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お作法のお勉強ですわの巻

 ティーは王宮の一室に来ていた。礼儀作法の講義である。


 講師は老婦人である。白髪や顔に刻まれた皺が厳格さを感じさせる。高齢だとは思われるのだが――直立に伸びた姿勢が衰えを感じさせない。

 生徒は自分と、もう一人。ティーと同年代ほどの貴族令嬢がいる。

 講師がどうやら多忙であるらしく――、一応は公爵令嬢たる自分につく講師はてっきりマンツーマンかと思っていたが――あまり時間も取れないため、二人で。とのことだ。


 ティーは化粧っ気があまりなく、メイドのジルも物臭のため、華美な装いをすることはあまりないのだが……今回はジルの手により完全武装をさせられていた。ジル曰く、『怒らせると面倒なので余計なことはしないでください。くれぐれも』とのこと。


 ティーとしては、王妃教育の一環として来ているのならば不適格と判断された方が楽だなぁ、くらいに思っているので気楽である。


講師:

「本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。講師を務めるローデット・マイエルと申します。お二方には窮屈な思いをさせ、誠に申し訳ございませんが――」

―― 鞭撻の 『ローデット・マイエル』 ――


ティー:

「いいですよ、別に。忙しいんでしょうし」


ローデット:

「ティエス・ワールウィンド公爵令嬢――。まずは言葉遣いから指導しなければならないようですね」


令嬢:

「ウフフ、ワールウィンド公爵令嬢ったらご冗談がお上手ですこと――」

―― 侯爵令嬢 『マルケーヌ・カマッセ』 ――――


 もう1人の生徒も有力貴族の婚約者候補なんだろうな、とティーは思った。相手は知らんけど。

 マルケーヌは裏を感じさせる態度にみえ、(冗談は顔だけにしておけよ)、とでも副音声が付いていそうな雰囲気である。


 講義がはじまってからも、やれ言葉遣いが悪い、姿勢が悪い、と注文を付けられたティーは頭に百科事典くらいの重さの教本を乗せたまま直立で話を聴いている。アニメかなにかでみたわぁ、とティーは少しテンションが上がった。


ローデット:

「では、Ms.ワールウィンド――。例えば隣国、イグザム皇国から第二皇子を招いたとしましょう。歓迎パーティの催しを行うにあたって、第二皇子、あなた、トーリ殿下――この場合、席次はどのようにするのが好ましいですか」


ティー:

「自由席でいいんじゃないですか?私なら立食形式にしますけど」


 ローデット、こめかみを抑える。マルケーヌ、扇子で口元を隠してほくそ笑む。


ローデット:

「では、Ms.カマッセ――。あなたなら?」


マルケーヌ:

「――っ。はい、そうですね……。この場合だと――第二皇子を上席にすべき、だから――、ユーシア国王、王妃に近い席に第二皇子を配します」


 と、マルケーヌは少し考えて言った。ローデットが口を開こうとし――


ティー:

「え?トーリでしょ」


マルケーヌ:

「は?」


 ローデット、こめかみを抑えて、


ローデット:

「Ms.ワールウィンド――。親しき仲にも礼儀あり、という言葉を胸に刻みなさい。――しかしながら、正解です」


マルケーヌ:

「えッ?!」


 マルケーヌは信じられない、という表情でローデットとティーを交互にみた。――ちなみにマルケーヌの頭には本は乗っていない。


ローデット:

「Ms.ワールウィンド。説明できますか」


ティー:

「公式に国賓扱いすると……王位?皇位?継承権争いに口出ししたとか見られたらダルいし――歓待はするけど。って感じかな。あの第二皇子じゃ皇帝つぐの無理そうだし」


 ローデット、小さくため息を漏らす。否定も補足もしないので、マルケーヌはそれが正答であると知り、歯を噛みしめた。


ローデット:

(ティエス・ワールウィンド公爵令嬢……。能力的には問題ないのでしょうけれど、性格に難がありますわね。マルケーヌ・カマッセ侯爵令嬢は性質が幼い……、やはりトーリ殿下の婚約者はMs.ワールウィンドを鍛えねばなりませんか……)


 ティーは社交辞令が嫌いである。本音を話して通じ合えないのであれば、そんな関係は要らない。上辺だけの付き合いならしなくてもいい。と、前世はそう生きていた。友達も、大切な人も、いなかったしいらなかった。

 悪意や隔意に対し敏感だった。人と普通に話していてもなんとなく分かってしまうので――他人と積極的にかかわることをやめた。

 ローデットはティーに対して口うるさいが、彼女から悪意は感じない。役目だから指導を行っているまでのこと。もしティーが、ローデットから馬鹿にされていると少しでも感じ取っていれば、ティーは指図を拒否しただろう。マルケーヌからはバリバリ悪意を感じているが……、どうせ大して関わらないだろうからいいか……くらいに思っている。


 そんな感じで作法の講義の時間は過ぎていった。


ローデット:

「では。以上で本日の講義を終了いたします。ありがとうございます」


ティー:

「ありがとうございまーす」


マルケーヌ:

「ありがとう……、ございます」


ティー:

「せんせー。荷物重いでしょ?部屋まで持つの手伝いますよ」


ローデット:

「Ms.ワールウィンド。社交界は常在戦場、一つの会が終わったからといって気を抜くべからずと心得なさい。ありがとうございます。しかし、これはわたくしの仕事ですので支障はありません」


ティー:

「えー?無理しないでいいですよ年寄なんだか――あいったァ!!」


マルケーヌ:

(ティエス・ワールウィンド……ッ!なんであんな女なんかが……ッ!!)


ティー:

「暴力は淑女としてどうなんですか?!」


ローデット:

「良いですか、Ms.ワールウィンド。礼儀とは人と獣とを分ける重要な作法です。礼を身につけることで人は人たりえるのです。しかしながら礼の通じない獣と相対しては、ときに躾を――――

ティー:

「――!―!

ローデット:

「―


 マルケーヌは二人――主にティーの背中――が廊下の奥へ立ち去っていくのを睨んでいた。瞳は憎悪の色に塗れていた。

 ティエスさえいなければ、家格としてはマルケーヌが第三王子の婚約者であってもおかしくはなかった。逆恨みではあったが――それがマルケーヌにとっての真実だった。

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