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浮気相手




「『リカルド ファーベルク』……!?」



 アイスナー子爵夫妻とハーマン子爵がその名を聞き凍りついた。

 ……勿論メラニーも。今メラニー側の証拠の為に協力を仰いでいる『リカルド』の存在に気付かれたのかとヒヤリとしてディートマーを見た。


 しかしディートマーはそれに気付く事なく、自分に都合良く弱小伯爵家の三男ならそんないい加減な行いもあり得ると納得されたのかと勘違いし、いつものように朗々と話し出した。



「……そうです! 僕の大切な人達の僕への裏切り……! 本当にショックで落ち込みました……。そんな時に僕の心を癒してくれたのがシルフィです。だから僕たちは潔白なのです! そしておそらく今回のその『証拠』もきっとなにかの誤解に違いないのです!」



 身振り手振りを加えて悲劇の主人公のように語るディートマー。そしてそれにハーマン子爵夫人も加勢した。



「そうですわ! それはきっと誤解に違いありません! 何よりディートマーはメラニーと友人の裏切りにずっと心を痛めておりましたのよ! こんな優しい子がそんな誤解を受けるなんて……! 可哀想に、なんて酷い話なのでしょう!」



 ここぞとばかりにその理屈でこの場を乗り切ろうとする子爵夫人とディートマーに呆れつつ、『リカルド ファーベルク』が浮気相手だと名が出てから顔を青くするハーマン子爵と戸惑った様子の自分の両親にメラニーは違和感を持つ。


 ……これは、リカルドと私の関係が疑われての反応ではないわよね? 学園でも一番の成績を取るリカルドはそれだけ周りから信用されているということ?



 そして自分の父とアイスナー子爵夫妻の様子を見て自分の勝利を確信したのか、ディートマーは更に言い募った。



「メラニー! 君が同じクラスのリカルドと浮気していた事は分かっているんだ! 僕は見てしまったんだよ、2人が抱き合っている所を! ……最近学園で僕と関わらなくなったと思ったらいつの間にかそんな関係になっていたなんて……。僕は悲しいよメラニー。まさか婚約者と親友に裏切られるなんて……」



「メラニー、貴女も酷い女だけれど、そのリカルドも相当なクズね!! たかが貧乏伯爵家の三男坊が……!」




「───随分な言われようですね」



 その時突然扉が開き現れたのは、今まさにハーマン子爵夫人とディートマーにボロクソに悪口を言われていたリカルドだった。……その後ろからはそろりと弟スティーブも顔を出し苦虫を潰したような表情をした。



 リカルドはニッコリと笑い部屋に入って来た。


 しかし彼が物凄く怒っているのが分かった。一見冷たく見える銀髪に青い瞳のリカルドの微笑みは周りの温度を引き下げた……ように感じた。メラニーは背筋が凍るような思いだった。



「……な……っ! リカルド!?」



 最初2人は思い切り悪口(しかも事実無根)を聞かれて動揺したようだったが、すぐに持ち直し偉そうにリカルドに言った。



「……お前、何でここにいる!? やはりお前達2人は浮気していたんだな!」



 ディートマーはアイスナー子爵家に現れたリカルドにこれ幸いと罪をなすり付けようとして来た。

 それを聞いたリカルドは鼻で笑った。



「───ふっ……。また何を言い出すかと思えば……。ディートマー、君は本当に昔から変わらないな。言うに事欠いて僕とメラニーの不貞を言い出すなんて」



「しらばっくれるなリカルド! お前こそ昔から僕に迷惑ばかりかけて来ておいて、まさか僕の婚約者に手を出すなんて! ずっと君を庇って来たけれど、……もしかしてそんな僕を逆恨みしていたのか!?」



「僕が君に迷惑を? 君が僕に迷惑をかけたの間違いだろう? ……その報告書にもそう記載されているはずだが」



 リカルドは横目でディートマーの持っている証拠の書類を見て言った。



「なんだと!? ……そうか分かったぞ、お前だな! この報告書に嘘八百を書かせたのは! 伯爵家の力を使ったのか? なんて汚い奴だ!」


「やめないかディートマー!!」



 ハーマン子爵は息子を必死で止めるが、目の前のリカルドに罪をなすり付ける事しか頭に無いディートマーは止まらない。



「何故止めるのですか! 父上! この男は僕の親友の皮を被った裏切り者ですよ!? 僕の婚約者を奪ったばかりかこんな嘘の報告書まで作らせるなんて!」



「そうですわ、貴方! 貴方の可愛い息子が陥れられようとしておりますのよ!? なんとか言ってやってくださいませ!」



「…………我が家で醜い親子喧嘩はやめていただこうか!!」



 アイスナー子爵がこの部屋での大騒ぎに一喝した。……とても聞いていられないと思ったのだろう。



 しかし尚もディートマー母子は何かを言っていたが「他家で大騒ぎするとは貴族の風上にもおけん!!」とアイスナー子爵はまた喝を入れた。そしてリカルドに向かって礼をした。

 ……その間にハーマン子爵は慌尚も騒ごうとする息子の口を慌てて塞いだ。



「ファーベルク殿。……わざわざおいでいただきましたのにこのような騒ぎに巻き込みまして誠に申し訳ございません」



 リカルドに丁寧に対応するアイスナー子爵に、ディートマーとハーマン子爵夫人は「は?」と思いゆっくりとリカルドを見た。


 ファーベルク家は伯爵家とはいえリカルドは三男で継ぐ家もないただの子息。何故子爵家当主がそんなに遜るのか? と疑問に思う彼らを他所に、更にアイスナー子爵は言った。



「───改めまして此度は兄上様の公爵ご叙爵、誠におめでとうございます」

「おめでとうございます」



 アイスナー子爵夫妻はそう言ってリカルドに深々と礼をした。



「───? お父様?」



 いきなりクラスメイトに対し礼をする両親を見てメラニーも驚いて声をかけた。

 それを見てアイスナー子爵も娘を見て意外そうな顔をした。



「メラニー? お前は分かっていて彼を連れて来たのではないのか?」



「……なんの話ですか? 私はディートマーと幼馴染で私と似た境遇だったリカルド様のご協力をお願いしましたが……。リカルド様のお兄様が公爵家を叙爵? いったいどういう事で……私は何を、見過ごしていたのでしょうか」



 メラニーはなにか重要な事を見逃してしまっている? それに公爵家を伯爵家の子息が継ぐというのはどういう事なのか。


 ……先程リカルドがアイスナー子爵家を訪れた時から両親は彼を下にも置かない丁重な扱いをしていた。あの時は我が家に味方してくれるリカルドに感謝して、だと思っていたのだけれど……。


 

お読みいただき、ありがとうございます!


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