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《本編完結》それぞれの未来へ



「メラニー、じゃあまた後で」


「ええ、リカルド。またね」



 学園の登校途中で一緒になったリカルドと教室で別れそれぞれの席に座る。



「……メラニー。いつの間にリカルドとそんなに仲良くなったの?」



 隣の席の友人が話しかけて来た。



「……実はリカルドとは幼馴染なの。ディートマーの事があったから今までは避けてたんだけど……」


「……まあ。なるほどね……」



 友人は『ディートマー』と聞いて納得したようだった。



「……でもこんな事言うのはなんだけど、私は今回のことはメラニーにとって良かったんじゃないかと思ってるの。……だってあれからメラニーは見違えるほど生き生きとしているもの」



 友人はメラニーの婚約破棄の件を知っている。……いや、多分ディートマーとメラニーを知る殆どの人はその事の顛末を知っているだろう。

 友人の言葉にメラニーはクスリと笑った。



「……あら、そんなに?」



「そうよ。元々私はディートマーには余り良い印象はなかったけど、『不貞して婚約破棄』なんて、本当に貴女や世の中を舐めてるわよ。……あ、御免なさい」



 友人は怒りの余り少し言い過ぎたと思ったようでシュンとする。


 あの後リカルドによってこれまでのディートマーの行いの証拠が王家に届けられ、ハーマン子爵家とディートマーは国から厳重注意を受けた。彼がした事はどれも『犯罪』とまでは言い難かったが、貴族として人としてあり得ずそれぞれの被害者に慰謝料を払う事と被害者に近付く事を禁止された。そして……。



「いいのよ。私もそう思うもの。……実は昨日、彼のお姉様が我が家に謝罪に来てくれたの。お姉様夫婦がハーマン子爵家の後継になったそうよ」



 国からディートマーは『貴族籍』を抜くようにと勧告されていた。姑息な人間を『貴族』とする事を否定されたのだ。


 あれ程先妻の娘を排除していたハーマン子爵夫人は、大層悔しかった事だろう。……しかしそれも自業自得なのだけれど。



「───ああ、それはそうよね。まだ世間は『不貞の婚約破棄』に厳しいし、ディートマーには他に数々の余罪があるものね。

あら? そういえばあの浮気相手の方とは愛を貫いたの? ……あの方も学園には来ていないわよね」


「───シルフィさんは彼が廃嫡となった途端に逃げてしまったそうよ」



 『廃嫡』と聞いたシルフィは急に真顔になり、ものも言わずに去って行ったそうだ。それで流石のディートマーもかなり凹んだらしい。……『真実の愛』とはいったい?

 そしてディートマーは失意の中大人しく領地に連れて行かれたらしい。これからは領地でひたすら今回の婚約破棄や今までの被害者へ慰謝料を稼ぎ続けるのだ。



「だけどあの2人は学園でも結構噂になっていたじゃない? これだけ『婚約破棄をさせた浮気相手』と知られていてはもう貴族社会で生きていくのは難しいわよね」



 シルフィはあれから何日間かは学園に来ていたようだったが、いつの間にかいなくなっていた。



「そうね。少なくとももう良い縁談は期待出来ないでしょうね」


「……婚約者のいる人と浮気して婚約を壊しておいて、都合が悪くなったらその相手もあっさり捨てるような人とは誰だって縁続きにはなりたくないわよ」



 友人はそう言って肩をすくめた。そして少し考えてから心配そうにメラニーに問いかけた。



「───メラニーは、本当にもう大丈夫? もう、あの人の事は……吹っ切れたのかしら?」



 友人は、メラニーがずっとディートマーに振り向いて貰えるように彼だけを見つめて来た事を……あの当時は本当に彼を好きだった事を、知っていた。




 そんな友人の問いかけに答えようと口を開きかけたところで、教室に先生が入って来て授業が始まった。




 

 ……『生き生きしている』、か……。



 メラニーは授業中、友人との先程の会話の事を考えながらふと窓の外を見る。すると先ほどまでの雨がやみ温かな日差しが差し込んできた。



 ……ディートマーから『婚約破棄』と言われたあの時。本当のところ最初メラニーは絶望した。

 ……それまであれ程努力した事我慢した事、……そうして彼を好きだった事。そんなこれまでの自分を全否定されてしまったと感じた。


 けれどそれまでの自分を思い出して気付いた。自分がちっとも自分らしくもなく幸せでなかった事に。 

 そして、その時やっと自分を縛っていたものから解放されたという事に気付いた。



 ───あの時思ったのだ。


 ディートマーを……彼を綺麗さっぱり忘れてみせる、と。



 果たして今の自分の気持ちはそうなれたのだろうか?



 メラニーはその薄紫の瞳を閉じて考えてみる。



 ……うん。彼のことを思い出すと少しモヤッとするけれど、それは彼に想いが残っているからじゃない。それまで彼にされた事やそれに上手く対処できなかった自分に、少し苛立っているだけ。


 今のディートマーに対して思う事は……、ちゃんと反省してこれからは誠実に生きていって欲しいという事くらいかな。



 ───うん、コレはキレイサッパリ、になれたんだろう。




 ……これからも色んな事があるだろう。

 でも今のメラニーは自由だ。先生から聞いた王宮の文官試験の話も面白そうだし、そうこうしている間に新しい出逢いもあるかもしれない。

 でも今は学園での勉強と友人との生活を楽しみたい。そして、リカルドとも───。




 メラニーは差し込む光を心地よく感じながら、授業に向き合った。





《完》





 この作品を見つけてくださりありがとうございました!

 本編は完結となりますが、あと2話ほどその後のお話がありますのでよろしければお付き合いください(ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾



   本見りん

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