冒険者ギルドってロマンだよねの巻
とある休日。
ティー:
「冒険者になりたい!」
ジル:
「約束してましたからね」
ティー:
「そぉう!お約束だから!」
ティーは拳を突き上げて吠えた。
トーリ:
「ワールウィンド公からも話は聞いてるよ。推薦はぼくの名義で。条件はぼくとパーティを組むこと。――ちゃんと、聞けるね?」
ティー:
「いいぞ!なんてったって私は弱いからな!存分に守れ!!」
ティーはこの世界に冒険者ギルドがあると知って、当然のように加入をしたがった。
この世界の冒険者は、秘境――『エリア』と呼ばれる――を開拓したり、野獣や魔物の駆除討伐、要人の警護などを請け負う。荒事もこなすが、信用を非常に重んじる。誰でもなれるものではない。冒険者もしくは名家(貴族か有力な上級市民)からの紹介が必要であり――紹介された者が問題を起こすと推薦した者の信用問題となるため、ほいほい紹介できるものでもないのだ。
ワールウィンド公爵は、ティーが冒険者になりたいと聞いて難色を示した。ティーが渾身のおねだりポーズwith上目遣いを決めても押し切れなかった。公爵自身は推薦をする条件は有しているのだが……。ティーが弱い、というのが理由の一つ。要するに、愛娘を危険に晒したくなかった。
ティーは取引をし、なんとか冒険者への登録にこぎつけた。ダダにダダをこねて嫌がった王都行きを我慢する代わりに、冒険者にならせろ。と。公爵としては律儀に耳を貸す必要はなかったのだが――トーリが間に入ってうまいこと話をつけたらしく、その点についてティーはトーリに感謝している(上から目線)。
トーリ:
「ティーはどうしてそこまで冒険者になりたかったんだい」
ティー:
「お前と婚約破棄しても食っていけるようにだよ。あと公爵家から追放されたとき用」
トーリ:
「はは。ティーは想像力が豊かだなぁ」
ジル:
「トーリ殿下は語彙が豊かですね。シンプルに馬鹿って言っていいですよ」
など和気藹々と王都の冒険者ギルドに到着した一行である。
ロリ巨乳:
「――――!!」
受付職員:
「――――」
ティー:
「なんだなんだ。モメ事か?イベント始まっちゃう?!」
受付窓口で女性と職員が口論になっているのを見つけ、野次馬に向かうティー。
ロリ巨乳:
「冒険者になりたいのぉ!登録させてぇ!」
受付職員:
「ですから……。どなたかの推薦がないと――」
ロリ巨乳:
「そこを何とかぁ……カッコイイお兄さん」
受付職員:
「う、うーん……規則は規則ですので……」
ロリが職員に詰め寄ろうとしている。割って入るティー。
ティー:
「どしたん?話聞こうか?」
ティーは、誰なんだお前は?みたいな顔をされつつ二人から経緯を聞き出した。
女性は働き口がほしいので冒険者になりたい。冒険者になるためにはコネが必要。コネはない。
ティー:
「ほかの仕事じゃダメなん?」
ロリ巨乳:
「え、えっとぉ……、あ、お金!が要るんですぅ!冒険者になるのが一番早いと思ってぇ――あたし、そこそこ強いのでぇ」
ジル:
(殿下……コイツ魔族です)
トーリ:
(だよね)
ティーとロリが話してる隣で、ジルがトーリに耳打ちする。
ティー:
「ふーん。じゃあトーリ?」
トーリ:
「いやダメだよ?流れるように振らないでもらえる?」
ティー:
「いいじゃん。やるって言ってるんだから、やらせてみたら」
ティーは思い出していた。昔の――転生前の記憶。就職活動である。
ティーは――当時の彼は、意欲に欠けた人間だった。生きるためには金が必要なので、何件かの企業に応募した。面接で聞かれるのは同じような事で――「当社に入ったら何がしたいですか」「仕事のやりがいは何だと思いますか」――金が要るから働くだけ、と。仕事に私情は必要ない、と。率直に意見を述べた彼は、面接で落ちた。面接官たちはきまって同じような表情をしていた。
トーリ視点では、会ったばかりの他人にクレジットカードを貸してやれと言われたようなものである。はい分かりましたと頷ける案件ではない。
逆に言えば、ティーには貸せる。ということ。残念ながらティーには厚意が伝わっていない。
ティー:
「これさ、私からの推薦ってアリ?」
トーリ:
「…………アリかナシかで言えば…………ダメだよって言いたいかな」
ジル:
「――――殿下」
トーリ:
「うん……。言っても聞かないと思うし……。流石に、今すぐにはダメだよ?まだ彼女の人となりも能力も分かっていないんだから――、一旦保留で、ね。受付の方も困っているようだしさ」
ティー:
「おけ。とりあえずウチおいで?私はティー。よろしく」
ロリ巨乳:
「ぇと、えっとぉ、ありがとうございますぅ?あたしはサキって言いますぅ」
―― ピンク髪褐色ロリ巨乳 『サキ』 ――
サキはずっと何が何やら状態であったが、どうやら後ろ盾になってもらえると察して愛想を振りまいている。
ティーが片手を差し出すと、サキはきょとんとした。ティーは勝手にサキと握手した。
ジル:
「――――で?お嬢様の登録はよろしいので?」
ティー:
「おぉ!そうだった!登録に血とかって要る?」
受付職員:
「え…………?書類、のお手続きをいたしますね……?推薦される方か紹介状は――」
トーリが軽く片手を挙げてウィンクした。
ティーの冒険者登録は滞りなく完了し――、
ティーは、とくにマジックアイテムが出たりステータスが表記されて云々などはなかったので……がっかりした。