ジルのカード
「ぅおっほんっ。イーシス、下がってよい」
なんだよ、これ見よがしに咳払いなんかして。
「…ん、んっ、ジルバート、後で執務室に来なさい」
「ぇ?」
手にもっていたコロンを思わず落としそうになった
"ぇ?なに?俺?俺なの?"
前を向くと、母さんとメリッサ義姉さんが並んで、ニッコリ微笑んだ。
"怖い…女性の満面の笑み、こぇーよ"
執務室に向かう途中、授業をサボったことだろうか、実技試験を手を抜いたことだろうか、色々なことを思い出していたけれど、そんなこと、わざわざアーノルドが告げ口するとは思えないし…
結局検討もつかないまま、執務室に着いてしまった。
コン、コン
「ジルバートです」
「入りなさい」
中に入ると、母もソファに座っていた
厳しい顔をしている父とは違い、どことなく母は嬉しそうにみえた
「座りなさい」
「はい」
俺は言われるがままソファに腰をおろした。父の顔見ると背筋が伸びる
「…あの、えっと…」
「おまえ、次の夜会はどうするんだ?」
「え?夜会?どうするって…」
親父がそんなことをきいてくるなんて、なに?
今日、学院でパトリシアから準備しておけと面と向かって言われた。教室にはまだ他の生徒も残って
いたし、そのとおりにしないと、きっと他から不審がられるだろう
この世界では良くない噂はあっという間に広まる
俺はそれでもいいけれど
「パトリシアお嬢様…と仲良くなったの?」
母がとんでもない質問をしてきた
「は?え?」
仲良く…なった覚えはない、けれど、嫌われてもいない、…だから答えようがない
黙っていると、父が1枚の紙を差し出した。先ほど、イーシスが慌てて持ってきたものだ
そこには、アーノルドの字で『祝♡ジルにもようやく春がきました』と書かれていた
”あいっつ!!いらんことを!”
「で、これは、どういうことなんだ?」
「で、これは、どういうことなのかしら?」
父と母が声を揃えてきいてきた
2人ともなんだか目をキラキラさせているのは、なぜなんだ?!
”あ~…これは話さないと部屋から出られないな”
俺は、しぶしぶ、アーノルドの言葉の意味を説明した。あまり詳しくなく、かと言って変な誤解をうまないように。
「…そぅ……あなた、これはチャンスかもしれませんわよっ」
"チャンスってなに?"
「かもしれんな…。おい、ジル、もう一度、そのご令嬢に会って名前をきいてこい!…ん~、しかし、どうだ?自分で料理するご令嬢なんぞ、いるものか?」
「あ、それは、貴族の子だと思うよ。制服のリボンの色がそうだったから」
「よし!では、明日だぞ!」
父に力強く両肩を叩かれた
"はぁ…なんてこったい…覚えとけよ、アーノルドめ!"
部屋から出ようとして、ふと、疑問がうかんだ
"ん?父と母は、パトリシアとの婚約はすすめたくないのか??"