殿下、私は負けません」
「分かりました」
「最後まで、戦わせてください」
「はい」
二人が、再び向き合った。
観客席から、歓声が上がった。
熱い試合に、皆が興奮していた。
* * *
試合は、さらに続いた。
マルティンは、何度も攻撃を仕掛けてきた。
しかし、ルーカスには当たらなかった。
ルーカスの反撃は、確実にマルティンを削っていった。
そして、ついに。
「ぐっ……」
マルティンが、膝をついた。
体力の限界だった。
ルーカスの攻撃を、何度も受け続けた結果だ。
「勝者、第三王子ルーカス殿下!」
審判が、宣言した。
会場から、拍手が起こった。
「マルティンさん、大丈夫ですか」
ルーカスが、駆け寄った。
マルティンは、顔を上げて笑った。
「大丈夫です。いい試合でした」
「ありがとうございます」
「殿下、強いですね。本当に」
「いいえ。マルティンさんも、強かったです」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
マルティンが、立ち上がった。
二人は、握手を交わした。
「準決勝、頑張ってください」
「はい。ありがとうございます」
マルティンが、闘技場を去っていった。
ルーカスは、その背中を見送った。
* * *
「殿下、三回戦突破おめでとうございます」
セラが、控え室で待っていた。
ルーカスは、少し疲れた表情で座った。
「ありがとうございます。でも、力加減が難しかったです」
「見ていました。マルティン殿は、強い方でしたね」
「はい。最後まで諦めずに戦ってくれました」
「そういう相手がいると、殿下も力を出しやすいのではないですか」
「そうかもしれません」
ルーカスが、少し微笑んだ。
「次は、準決勝ですね」
「はい」
「対戦相手は、誰でしょうか」
「おそらく……」
セラが、言いかけたとき、控え室の扉が開いた。
「第三王子殿下、準決勝の対戦相手が決まりました」
係員が、告げに来た。
その名前を聞いて、ルーカスは息を呑んだ。
「レオナルド・フォン・アルブレヒトです」
* * *
「やはり……」
セラが、顔を曇らせた。
ルーカスも、複雑な表情を浮かべた。
「レオナルドさんと、当たりましたか」
「はい。準決勝で」
「……」
朝の宣言が、現実になろうとしていた。
レオナルドは、自分を「倒すべき相手」として認識している。
全力で戦え、と言っていた。
「殿下、どうしますか」
「どう、とは」
「力を抑えて戦いますか。それとも、全力で戦いますか」
「……」
ルーカスは、考え込んだ。
力を抑えれば、レオナルドを失望させるかもしれない。
全力で戦えば、異常さがさらに露呈する。
「分かりません」
「殿下……」
「でも、逃げたくはありません」
「逃げる……」
「はい。レオナルドさんは、真剣に僕と戦おうとしています。その気持ちを、無駄にしたくありません」
「……」
「だから、できる限り、真剣に戦います」
ルーカスが、決意を込めて言った。
セラは、しばらく黙っていた。
そして、頷いた。
「分かりました。私は、殿下を応援します」
「ありがとうございます」
「でも、くれぐれも、怪我をしないでください」
「大丈夫です。僕は、頑丈ですから」
「そうですね……」
セラが、少し笑った。
ルーカスも、笑った。
準決勝は、明日だ。
レオナルド・フォン・アルブレヒトとの戦いが、待っている。
それは、ルーカスにとって、大きな試練になるだろう。
しかし、逃げるつもりはなかった。
人間として、正々堂々と戦う。
それが、自分の目指す道だから。
「明日、頑張ります」
「はい。応援しています」
二人は、お互いを見つめた。
その目には、信頼と決意が宿っていた。
実技祭は、まだ続く。
そして、最大の試練が、近づいていた。




