それぞれの思惑
ティーの冒険者登録が完了した後。
サキは試用期間――冒険者として紹介しても良いかどうか――ということで、臨時でティーのメイドとして住み込みで働くことになった。少なくとも衣食住には困らなくなるし、というティーの発案である。
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使用人控室。ジルはサキに制服や仕事についての説明をしていた。
ジル:
「さて――。変な真似はするなよ、淫魔」
サキ:
「――やはり、気付かれますか。あたしの擬態、甘かったですか?流石は、と言うべきですか?『蛮
ジル:
「お嬢様は知らない。私とお前は一介の使用人に過ぎない」
サキ:
「――分かりましたぁ。センパイ、よろしくお願いしますぅ」
ジル:
「…………」
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トーリは両親――剣聖デアール、聖女アセト――と面会していた。
各人、立場も責務もある。親子といえ、いつでも会える間柄ではない。
トーリ:
「今日ですか?ティーを冒険者ギルドに連れて行きましたよ」
デアール:
「――進捗はどうだ」
トーリ:
「さぁ、なんとも。――なんとも思ってないんだろうなぁ」
デアール:
「…………」
トーリ:
「……ティーに、言ってもいいと思いますけど。案外、『ふーん』の一言で終わるかもしれません」
デアール:
「――――余も、概ね同意見でみておる……」
トーリ:
「では――
デアール:
「ならん。万に一つ、億に一つもあってはならんのだ。可能性の芽は排除せねば」
トーリ:
「……。……、冒険者登録もしたのでね。魔法くらい使えた方が、とも考えますが」
デアール:
「お前が同行するのだ。問題はなかろう」
トーリ:
「それは、まぁ。害虫は駆除しますよ」
デアール:
「うむ――。何かあれば逐一報告せよ」
トーリは黙礼し、立ち去る。部屋の扉を後ろ手に閉めて。もしトーリが振り返っていれば、閉じつつある扉の隙間からイチャつきだす両親の姿が見えたかもしれない。
トーリは長い廊下を歩く。靴底が床を叩く音は、毛足の長い絨毯が敷き詰められており響かない。
トーリ:
「――――茶番だな」
トーリの呟きは虚空に消える。
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ムーディッヒ・ワールウィンド公爵は執務室でペンをはしらせていた。
執事:
「旦那様。ご連絡が」
執事が手紙を差し出した。ムーディッヒはすぐに受け取り、読んだ。
本文:
『お嬢様が魔族の女を拾いました。』
手紙の内容は短かった。
ムーディッヒ:
「ふむ」
ムーディッヒは執務を再開しようとし――、
手紙を二度見した。
見間違いでもなんでもなかったので、天を仰いで嘆息した。
執事は主のため、熱めのコーヒーを淹れた。
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ティー:
「ククク……今の我は仮初の姿。封印が解けしとき、真の力が覚醒するであろう!!」
トーリ:
「ははは。ティーは想像力が豊かだなぁ」