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縁談

 -Celestine-




「セレス、出戻りのお前でも、ご承知くださったんだ。嫁に行け」

「本当にいいご縁なのよ、黒竜ドレイグ公のご子息がご承知くださったのよ! こんな幸運、二度とおこらないわよ! 今度こそ幸せになりなさい」


 ……その言い方はないんじゃない? という不満は表情だけにとどめた。


「父上、母上……わたしはそんなに邪魔ですか?」

「邪魔だ」

「邪魔よ」


 がーん!


 嘘でしょ……領政をあれこれと手伝ってあげているし、父上が苦手な財政管理もしっかりとみてあげているのに、邪魔だったなんて……。


 両親そろって、わたしを邪魔だと思っているだけでなくて本人に言っちゃうほどに困ってたなんて!


 父上は、ショックで黙りこむわたしの正面に椅子を引き寄せ腰掛ける。そして、わたしをまっすぐに見て、こう言った。


「そろそろ、アレクシスに当主を譲りたいのだ……しかしお前がいて、アレクシスよりもテキパキと難事を片付けてしまうとな……あいつの立場がない。あいつの嫁もいい気がしない」


 兄と、兄嫁にも、わたしは疎まれていたとは……。


 感謝されてもいいくらいなのに!


 あんたらが! お茶だ、武芸大会だ、狩りだ、帝都出張だと遊べていたのは、わたしが代わりに領地で政務に軍務に真面目に取り組んできたからでしょうが!


 ショックから、怒りへと表情を変えたわたしを、父上はまっすぐに見て言を続ける。


「だから、嫁に行け。今度こそ、帰ってくるなよ」


 がーん!


 言い方! 言い方に気を付けて!


 言葉ひとつで人の気持ちは変わるというもの……わたしは身をもって知ることになった。


「父上……わたしの為ではなく、兄上たちの為だったのですね?」

「そうだ」


 否定しないところが父上らしい。


 だけど、父上はこうも続けた。


「しかし、お前のためでもある。儂のほうが先に逝く。この場合、アレクシスが当主となっているだろうが、お前の立場はなくなるだろう」

「そうよ、お父様はあなたの為をおもって、水面下でいろいろと動いてくれていたのですよ」


 両親の言葉に、そういう心配をしてくれていたところには、感謝してもいいのではないかと自らに言い聞かせた。


 仕方ないし、どうしようもないし、嫌がられながら実家で暮らすのも気分悪いので、不安と怒りはあれども、進むしかないのだ。


「わかりました。お話を進めてください」

「ああ! よかった。すぐに進めましょう!」


 母上の喜びを、わたしは悲しい思いと表情で見ているのだ……。


「うむ……セレス……セレスティーヌ」


 父上から、愛称ではなく名前を呼ばれて緊張する。


 寂しくなるとか、たまには帰って来いとか、そういう言葉を期待していたけど、違った。


「……今度こそ、本当に帰ってくるなよ」


 わたしは、瞼を閉じて天井を仰いだ。




 -Celestine-




 十五歳の時に、政略結婚で隣国の王家に嫁いだのが初婚だ。この時、我が国とその国が戦争になり、わたしは人質として殺されてもおかしくなかったが、当時の夫であった隣国の王弟がわたしを逃がしてくれて、殺されずに済んだのである。


 十七の時だった。


 次は十八の時に、今度も政略結婚で国内の大貴族であるシュバイク侯の次男に嫁いだのだけども、この次男は女性がダメで、男性が好きな人だったこともあり、わたしは形ばかりの妻として過ごすことになった。しかし、その形ばかりの夫婦関係も、夫から離縁を告げられて終了となる。生理的に無理と言われた時のショックは、今もうまく説明できない……十九歳の時だった。


 次は……次もある。次は政略ではなく……二十歳の時に舞踏会で誘われて、お互いに気に入って……結婚したのだけれど、夫は浮気癖がひどく、わたしから離縁を申し出て、実家に戻ったのだ。


 戻ったのは、二十二歳の時だ。


 次……男なんてもう不要だと思っていたけど、親族の紹介で嫁ぎ先が決まったのが二十四歳の時で、国内でも知られた魔法学の権威たる学者の息子が相手だった。もともと魔法は大得意だったので、今度こそと懸命に妻を頑張ったが、頑張りすぎたようだ……。


「僕は、のんびりとしている女性が好きだ。君みたいに、あれこれと片付けて、僕の書斎の本を全て読破し論文まで書いてしまって、マカレ教授と研究に関して手紙を交換してしまうような女性といるのは、重圧を感じるんだ。疲れるんだよ」


 学者の妻になろうと……頑張ったのに……一年で離縁を伝えられた。


 しかも、その元夫は、私と別れてすぐに再婚……ほんわかとしたかわいらしい女性と再婚したと聞く。


 わたしの研究は……夫の名前で世に出ていて……とてつもなく高い評価を受けて……泣ける!


 ええい!


 もうええ! 結婚なんてしらん! 夫なんていらん! わたしは実家で生きていく! この家で、わたしの居場所を作ってやるんだ! と頑張ったら、今度は実家から追い出されてしまうことになってしまった。


 黒蝶ベラウラ公爵の娘、セレスティーヌ・ヴェルヴィラ、二十八歳の春。


 五度目の結婚……。


 しかし、どうしてわたしなんだろう?


 ヴァスラ帝国の黒竜ドレイグ公爵家……そのご子息が……四人兄弟の一番下の男子と聞いたけど……家を継がないから本当に単純に、黒竜ドレイグ公爵家と黒蝶ベラウラ公爵家の関係強化が狙いとしても、バツ四のわたしを迎える? 


 出戻りを繰り返すわたしを選ぶ?


 本命は他にいて、政略でわたしとってことかな? だったら納得だわ。


 なんせ、四回も失敗した女なんだもの……うぅ……自虐も笑えない。


 ただ、この四男……アリアス様は不思議な人というか、かなり変わった人というか……変人と聞く。


 そういう人だから、今回のことも承知してくれたとしても、そういう人だから……また破綻するんじゃないかしらぁああああああああ!


 ……幸せになりたい。


 ちがう、願望じゃだめだ。


 幸せになるんだ。


 頑張りすぎないように、頑張ろう。


 ん? 言葉がおかしいけど……ま、いっか。


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