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その後 挨拶

最終話です。



 パーティー後、メラニーとリカルドは王太子ヴィルフリートと案内された別室にいた。そしてその部屋に更に2人の男性……オッペンハイム次期公爵とエンゲルハルト次期公爵が入って来た。



「やあ、おめでとう! 2人とも!」


「おめでとう。……良かったな、リカルド。やっと思いが叶ったな」



 2人の次期公爵が口々に祝いを告げる。



「……ありがとうございます」



 メラニーは恐縮しきりだった。

 ……メラニーは子爵令嬢。王太子や公爵家の方々と話をすることなどまず無かったし、本来ならおそらく一生無かったはずだ。

 リカルドの2人の兄とも伯爵令息時代の子供の頃に挨拶くらいはした事があったものの、ほぼ顔見知り程度。……いや、絶対向こうはこちらを知らないだろう。



「ん? 不思議そうな顔をしてるね。僕たちは当然君の事を知っていたよ。だって可愛い弟の想い人だからね」



 リカルドの長兄ヴィルフリート王太子がそう言えば、その横で次兄であるテオパルト オッペンハイム公爵も頷く。



 ……『弟の想い人』? では本当にリカルドは昔から自分の事を好きでいてくれて、それを彼の兄達にも伝えていたのだろうか?


 メラニーはそう思うとポッと顔が赤くなった。



「ふふ、初々しいね。僕たちは皆ずっと君達を応援してたんだよ。……だけどあの馬鹿がやらかしたせいで世間では『婚約解消』が御法度な状態になってたからねぇ……。君が辛い思いをしている婚約から逃れられるか随分とヤキモキしたよ」


「まあ、あの馬鹿のやらかしのお陰でこの王国は馬鹿が国王にならずに済んだんだから結果オーライじゃ無いですか、兄上。リカルドも爵位を得られたしね」


「まあそのお陰でうちの妹も帝国の皇太子と結婚出来たんだから馬鹿もたまには役に立ったよね」



 ……この『馬鹿』って、やっぱり『マルク王子』のことよねぇ……。



 メラニーは目の前の高貴な方々の話を内心ヒヤヒヤしつつ表情は微笑みで留めている。……彼らは3年前の『マルク王子の婚約破棄騒動』の当事者なのだと改めて思いながら。おそらくテオパルトが王子と同年代だ。



「兄上方。メラニーが引いてます。

……ヴィルフリート兄上。本日はありがとうございました。兄上のあの宣言のお陰で僕達の婚約に異議を唱える者はいなくなった事でしょう」



「……兄として当然の事だ。

……メラニー嬢。不束な弟だがよろしく頼むよ」



 ヴィルフリートは優しくリカルドとメラニーを見つめて言った。メラニーは恐縮しつつお礼を言ってカーテシーをする。



「ちょっと? 今回パーティーで皆の前で王太子から2人を認めさせる宣言して納得させよう作戦を考えたの、僕だからね? メラニー、君の義理の兄となるテオパルトだ。テオ兄様と呼んで欲しい」



「それらを仕切っていたのは私だよ。

……メラニー。リカルドは末っ子で甘ちゃんだけど、何かあれば私たちが厳しく躾けるから安心して欲しい。……私には妹がいたから1番兄のように頼りになると思うよ」


「いや最も頼りにするべきは長兄である私だろう」



 次兄テオパルトとエンゲルハルト公爵家嫡男ユリウスはヴィルフリート王太子に負けじと言い、それにヴィルフリートも反抗する。そして3人はメラニーににっこりと微笑みかけた。

 突然の高貴な方々の美しい……、しかし裏がありそうな微笑みにメラニーはどうしたものかと戸惑いつつ微笑み返した。……多少引き攣っていたかもしれないが。


 それを見たリカルドはサッとメラニーの前に立つ。



「ヴィル兄様テオ兄様ユリウス様!! 僕のメラニーに変な手出しをしないでください!」



 真剣な顔で自分達に告げてくる可愛い弟に3人は更に嬉しそうに笑った。……実のところはこの3人の兄達(1人はいとこだが)は末っ子のリカルドが可愛くて仕方がないのだろう。




 そしてこれからメラニーとリカルドは弟に過保護な兄3人に翻弄されていくことになるのだった……。



 ◇




「ごめんね、メラニー。……兄上達のこと、驚いただろう?」


 夜会の帰りの馬車の中、心配そうにこちらを覗き込むリカルドにメラニーはニコリと笑った。



「お兄様方はリカルドの事をとても大切に思ってくださっているのね。……とても嬉しい事だわ」


「メラニー。……ありがとう。昔はあの3人に良いように遊ばれてるようで嫌で苦手だった。……僕が兄達に本当は愛されてると気付けたのは、メラニー、君のお陰なんだ」



「───え? 私?」



 メラニーは驚いてリカルドの目を見る。メラニーの大好きな、澄んだ美しい青い瞳。



「そうだよ。僕は幼い頃兄達から逃れたくて同年代の貴族達の中に飛び込んだ。でもそこでもディートマーに良いように扱われて落ち込んでいた。そんな時にメラニーが僕の所に来てくれて、僕は兄達や友人達の話をしたんだ……すると君は言った。『お兄様達は貴方の事、すごくお好きなのね。私も弟の事大好きだから分かるわ!』ってね。」



 ……確かにリカルドとそんな話をした事がある気がする。



「……でもその後に私、『……ディートマーは自分勝手なだけな気がする』って愚痴っちゃったのよね」


「ふふ、そう。その後2人で笑い合ったよね。……僕はなんとなくそれで肩の力が抜けて。兄達の事をちゃんと見られるようになった。そうしたら、……うん、あの通りだった。凄く愛されてて驚いた。

それからずっとメラニーに御礼を言いたかったんだけど、君はどんどん君らしさを失っていって……」



「───ええ。その辺りから特にディートマーが色々な事を私のせいにする事が増えて、父にも周りにも信用されなくなって萎縮するようになっていたから……。だから人と距離を置くようになって、学園に入ってから貴方の事も避けていたの。……御免なさい」


「……いや。メラニーの事が気になってたからその辺りの事情も気付いていたよ。だからなんとかその状況から解放してあげたかった。でもマルク王子の『婚約破棄騒動』で世間では婚約を解消する事が白い目で見られるような風潮になっていたから……」



 そう言って悔しげに俯くリカルドにメラニーは笑う。



「……そうよね、そんな世間の風潮に流されずに婚約破棄をしようとしたディートマーってある意味凄いわよね。……私は助かったけれど」



 メラニーを助けられなかったと悔やむリカルドに、そんな時から憎からず思ってくれてしかもその状況から助けたいとまで思ってくれていたと知った喜びでメラニーは嬉しくて微笑んだ。



「───そうだね。アイツはそういうところ、ある意味凄いやつだったよ」 



 ───本当は。

 リカルドは和解した兄達の協力を得てメラニーをディートマーから解放……『婚約解消』させたかった。しかしそんな中起こったマルク王子の『婚約破棄騒動』。そこから世間は『婚約解消』を忌避する風潮になった。

 そしてその後王位継承権がまさかのファーベルク伯爵家兄弟に回ってきて、その騒動に巻き込まれる事になってしまった。それでなかなか身動きが取れなかったのだ。



 大切な妹を王家にコケにされ怒るエンゲルハルト公爵家により、新たな王太子となる事を望まれた三兄弟。しかしリカルドは王太子になれば子爵令嬢であるメアリーとの婚約は無理となる事から『絶対に嫌だ』と固辞したのだ。


 長兄次兄2人も本当は断っていた。しかし他に誰もいないと押し切られ侯爵家の令嬢と結婚していた長兄ヴィルフリートが最終的に折れた。そして次兄も王弟に気に入られ公爵家を継ぐ事になった。


 そして最後の仕上げとばかりにメアリーを解放すべく、国の機関を使ってディートマー有責の婚約破棄を目指して数々の悪事を調べていた。するとディートマーの明らかな不貞が見つかった為に動こうとしていた。そんな矢先に……。


 アイスナー子爵家がディートマー ハーマンの事を調べようとしていると知ったのだ───。



 偶然を装ってアイスナー子爵に国の機関で働く人間を接触させ、話を聞いて『それならばウチで手を貸そう』とちょうどほぼ同じ事を調べていた証拠の数々に少し手直しし、アイスナー子爵家に渡したのだ。


 ……そうでなければあれほどの短期間で証人を揃えた詳しい資料を……、しかも国の機関に一子爵が依頼など出来る筈がなかった。

 ディートマーがあの話合いの時にリカルドに『お前がこの証拠を……』と考えたのは間違いではない。内容自体は至極正確で真っ当なものではあったが。



「───私はあの『婚約破棄』の瞬間、色んな縛りから解き放たれたの。今は綺麗さっぱり、よ。友人からもあれから生き生きしてると言われたわ」



「そうだね。今、君は輝いている。そしてこれからは僕の側で輝いて欲しい」



「……リカルド。ありがとう。一緒に、輝いていきましょうね」



 リカルドはメラニーの手を取り彼女の薄紫の瞳を見つめた。



「───うん。愛してる。メラニー」


「私も……愛してる」



 メラニーとリカルドはそっとキスをした後、少し照れ臭そうに微笑み合った。




 《完》



 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました(ᴗ͈ˬᴗ͈)


   本見りん

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