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モロ太くんと脳拡張装置

作者: 雉白書屋

 小学生のモロ太くんは怠けることが、だーいすき。マイペースだけど、劣等感を抱きやすく、嘲笑うような視線には人一倍敏感です。

 最近、あるものが世の中で流行り、そのせいでクラスメイトと学力他もろもろの差がメキメキと出てきて焦るモロ太くん。

 頑張りたくはない……楽したい……。ですが、このままじゃそうも言っていられません。なのでモロ太くんはパパに泣きつきました。


「パパ、パパ! パパやん! 後生やから最新のあの装置、買ぉてーやぁ」


 モロ太くんがいう、最新のあの装置とは脳拡張装置のことです。頭に取り付け、脳の記憶容量。基礎スペックを向上させるものです。ある時、とある博士が開発し、大きな話題を呼んだのですが、今ではそれがお金持ちだけでなく、一般家庭にまで普及し始めているのでした。まったく余計なことしやがってとモロ太くんは敵視していましたが、世の流れを食い止めるのは不可能。順応することを選んだのでした。


「ううーん、パパもそれ知っているが、小学生にはちと大きすぎるんじゃないか? 確か手術で頭に取りつけるんだろう?」


「最新式はコードレス掃除機のバッテリーぐらいのサイズや! 問題あらへん! クラスメイトの滑川のやつなんか、二つやで二つ! しかも頭の両サイドに付けてるもんやから、なんかキャラクターみたいで可愛いって女子にモテてるんや! クソッたれぇ!」


「ははははは! そりゃヘッドホンとか付けにくそうだなぁ。ああ、ヘッドホンと言えばこの前な」


「誤魔化そうとすんなや! 息子と同じく涙流して熱く向き合わんかい!」


「涙なら出てないじゃないか……あと、うちはコードレス掃除機じゃないからバッテリーの例えもいまいちピンとこないなぁ」


「そんなん、どうでもええねん! 出すもん出さんかい、言うとるんや!」


「いいや、どうでもよくないぞ。うちはいつまでも重たい掃除機、バカでかい洗濯機、分厚いテレビ。つまりな、金がないんだ」


「……」


「どうしたんだ? 口開けて。何か食べたいのか? よーし、アメちゃんをあげるからなー。そのままだぞー」


「ちゃうちゃうちゃう絶句や絶句! 可愛い息子の将来が掛かっとる言うとんのに、そないなケチくさいこと言わはるとは思わへんかったんや! ホンマ泣けてくるでぇ……」


「だから泣いてないじゃないか。あっ、思い出したんだが学校の成績表に書かれていた先生の言葉に『モロ太くんは血も涙もない』ってあったなぁ。ははははっ」


「せやから、そないなこと今どうでもええねん! 誤魔化すな言っとるやろうがい!」


「まあまあ、また今度な。あまりわがまま言うとパパ知らないからな。ぷいっ」


「はぁ!? ぷいっやあらへんぞ! なめとんのかワレ! おもちゃコーナーの通路で駄々こねてるクソガキやないねんぞ! 同じ目線に立ったつもりかアホンダラ! 大人の嫌なところ出してくるなや!」


「だがなぁ、わかるだろう? 今はさ、それどころじゃないんだ。お前だって悲しいだろう? ああ、だからかな。そうやって構ってほしいんだな。よし、パパとハグだ」


「ふぅざぁけるなやぁ。誰がハグなんかすんねん! あーもう埒あかんわ! アホ! ボケ! 死ねカス! マスかきの兄弟殺しがぁ!」


 と、家を飛び出したモロ太くん。一人、電車を乗り継いで向かう先は例の装置を開発した研究所です。

 守衛をかわし、潜入成功。一番偉そうな人を見つけました。どうやら、あの博士のようです。

 モロ太くんは博士に泣いて縋り付きました。


「頼んます! 後生やから最新の装置をワイにくれーや! 負け犬になん、なりたくないねん!」


「ぐぅぅ、すごい力だ……だが、装置のことならここでなく専門の機関で手術を……」


「アホかあんた! 見てわかるやろ!? 小学生やぞこっちは! 熱意に絆され手を貸すとこやろうがい! オオォ! わかったら最新を超える最新の装置をワイの頭に取りつけんかい! オオォ! オオオオオォ!」


「目を見張るほどの厚かましさだな……最新の最新か……」


 モロ太くんが飛ばす唾から顔を背けていた博士は首を少し傾け、後ろにある大きなモニターに目を向けました。


「おお! なんやあれ!? モニターに映っとるのは脳みそのようやな! あれが最新式か! なあ、そうやろ!」


「ああ、だがまだ開発段階なんだ」


「そこで、口を止めるなやアホタレ。博士なんやから説明する義務があるで。手短にな」


「あ、ああ、まあ簡単に言うと人間の脳みそを頭の中にポンと入れるんだな」


「……は? 簡単に言い過ぎや。ほな、なにか? 脳みそ二個になるんか? ドタマでかでかやないか。いじめ抜かれるわ。子供の残酷さ舐めたらアカンで」


「ああ、まあそういうことだが、そう大きくはならないんだ。丸々一個じゃなく、使えそうな部分のみを繋ぎ合わせる。今、その研究をしているんだ。その素材となる人工の脳の開発も並行してな」


「ほーう、そらいつできそうなんや?」


「まあ、十数年あるいはもっと、ぐぅ!」


「待てるか! ワイは今すぐに賢くなりたいねん! あんた天才なんやろ! 世のため人のために役に立たんとただの奇人やで!」


「いや、役に立ててはいるつもりだが……まあ、でも新鮮な脳みそがあれば今すぐにでも手術は可能だが、しかしこれは人体実験ということに」


「ええやんええやん。あんた、気が進まなそうな振りしとるけどホンマは実験台、欲しかったんやろ? ここにおるで、ピッチピチのがなぁ」


「だが、子供を実験台になんて……それにご両親の許可は」


「こないなところまで、はるばる一人で来たんや! 胸張って送り出したに決まっとるやろうが! わかるやろ! てか、今さら常識人ぶんなや! 脳から出た我慢汁が口の中からダラダラ零れそうになっとるやないかい!」


「なってないよ。だが、わかった、わかった。しかし、君の脳に取りつけるその新鮮な脳がここにはないんだ。事故などの情報もないし、あってもここに提供されるかわからない」


「ふーん……なあ、新鮮な脳っていつまでや? 死んでから一日ぐらいなら平気か?」


「まあ……やってみないことにはだが、多分、大丈夫だ」


「オーケー。ほな、あんたは準備してここでお行儀よく待っとけ!」


 そう言うとモロ太くんは矢の如く飛び出していき、クーラーボックスを抱え、また戻ってきました。


「お待ちどうさん。お望みの脳みそや」


「どこでこれを、なんて言うとグダグダいっとらんでさっさとやらんかい、と言われそうだな」


「わかっとるやん。さすが天才やな。ほなさっそく頼むで」


「ああ。あ、髪を剃ることになるけど平気かな?」


「ははは! 待っとる間にボケたんちゃうやろなぁ。そないな眠いこと言われると欠伸が出るでぇ。麻酔いらずやな。よかったなぁ、経費削減出来て」


「ふふっ、君が気にするはずがないな。よし、やろう」


 モロ太くんは麻酔によりパタリと眠りについた。

 そして、手術後……。



「……どうかな? まあ、頭は少し大きくなったが手術箇所は人工骨と人工皮膚で補ったので問題はない。つなぎ目も目立たなくしたよ」


「……ホンマ感謝するぞい」


「お、おお……。あ、もう帰るのか? できれば定期的にここへ来て経過観察を。その拡張した脳の元の人物からの影響なども気になるんだが、あ、おーい……」


 名残惜しそうな博士を用済みとばかりに無視し、モロ太くんは家に帰ってきました。そして


「おお、モロ太。お帰り。ああ、ええと明日の通夜なんだがな。お前、黒のネクタイは――」


「こら! モロ助! 息子の頼みを聞かないとはどういうわけじゃ! ワシの遺産があるじゃろ! 自分のためだけに使うつもりか! なんとか装置でも何でもモロ太に買ってやらんかい!」


「え、え、え、お、親父……?」


 こうして、モロ太くんは無事、脳拡張装置を買ってもらえることになりましたとさ。

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