・『草地ハビタット』の管理と運用
文句を言われにくい草地ハビタットにするための、最大のポイントは「管理をすること」である。
とにかく、手を入れ続け、人の意思が介在していることを示し続ければ、まあ、よほどでない限り手を出してくるヤツはいない。
その上で、草地ビオトープ管理の方法を順番に挙げてみよう。
1.背の高い外来植物を抜く
草地として管理しようとすると、最初に必ず侵入してくるのが、背の高い外来植物である。ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギク、セイタカアワダチソウ、ヒメジョオン、ハルジョオン。この五種が一般的だが、こいつらをとにかく抜く。
可能なら芽出しやロゼット葉の頃から見分けて抜くのがベスト。何故まずこいつらを抜くのかと言えば、見た目対策と外来種対策が同時にできるから、である。
彼らを利用する昆虫もいて、特にヒメジョオン、ハルジョオンはハナムグリ類やアブ、ハチの吸蜜植物になっているのだが、吸蜜植物は他にもある。ここは心を鬼にして抜く。
背の高い彼らを抜けば、その場所の様子はがらりと変わる。
俺の偏見かもしれないが、なんとも貧乏くさく、いかにも放置していたって雰囲気から、なんだか日本古来の自然の草むらっぽくなるのである。
その後、彼らによって抑圧されていた、背の低い草たちが元気になり、草丈が伸びていくことで、地面の様子も変わっていく。
エノコログサやメヒシバ、オヒシバといったイネ科の草は、バッタの食草にもなるが、あまりに繁茂しすぎるとやはり貧乏くさい雰囲気になって来るので、これらは地上5~10センチくらいを残して刈ると良い。
こうした植物は、地表スレスレや地下に生長点があるので、上部を刈ったくらいでは枯れない。もともと、草食動物に食われることが前提で生きているから、そうした攪乱には強いのである。
むしろ、刈られた方が再生産効率が上がる、といった報告もあるくらいである。
イネ科植物が密生するようになって、地面が草に覆われてくると、前項で紹介した背の高い外来植物たちも生えにくくなってくる。
刈る頻度は、初夏から秋にかけて一か月に一回くらいが標準で良いと思うが、高頻度で刈るところ、地表スレスレまで刈るところ、全く刈らないところ、などと変化をつければ、それぞれのエリアが違うハビタットとして機能し。構成種や景観ががらりと変わって面白い。
そもそも、日本では草地を放置すると、数年で林へと遷移していってしまう。
徹底除草は論外としても、草刈りをして背丈を縮めるのは、草地を草地として維持するための管理の基本といっていい。
刈った草は、そこへ放置してもいいが、集積して積み上げておくと、コオロギの幼虫などの住処として機能する。さらに時間がたつと腐植質化してハナムグリなどの幼虫の餌となり、ミミズやトビムシなど土壌動物による分解を経て土壌を豊かにしていく。
量が多すぎる場合は、燃やしたり搬出したりする分があってもいいが、やはり、積み上げておく分は確保して欲しい。
ただ、燃やした場合は、燃やした場所の土壌がアルカリ化して、植物の構成が変わったり、草の生える勢いが良くなったり悪くなったりする。まあこれも違うハビタットの一つなので、否定するばかりでなく、試してみるのは悪いことではない。
2.ロゼット植物を抜く
キク科植物に多い越冬形態であるロゼット。
地面にへばりつくようにして寒さに耐える姿は、逆境に耐える人の姿を彷彿とさせて心打たれるものがある。
だが、実際のところ、この形態の連中のほとんどが外来種である。ブタナ、ノゲシの仲間、セイヨウタンポポ、および前項で紹介した外来植物五種の冬の姿が、大抵その正体。
葉に特徴があって見分けやすく、処理しやすいので、ロゼットの時に抜く。
抜くときは、主根を残さないようにする。これを残すと、地上部が無くなってもまたしばらくすると復活する場合が多いからだ。
根元をつかんでズボッとまっすぐ……抜ければいいが、なかなかそう簡単にはいかない。
よって鎌を地面に挿し、主根の周囲をできるだけカット、つまり根切りしてやると、比較的抜けやすくなる。それでも抜けない場合は、不本意だができるだけ深い部分で主根をカットして抜く。復活の恐れはあるものの、植物体へのダメージはかなり大きいようで、これを何回か繰り返せば消えていく。
在来種のロゼットもあるが、ジシバリ、オオジシバリとアザミ類、在来タンポポ類くらいを、抜かないよう気を付けておけばいいだろう。それ以外には今は思いつかないが、在来種で保護したいロゼットがあれば見分けて抜かないようにすればいい。
3.グランドカバー植物を増やす
ビオトープってのは、基本『引き算』である。
何かを移植したり放流したりするのは、かなり慎重にしないと、かえって地域の生物多様性を損なうことになりかねないからだ。だから、グランドカバー植物を増やすといっても、ホムセンや園芸屋で買ってきて植えろってんではない。
そこに元々生えている植物の中で、グランドカバーになりそうな種類を選んで残していくっていうことである。もしもグランドカバーに適した植物が無ければ、周囲を回って探してくるのはいい。
ただ、いかにもいい感じの植物でも、強健な外来種ってことも多いので、移植の際にはちゃんと種類を見極めてからにしてほしい。
在来でグランドカバーに適した植物というと、以下に紹介した種が思いつくが、これは地域によっても標高や環境によっても違うかもしれないので、あくまでご参考まで。
・カキドオシ
茎を地面に這わせてどんどん増え、背が高くならず、花がそこそこ綺麗である。土壌を選ばず、乾燥気味でも湿潤気味でも日向でも日蔭でもいける。まさにグランドカバー向きの植物なのだが、増えすぎることが難点といえば難点。とはいえ、制御のために除草する場合も、蔓を引っ張ればどんどん剝がれてくるのでやりやすい。
・ムラサキサギゴケ
増える速度がカキドオシよりも遅いのが、長所であり短所でもある。
なかなか増えない代わりに、増えすぎて駆除する事態にはなりにくい。一度地面を覆ってしまえば、見栄えはいい。
小さな紫色の花は愛らしいが、花の時期以外は地味なのも欠点といえば欠点。
・ヘビイチゴ類
「類」としたのは、似たようなものが何種か存在するからで、性質も適した環境も少しずつ違う。ヘビイチゴ ヤブヘビイチゴ、オヘビイチゴ、ミツバツチグリ、キジムシロの五種が代表的であるが、赤い実をつけるのはヘビイチゴとヤブヘビイチゴだ。
中でも、レア度も性質も標準的なのがヘビイチゴで、それを基準として考えると……
より日陰を好むのがヤブヘビイチゴ。
湿った環境を好むのがオヘビイチゴ。
乾いた環境に耐えるのがミツバツチグリ。
日当たりの良い場所を好むのがキジムシロ。
どれも程度問題で、日が当たったからヤブヘビイチゴがすぐ枯れるわけでもないし、多少湿っていたからといってミツバツチグリが根付かないわけでもない。
それどころか、これらが混生している場合もあるくらいだから、元気がないなと思ったら、環境を改善してやるヒントになるくらいで考えればいい。
どれもそこそこ花が綺麗で、背が低く、吸蜜植物としても機能する。ランナーと呼ばれる匍匐枝で殖え、地面を覆ってくれることでいい雰囲気を出してくれる。
ただし、赤い実をつけてくれるのは、ヘビイチゴとヤブヘビイチゴの二種だけなのでご注意。
・ユキノシタ
日本庭園の定番にして、日陰の覇者。
逆に日当たりが良すぎると、葉がちりちりになったり枯れてしまったりする。
匍匐枝で殖えること、葉の模様や色が特殊で見た目も悪くないこと、高湿度でも平気なことなど、日当たりの悪い場所での草地ビオトープのグランドカバー部分には最適といえよう。
湿り気さえあれば、岩の上や垂直の壁にも生えることができるというのも、おすすめポイントのひとつ。
ただ、問題はこいつらを利用する生物が少ないことだ。花は咲くが、寄ってくる虫は少ないし、食草としている虫もあまりいない。
つまり、ハビタット構成種としてはあまり生物多様性に貢献していないといえるが、日当たりが悪くて諦めてしまっていたような場所でも、草むらを作れるという点ではありがたい。
毛が多く、べつに柔らかそうでもないのに、葉をゆでるとクセもなく美味しい。という不思議な草でもある。片面に衣をつけてあげる天ぷらもいい。
・オオバコ
踏みつけに対して最強植物といえば、このオオバコ。
逆に踏みつけにさらされないところでは他の植物に負けてしまう。よく歩く部分を緑化したい時などにはお勧めの植物。
タフだし乾燥にも湿気にも強く、砂利土でも砂地でも赤土でもよく育つ。
ユキノシタほど美味くはないが、葉っぱはてんぷらで楽しめるのもうれしい。