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家の前で獣と出会った。
彼は徐々に徐々に近づいてきた。それはまるでどのように料理してくれようと獲物を見定める猛獣。
彼は紅く煌々と輝く瞳を滾らせ…その長く上に伸びた耳をぴょこんと揺らした。
「……。」
短い手足をおいっちに!おいっちに!と振り、遂にはカオルの目の前へと。
そして、彼はきゃるんと媚びるように一回転し、何も掴むことさえできそうにないぬいぐるみのような手をこちらへと差し出してきた。
「君、僕と契約して魔法少女になって…っ!?」
ボコッ!(拳が腹にめり込む音)
バキッ!!(掴まれた上半身と下半身がへし折られ、膝がめり込む音)
ダンッ!ダンダンッ!!(地面に落ちた身体が踏みつけられる音)
グルグルグル、ギュッギュッギュッ!!(長く伸びた両耳を掴まれてブンブンと振り回され、終いにはロープでグルグルグル巻き)
ザクッ!ザッザッザッザッ!(スコップで地面を掘り返す音)
ポイッ。
サッサッサッサ。(…土を被せる音)
きっちりと踏み固めて…。
「ふう…いい仕事をした…さて、中に入ろうかな。」
それから数時間後…。
「い、いきなりなにをするんだいっ!!」
「なにって…危険の排除。」
「なっ…っ!?」
「だって魔法少女にならないかって聞いてくるマスコット的な奴って、死神でしょ?」
「し、死神っ!?き、君はこんなにも可愛らしい僕のことを死神だと言うのかいっ!?」
「うん、だって死にそうなことをさせるだけさせて、最後の最後で実は真の黒幕でした~なんてこと言うんじゃない?」
「なっ!?……な、なんのことかな?ぼ、ぼぼ僕、そんな悪い子じゃないよ。僕は正義のマスコットみかりんさ。」
「えっ?見返り?」
「みかりん!!」
「大体僕男だよ。少女じゃないけど?」
「そんなんもう知っとるわ!!あんな硬い拳の女がいてたまるかって!!」
「はぁ…ならなんで来たの?」
「…いや…なんか来ずにはいられなかった…というか…。」
「ふ〜ん。」
「……文句の一つでも…って…。」
「そう、ならもう文句も言い終えたでしょ?次のカモでも探しに行けば?邪魔しないから。」
「ああ、うん。お邪魔しました…って、待って待って!!」
「なんだよ…もう…。」
「このままでっ!?」
ドロドロのボロボロ。
その姿はどう見てもゴミ捨て場に放棄されたぬいぐるみ。
「公園で水浴びでもすれば?」
「君は鬼かいっ!?」