表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしとんでもロボが異世界の第三王子に転生したら  作者: とま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/24

第18話:怪物化の兆候が"見える"事件

 その日は、いつもと変わらない一日のはずだった。




 午前中の授業を終え、昼食を済ませ、午後の訓練に向かう。


 セラと並んで訓練場を歩いていたとき、それは起きた。




「殿下、今日は防御の練習を……殿下?」


 セラが、急に言葉を止めた。


 ルーカスの顔を、じっと見つめている。


 その目には、驚きと恐怖が入り混じっていた。




「セラさん? どうしました」


「殿下、腕が……」


「腕?」


 ルーカスは、自分の腕を見下ろした。


 そして、息を呑んだ。




 皮膚に、金属のような光沢が走っていた。


 一瞬のことだったが、確かに見えた。


 銀色の、冷たい輝き。


 人間の皮膚ではない、何か別のものの光。




「……なんですか、これは」


「殿下、見えましたか」


「はい。一瞬ですが……」


「私も、見えました」


 二人は、お互いを見つめた。


 沈黙が、重くのしかかる。




「これは……」


「『自己修復』の……進行、だと思います」


「進行……」


「はい。殿下の身体が、変化している証拠です」


 セラの声が、震えていた。


 ルーカスは、自分の腕を見つめた。


 今は、普通の皮膚に見える。


 しかし、さっき見えたものは、幻ではなかった。




「見た人は、いますか」


「分かりません。私は、すぐに気づきましたが……」


「周りに、誰かいましたか」


 二人は、周囲を見回した。


 訓練場の入り口付近に、数人の生徒がいた。


 彼らが、こちらを見ていたかどうかは、分からない。




「……まずいですね」


「はい。もし見られていたら……」


「噂が広まります。そして、教会に報告されます」


 セラが、顔を青くしている。


 ルーカスも、深刻な状況だと理解していた。




 金属のような皮膚。


 それは、「怪物化」の兆候として、最も分かりやすいものだ。


 教会の保守派が、これを知ったら、黙っていないだろう。


 「禁忌」としての認定が、一気に現実味を帯びてくる。




「どうしましょうか」


「まず、見られたかどうかを確認します」


「どうやって」


「あの生徒たちに、さりげなく聞いてみます」


 セラが、覚悟を決めた顔で言った。


 そして、訓練場の入り口に向かって歩き始めた。




 * * *




 セラが戻ってきたのは、数分後だった。


 その表情は、複雑だった。




「どうでしたか」


「一人だけ、見ていたようです」


「……」


「ただ、『何か光ったような気がした』程度で、詳しくは見ていないみたいです」


「そうですか……」


「その生徒には、『日差しの反射だ』と説明しておきました」


「信じてくれましたか」


「たぶん。半信半疑でしたが、深く追及はしてきませんでした」


 セラの説明に、ルーカスは少し安堵した。


 しかし、完全に安心はできない。


 その生徒が、後で誰かに話すかもしれない。


 そうなれば、噂が広まる。




「セラさん、僕はどうすればいいでしょうか」


「……分かりません。でも、これ以上の変化を防ぐ方法を、考えなければなりません」


「変化を防ぐ……」


「マーガレット先生が言っていました。刺激が多いほど、進化が速くなると」


「はい」


「つまり、刺激を減らせば、進化を遅くできるかもしれません」


「刺激を減らす……」


 それは、以前も話し合ったことだ。


 しかし、学院生活で刺激を完全に避けることは難しい。


 授業、訓練、食事。


 すべてが、刺激の源だ。




「でも、完全には避けられません」


「分かっています。だから、できる範囲で、です」


「できる範囲で……」


「例えば、激しい運動を控える。感情の起伏を抑える。ノイズの多い場所を避ける」


「なるほど……」


 セラの提案を、ルーカスは頭に刻んだ。


 激しい運動を控える。感情の起伏を抑える。ノイズを避ける。


 それらを実践すれば、進化を遅らせられるかもしれない。




「やってみます」


「はい。私も、協力します」


「ありがとうございます」


 ルーカスが、頭を下げた。


 セラが、小さく微笑んだ。


 しかし、その笑顔には、不安の色が隠しきれなかった。




 * * *




 その日の夕方、噂は学院中に広まっていた。




「聞いた? 第三王子が、また何かやったらしいよ」


「何何?」


「訓練場で、腕が光ったんだって」


「光った?」


「金属みたいに、キラキラって」


「それ、本当?」


「見た人がいるって」




 ルーカスの耳に、その囁き声が聞こえてきた。


 やはり、噂になってしまった。


 あの生徒が、誰かに話したのだろう。




「殿下……」


 隣にいたセラが、顔を曇らせた。


 ルーカスも、重い気持ちになった。




「広まってしまいましたね」


「はい。どうしましょうか」


「……否定しても、信じてもらえないでしょう」


「では、どうしますか」


「冗談にするしかないでしょう」


 ルーカスが言った。


 以前、噂を笑い話にする方法を学んだ。


 今回も、それを試すしかない。




「腕が光った、ですか。では、僕は本当に鉄でできているのかもしれませんね」


「殿下……」


「冗談ですよ」


 ルーカスが、微笑んだ。


 しかし、その笑顔は、少しぎこちなかった。




 * * *




 翌日、教会の監察官から呼び出しがあった。


 ルーカスは、覚悟を決めて、監察官の執務室に向かった。




「失礼します」


 扉を開けると、ヴィンセント・モローが待っていた。


 黒い衣を着た、冷たい目の男。


 以前の安全講習で、ルーカスを追及した人物だ。




「お座りください、殿下」


「はい」


 ルーカスは、指示された椅子に座った。


 ヴィンセントは、じっとルーカスを見つめていた。


 その視線は、獲物を狙う狩人のようだった。




「昨日のことについて、お聞きしたいことがあります」


「何でしょうか」


「殿下の腕が、金属のように光った、という報告がありました」


「……」


「事実ですか」


 直球の質問だった。


 ルーカスは、どう答えるべきか考えた。


 否定すれば、嘘をつくことになる。


 肯定すれば、「異常」を認めることになる。




「日差しの反射だと思います」


「日差しの反射……」


「はい。訓練場は、日当たりが良いので」


「しかし、目撃者は『金属のような光沢』と言っています」


「私は見ていないので、分かりません」


 ルーカスが答えた。


 嘘ではない。


 自分の腕を「見て」はいない。


 ただ、「感じて」はいたが。




 ヴィンセントの目が、細くなった。


 何かを見抜こうとしているようだった。




「殿下、一つお聞きしてもいいですか」


「何でしょうか」


「殿下は、自分が『普通の人間』だと思っていますか」


「……」


 また、核心を突く質問だった。


 ルーカスは、少し考えてから答えた。




「私は、人間です」


「それは、質問の答えになっていません」


「私は、人間として生きようとしています。それが、私の答えです」


 ルーカスが、まっすぐにヴィンセントを見た。


 ヴィンセントの表情が、一瞬だけ揺らいだ。




「……なるほど」


「他に、質問はありますか」


「いいえ。今日は、これで結構です」


「では、失礼します」


 ルーカスが立ち上がり、部屋を出ようとした。


 そのとき、ヴィンセントが言った。




「殿下、一つだけ忠告を」


「何でしょうか」


「『人間として生きようとしている』と言いましたが、それが叶わなくなる日が来るかもしれません。そのとき、どうするか、今から考えておくことをお勧めします」


「……」


「失礼しました」


 ヴィンセントが、冷たく笑った。


 ルーカスは、何も言わずに部屋を出た。




 * * *




 廊下で、セラが待っていた。


 心配そうな顔で、ルーカスを見ている。




「殿下、大丈夫でしたか」


「はい。大丈夫です」


「何を聞かれましたか」


「昨日のことです。腕が光った、と」


「どう答えましたか」


「日差しの反射だと」


「……信じてもらえましたか」


「分かりません。でも、証拠はないはずです」


 ルーカスが答えた。


 セラが、少し安堵した表情を浮かべた。




「でも、監察官は諦めていないようです」


「はい」


「『隔離申請』の書類を作り始めているかもしれません」


「隔離申請……」


「殿下を『禁忌』として、隔離するための手続きです」


「……」


 ルーカスは、その言葉の重さを噛み締めた。


 隔離。


 それは、学院から追い出されることを意味する。


 あるいは、もっと悪いことを。




「怖いですか」


 セラが、静かに問いかけた。


 ルーカスは、少し考えてから答えた。




「怖いです。でも、諦めたくはありません」


「諦めない……」


「はい。僕は、人間として生きたいのです。どんなに身体が変わっても、心は人間のままでいたい」


「殿下……」


「セラさんが教えてくれました。心が人間なら、人間だと」


「……」


「僕は、それを信じます。だから、諦めません」


 ルーカスが、まっすぐにセラを見た。


 セラの目に、涙が浮かんでいた。




「殿下……私は、殿下の味方です」


「分かっています」


「何があっても、離れません」


「ありがとうございます」


「だから……一緒に、頑張りましょう」


 セラが、涙を拭いながら言った。


 ルーカスは、その手を取った。


 手袋越しでも、温かさが伝わってきた。




「頑張りましょう、セラさん」


「はい」


 二人は、お互いの手を握り合った。


 困難は、まだまだ続くだろう。


 しかし、一人ではない。


 セラがいてくれる。


 それだけで、前に進む力が湧いてくる。




 窓の外では、夕日が沈み始めていた。


 赤い光が、廊下を照らしている。


 明日も、また一日が始まる。


 その一日を、人間として生きていく。


 ルーカスは、そう決意した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ