エルヴォート家の兄妹
授業も終わり、学院前に待たせてある馬車に向かって歩いていると、校門のところで、お兄様をみつけた
「お兄様っ」
「お、シリヌ、お前も終わりなの?」
「はい、いきましょう?」
「あ、僕はいいから帰りな。道草せずに帰るんだよ」
「え?帰らないんですか?」
「あー、いまジルを待ってるから」
「ジル様ですか!?それなら、私も!」
「いやー、ダメダメ、シリヌは帰りなさい。男同士の時間だから」
「えー….」
「ほらっ、行きな、ほらっ」
お兄様に背中を押されて仕方なく前へ進む
「も!分かりました!…また、きかせてくださいね?」
「分かったよ」
「絶対ですよ。それから、母様に小言をもらわぬよう早めに帰ってきてくださいよ」
お兄様は、うんうんと頷いているけれど、顔には"早く行け"と書いてあった
私はチラッチラツと振り向いたけれど、お兄様はずっとニコニコ笑ったまま手を振っていた
"お兄様の嘘笑顔"
そりゃあね、我が家は公爵家ですから、事を荒立てぬよう作り笑顔は常套品みたいなもんです。
でも、普通は、作り笑顔と悟られぬよう努めるものですが、あの顔はあきらかに嘘っぱち
はぁ…ジル様にお会いしたかったです(お昼も会いましたが)
馬車が動き出したとき、お兄様に向かって歩いてくるジル様が遠くに見えた
「あーん、あと、ちょっと遅かったら!」
"よし、よし、シルヌはいったみたいだな。"
振る手をとめた
そのまま待っていると、何人かのご令嬢たちが頬を赤らめながら帰りの挨拶にきてくれた
そつなく挨拶を交わし、ジルを待つ
"一人で対応するのは、しんどいなぁ…ジル、まだかな"
だんだん愛想笑いも疲れてきた頃、やっとヤツがやってきた
「わりぃ」
ずいぶん辟易した様子だ
「こっぴどくヤられたの?」
「はぁ…」
「今日はなんて?」
「再来週の夜会、ちゃんと準備しておいて!だとよ。なんで、俺なの?次はオリウスの番のはずだぞ。俺は前回、舞踏会で務めを果たしたよ…」
「う~ん…まぁ、婚約者候補の中で、君が一番見目がいいからね。パトリシア嬢は連れ回すのに気分がいいんじゃない?」
「見目がいいとか…いい迷惑だぜ。どうせ、最後はエドワード殿下に張り付いてんだぜ。勘弁してくれ」
「よく言うよ、ジル、いつだって彼女のふくよかなお胸に釘付けじゃん、羨ましいよ」
「心にもないこと言うなよ。あのな、話は面白くないし、わがままばっかで、すぐ癇癪起こすし、せめて目の保養くらいしてもいいだろ?」
「まぁ、僕らは健全な男子だからね」
「っ!…クソッ、誰だよ、俺を候補にあげたのはっ!
おかげで、他の女の子は誰もよってこないんだよ」
ジルの愚痴をききながら、シュクリーヌ家の馬車で「アリスの庭」に向かう
カランカラン
「いらっしゃいませ~」
"うん、やっぱり、アリスさんの笑顔は最高だ"
「新作のケーキを一つと、ミントティーを2つ、それから帰りにおすすめを1箱」
「かしこまりました」