森の中♪〇〇さんに♪出会った♪の巻
森の中。
ティー:
「インベントリ!!」
しかし何も起こらない。
ティー:
「アイテムボックス!!!」
しかし何も起こらない。
ジル:
「…………」
サキ:
「??」
トーリ:
「うん、一応礼儀として聞くんだけど――何してるの?」
ティー:
「素材をさぁ!どうやって持ち帰るの?!」
トーリ:
「鞄」
ティー:
「容量無限のストレージとかないの?!」
トーリ:
「あぁ、マジックバッグのこと?」
ティー:
「なんだよ持ってる
トーリ:
「持ってないよ」
ティー:
「…………ないの?」
トーリ:
「ごめん、ね?あれ結構な宝具だから……。英雄クラスしか持ってないと思うよ」
ティー:
「
トーリ:
「ワールウィンド公に無茶言ったらダメだよ」
ティー:
「…………」
ティーはがっくりと膝をついた。ついでに地面に目をはしらせたりしているのだが――。
ジル:
「…………。おかしいですね。薬草どころか獣の気配もない」
ないのだ。目当ての素材が。
さくっと持って帰るつもりでいた一行は、森の奥へと進むことを余儀なくされていた。
貧乏性のティーは、これ食べられるから!と道中で野草や茸を採取しており――無駄に鞄が埋まってしまっている。
トーリ:
「ティーみたいな人たちが過剰に素材を収穫していったのかもね……」
ジル:
「どうします?さらに奥に進むとなると――夜になる」
トーリ:
「よくないね」
ティー:
「初依頼でぇ!失敗しました、テヘ。とか嫌だぞ私は」
一行は時間を気にしつつ奥へと進むが――暗い森の中では陽の高さも時間の感覚も分からない。
ふと、
サキ:
「――チッ」
ティー:
「うひょぉ?!」
列の後尾をふらふら歩いていたティーの腕を、サキが前方へ引きずり倒した。
ジルが、す、と半歩後ろに進み出る。トーリが剣を鞘から抜きはらう。
樹木の影から伸びた漆黒の獣の前腕が、ティーに振り下ろされようとして――
踏み込み、一閃。
残身。トーリの剣が浅く血の飛沫を飛ばした。
ジル:
「影狼ですか。厄介ですね」
サキ:
「一匹ですぅ」
―― 『影狼』 ――
魔獣。脅威度B。影に潜み獲物を奇襲、影から影へと伝って移動する能力を持つ。
ジル:
「……番は?」
サキ:
「一匹ですぅ。……信用していいですよ?」
トーリ:
「ティー。怪我はない?」
ティー:
「――くそ。トーリのクセにカッコいい真似しやがって」
トーリ:
「おっと?惚れてくれてもいい――
刺突。地に串刺しにされた前腕――影狼は自ら引き千切り、逃走を選んだ。
トーリ:
「――――よ、っと。退いた?」
ティー:
「引いた」
サキ:
「退きましたぁ」
薄暗い森の中。陰、障害物。影狼の狩場としては最適な。
ティー:
「Cランクパーティが帰ってない、か……。こりゃ骨でも拾ったら御の字――ギルドで警告とか、なかったよな?」
トーリ:
「君が聞いていないなら」
ティー:
「だから森の依頼が滞った?影狼がいたから……、いや。影狼って別に薬草採らんよな?」
異変が起こった場合、冒険者はギルドに情報共有の義務がある。
脅威度Bの影狼の存在が共有されていたとして、該当エリアにD、Cランク依頼の募集はかけない筈。
ティー:
「じゃあ順番が違う――浅い領域から中域にかけてクエスト素材が手に入らなくなり――奥へ向かった冒険者が影狼の縄張りに立ち入った――こうか」
ティーのゲーム脳が弾き出した答え。
ティー:
「じゃあ――人間が悪いなぁ……」
トーリ:
「……。帰るかい?」
ティー:
「どうせ帰っても報告して他の奴らが始末しに来るだけだしなぁ……うん。やってこ」
トーリ:
「了解」
サキ:
「…………」
サキが魔力探知を得意だということで、先頭に立った。
サキの探知を羅針盤に、一行は進む。
サキ:
「ティー様はぁ……影狼が可哀そうだとぉ、思いますかぁ?」
ティー:
「いや。仕方ないかなって思う」
サキ:
「そうですかぁ」
ティー:
「極端な話――弱いのが悪い。強い方が勝つんだし――魔獣の方が強かったら人食うんじゃん?それで負けたなら食われた人が悪いと思うし」
サキ:
「そうですかぁ。あたしぃ、故郷も家族も人魔大戦で亡くしちゃったんですけどぉ。全部」
ティー:
「――――」
サキが探知をしながら先導する。戦力外のティーとジルは列の半ば。
サキ:
「――――あたしが弱かったから悪いと思いますか?」
ティー:
「――――そうね。サキが強かったら。そうはならなかったかも」
ティーからは、サキの表情はみえない。
薄暗い森の道なき道を、一行は進む。
ジルはティーの半歩前を付き添っている。
ティーが隣を見上げると、ジルの無表情な横顔が見える。
トーリは殿をつとめている。殿下だけに。