だから。の巻
洞窟があった。
穴の周辺には遺物が散らばっている。骨、布キレ、かつて生命であったモノ。
サキ:
「ここですぅ」
トーリ:
「サキくんの探知は優秀だね」
サキ:
「あはぁ、得意分野なのでぇ――――弱いですけどぉ」
ティー:
「…………、ふーん?まぁ、私の方が弱いけどな?」
サキ:
「あ。――中に三匹いますぅ」
反応は小さいですけどぉ、とサキはごちる。
ジル、トーリに視線を送る。
トーリ、余裕の笑みで頷く。
トーリ:
「いけるよ」
進む。
負傷した影狼が蹲っている。小さい影が二つ、纏わりつくように、流血した箇所を舐めている。
影狼は侵入者の足音を聞きつけ、おもむろに三本の脚で身体を立ち起こした。
事ここにいたって、影に潜行する能力は意味を為さない。
それでも、
彼女は吼えた。仔を背後に庇い。
ティー:
「…………。最悪」
トーリ:
「――――どうする?」
ティー:
「…………ごめん。お願い」
トーリが動いた。
一拍。
影狼の首が宙を舞い。
切り離された首も、胴体も。血を噴き出すことなく凍り付いた。
放物線を描く氷像が、地面にゴトリと音を立てた。
仔狼たちは耳がぴくりと震えた。母を喪ったと理解した。
仔狼たちは仇に飛び掛かろうと――するのをトーリは冷徹に構え――、
サキが間に割って入った。
仔狼たちは、サキの腕に食らいつき――顎の力だけでぶら下がっている。
サキ:
「あたしに――――」
サキは、振りほどくこともせず、
サキ:
「貰えませんか?この仔たち」
ティー:
「――――半端な同情はやめな」
サキ:
「あたしならできます。従属させられます」
ティー:
「影狼の餌はなんだ。習性は。必要な環境は。人に慣れるか。慣らしてどうする」
サキ:
「ここで見捨てるのはあたしの信念に反します。だから」
サキの瞳が鬱金に淀む。夜魔の能力。精神干渉・魅了。
ティーは瞳を逸らさず――、
ティー:
「そか。じゃあそうしな」
サキ:
「何と言われようと――――――あれ?」
ティー:
「生き物の面倒みるのって大変だからさ。飽きたから捨てるとかナシな」
サキ:
(魅了、かかってない――抵抗された――?なんで――)
ジル:
「…………殿下。顔と殺気」
トーリ:
「――――ふぅ。ぼくは冷静だったと思うよ?」
トーリは剣を鞘に納めた。
ティー:
「はぁー。ずるいよな。サキが言ってくれてよかった、なんて」
サキは動揺したままに、仔狼たちの精神に干渉した。すんなり成功した。サキは動揺した。
仔狼たちは佇まいを正し、サキの影へと潜った。
ティー:
「餌代とか要るなら出すから言えよ?」
ティーはバシバシとサキの肩を叩いた。
サキは曖昧な愛想笑いで返した。
ジルは空気を読み、一旦考え、消息を絶った冒険者のものと思わしい遺物を回収した。