その後 告白
───ついに、王家から大々的に次の王太子の正式な発表があった。国王の一人息子であったマルク王子の失脚から約3年が経っていた。
新しく王太子となったのは現国王の叔母の孫にあたる、ヴィルフリート。元ファンベルク伯爵家の長子。
一月前に王弟であるオッペンハイム公爵家の養子となったファーベルク伯爵家の次男テオパルトの兄。
そして三男リカルドはファーベルク伯爵家を継ぐと発表され、王国内は色めき立った。……特に、若い女性が。
新王太子であるヴィルフリートには侯爵家出身の妻がいるが、次男と三男には婚約者すら居なかったからだ。
貴族達は我が家の娘こそと張り切ったが、残念な事に彼らに合う年齢の貴族女性にはだいたいが既に婚約者がいる。ここで『婚約の解消』などをすれば、また世間的には責められる事態となる。
もどかしい思いで早くに婚約を定めてしまったことを悔やむ貴族達だった。
◇
「───お手をどうぞ、メラニー」
「───ありがとう」
今日はメラニー達の学園の卒業パーティー。現在婚約者の居ないメラニーは同じく婚約者のいないリカルドにエスコートされている。
今年度主席の卒業生で美青年であり将来の国王の弟でもある伯爵家後継リカルドは、今日のパーティーでも注目と羨望の的だ。
「───リカルド。本当に良かったの? パートナーが私で」
周りの女性達の羨望と嫉妬の視線に耐えきれず、メラニーはリカルドに小声で問いかけた。
この国の貴族には殆ど婚約者がいるとはいっても、いない者も中にはいる。そしてリカルドさえその気なら婚約を解消してもいいと迫る貴族も陰ではいるようだ。
「───もちろん。僕はメラニーが良いんだ」
優しく微笑みながら手を握るリカルドに、メラニーは顔が赤くなる。
メラニーとリカルドは文官の試験に見事合格した。リカルドは父であるファーベルク伯爵がまだまだ健在なので、暫くは文官として働きながら徐々に領主としての仕事もしていくのだという。
メラニーは……。希望していた文官になれたので暫くはひたすらに仕事に生きるつもりだ。……その、つもりなのに……。
ディートマーとの事をキレイサッパリ別れてから、メラニーとリカルドは充実した学園生活を共に過ごして来た。2人の距離はぐんと縮まった。
……だけどまだ、恋なんてするつもりはないのに。なんで彼を見るとこんなにどきどきするんだろう。それに、顔が熱い……。
リカルドったら、こんなに素敵だった? それとも私ったら権力に弱かったのかしら……。結構チョロかったりする?
なんて考えて益々顔を赤くするメラニーを見て、リカルドはクスリと笑う。
そして周りでダンスが始まり、2人もそれに参加した。
踊りながら、リカルドは愛しげにメラニーを見て言った。
「───ねえ、メラニー。僕はあれからずっと君に想いを伝えてきたし、交流を持ってきた。そろそろもう一段階すすんでも、……いいよね?」
「───え?」
メラニーが「?」となっていると、リカルドはメラニーの手を取りひざまづく。
それを見た周囲はザワリとしたあとシンと静まり2人に注目する。……音楽もその音量を下げた。
来賓に訪れていた新王太子ヴィルフリートは楽しそうに2人を見ていた。
メラニーがリカルドの動きに驚きつつ、周りのその反応にもドキリとしたその時。
「メラニー。……貴女を愛しています。僕と一緒に人生を歩んでください。結婚、してください」
───その瞬間、メラニーの中ではリカルド以外の事は感じなくなった。
ただ、リカルドのメラニーを見るその青い瞳に、引き込まれるように目が離せなくなっていた。
「……リカルド……」
驚きと戸惑いと心の奥底から溢れ出る想い。……この気持ちはなんだろう。
一つ言えるのは、これは決して不快な思いでは無い。むしろ、この想いは……。
メラニーの心で溢れ出たその想いは、そのまま涙になって溢れ出ていた。
「メラニー。……ごめん、まだ早かったかな?」
メラニーの涙に少し慌てて困った様子のリカルドに、慌てて首を振る。
「……いいえ……いいえ、リカルド。……嬉しいの。嬉しい気持ちが溢れて……。……私、貴方の事がとても好きみたい」
リカルドに取られていない方の手で溢れる涙を押さえながらメラニーはリカルドから視線を外さず言った。
リカルドはそんなメラニーに一瞬ポカンとしてから、破顔した。
「……メラニー!! どうかイエスと言って?」
「……はい。リカルド……私も貴方を愛しています」
「ッ……メラニー!!」
リカルドは思わずメラニーを抱き上げ一回転させてからギュッと抱きしめた。
メラニーは少し驚きつつそんなリカルドを抱きしめ返す。
2人は幸せを噛み締め抱き合って───
───ワッ!!
突然周りから歓声が聞こえてメラニーは驚く。……そして、自分達がどこでこんな事をしていたのかに今更ながらに気付いて真っ赤になった。リカルドは少し照れながらも嬉しそうに笑っている。
そんな2人の前に拍手をしながら近付いてきたのはこの国の王太子ヴィルフリート。
「───おめでとう。私は2人を祝福する。
……皆の者! 私の可愛い末の弟の恋の成就を祝ってやってくれ。……やっと片思いが叶ったのだからな」
ヴィルフリートがそう言うと、周りの人々は一斉に祝いの言葉を述べ会場中がお祝いムードに包まれた。
2人は少し恥ずかしそうにしながらもお互いを見て微笑み合った。
お読みいただきありがとうございます。
その後編、次回が最終話になります。