ハーマン子爵家
そこからのアイスナー子爵家の動きは早かった。
メラニーとの話の後すぐに信頼出来る者にディートマーやハーマン子爵家の事を調べさせた。
……結果は意外にもすぐに出た。ディートマーの浮気は黒。婚約解消する数ヶ月も前から学園で彼と同じクラスのシルフィという女生徒と付き合っていたそうだ。
そして今までディートマーが何か悪さをしてはメラニーや周囲の立場の弱い者達に責任転嫁をしていた証言もハーマン子爵家を辞めた使用人達や友人達からも聞く事が出来た。
証拠を固めたアイスナー子爵は早速ハーマン子爵家に使者を出し、ディートマーの言い出した『婚約破棄』の事実確認。それが事実ならば子爵家同士の契約でもある婚約を当主に断りも報告もなく突然本人に告げた事。しかもその理由は他に好きな女性が出来た、つまりはハーマン子爵令息側の『不貞』。
どういう事であるのかと当主であるハーマン子爵に抗議の書状を出した。
友人からの怒りの手紙を読んだハーマン子爵は驚き、すぐに息子ディートマーを執務室に呼び出した。
「……お前はメラニーの不貞で婚約解消する事になった、と言っていたな。今までのメラニーの不出来さもありそれを受け入れ、このまま速やかに『婚約解消』する事にした。勿論アイスナー子爵家も事を荒立てたくはないからそれで納得していると」
この所忙しそうにしていた父に突然呼び出され、しかもその内容はメラニーの事。
ディートマーはメラニーが父に泣き付いたのだと思った。……しかしそんな事は今までも何度かあった。その度にディートマーは愚かなメラニーが嘘をついたのだと周りを納得させて来た。皆の信頼は自分にあるのだ。
今回もこの位は余裕だと内心ほくそ笑みながら、ディートマーは父に悲しそうな表情を浮かべ嘘の事情を話して見せた。
「……メラニーを叱らないでやってください、父上。彼女はこれまでの自分の不甲斐なさを悩み、他に相手を求めてしまったようなのです。しかしそれを止められなかった私にも責任はあります。彼女の不出来さを受け止め守り心を繋ぎ止める事が出来なかったのですから……」
そう言って辛そうに目を伏せてみた。
大概は周りはこれくらいで納得する。ディートマーはこれで父も納得しただろうと思った。
「───そしてお前も他に相手を求めたということか」
静かに、しかし這うような声色にディートマーは思わず顔を上げ父の顔を見た。父の目から怒りの火が見えた気がして初めてディートマーは冷や汗をかく。
「……いえっ……! 私は違います! ……メラニーが他の者と付き合うのを知り落ち込む私を支えてくれたのが……シルフィです。私はメラニーが婚約解消を求めて来たのでそれを受け入れ、その後にそれまで私の心を支え続けてくれたシルフィに愛を告げたのです」
それを聞いたハーマン子爵はジッと息子を見ながら言った。
「───それを、証明出来るのか?」
「勿論です! メラニーは意外にも奔放で何人もの相手がいたのです。その内の誰かに証言をして貰いましょう」
ディートマーの頭の中に何人かの思い通りになる『友人』の顔が浮かんでいた。ディートマーがこれまで責任を押し付けて来た相手達だ。
……要領が悪くてずっと俺のやったことの身代わりにさせて来た奴らだ。今回も役に立ってもらおう。……彼らの内の誰かにメラニーの浮気相手になってもらえば尚話は面白くなる。
息子がそんな不実な事を考えているとは露知らず、自信たっぷりの様子に子爵は少し安心した。
……しかし古くからの友人でありもうすぐ親戚関係になるはずだったアイスナー子爵家に対して複雑な心境のハーマン子爵だった。