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・『石垣』の管理と運用


 さて、石垣の隙間を利用する生物の代表格は、主にトカゲ、ヘビ、ヒキガエル、カタツムリなどの日陰を好む生物である。特にニホントカゲにとっては、隠れ家はかなり重要で、日光浴していながら、敵が来るとさっと隠れられる石垣は、ありがたい住処といえる。

 さらに、空石積みの石垣の奥には、一定の湿度のある土もあって、産卵場としても利用されるから、自宅ビオトープにトカゲを誘致したい場合は、まず石垣を作ることをお勧めしたい。

 ヘビは、こうした石垣に住むトカゲやカエルを捕食したり、自分の住処やシェルターとして利用したりする。中でもアオダイショウやシマヘビなどが、石垣まわりで一般的に見られるわけだが、逆に「ヘビが住み着くのが嫌」という理由で、昔からあった石垣を壊してブロック塀に変えたり、隙間にモルタルを注入して生き物が住めなくしたりした人を、何人か知っている。

 俺からしてみれば、まったく理解できない行動だが、嫌うのはその人の自由だし、自分の家なのだから好きにすればいい。

 ただ、日本に住むヘビの大半は無毒であり、有毒のヤマカガシも積極的に噛んできたりはしないことは知っておいて欲しい。マムシにしても遭遇確率は低いし、これもやたら噛みついてくることはない。気を付けるべきではあるが、やたらに恐れる必要はない生き物だ。

 「生態系ピラミッド」などというと、古い概念ではあるが、その上位の生き物であるヘビがいる状況というのは、生物多様性の視点からすると成功といえるわけだ。

 まあ、ヘビは最上位、というわけではない。イタチや猛禽に襲われて食われる生き物でもある。イタチや猛禽が減ってヘビが増えれば、ネズミやカエルの数は抑制されるわけで、それもバランスの問題といえる。

 そんなわけで、隙間のある石垣まわりには、うまくするとイタチなども見られるようになる。イタチも狭い場所を巧みにすり抜ける特技を持っているので、石垣の隙間は行動圏になるのである。

 変わった例だと、数メートルもある石垣の高い位置に、シジュウカラなどの小鳥が巣を作る場合もあるが、彼らにとって安全とは言い難い場所なので、例外と考えていいと思う。

 また、河口域近くだと、ベンケイガニやアカテガニなどの陸生傾向の強いカニが住み着くことがあり、逆に山間部で渓流がすぐ近い場所にあると、サワガニが住んでいることもある。

 地域や標高、環境によってさまざまな生物が石垣の隙間を利用するわけであるが、残念な点を挙げるとすると、どの生物も近づくだけで石の隙間に逃げ込んでしまうことだろう。

 観察するには捕獲する以外になく、捕獲するには餌で釣るか罠にかけるかしかない。よって、これらを観察するのは至難の業であるといえる。


 運用の注意点として重要なのは、隙間から生えてくる植物の管理であろう。

 草地ハビタットと同様、背の高い外来植物が生えてくるとみっともない上、在来種の生活場所を占拠してしまうので抜ける限り抜く。

 それ以外にも、ヤブマオやススキなどの多年草が大きな株になることがある。

 見た目はさておき、根が育ちすぎると石垣を崩す恐れもあると思われるので、見つけたら抜いてしまうか、それが無理なら、まめに草刈りをして大きくなりすぎないよう抑え込んだ方がいい。

 これは樹木も同じで、エノキやアカメガシワ、カエデなどの種子が隙間に入って芽を出すことも多いが、大きくなってくると石垣そのものを崩してしまうので、早い段階で抜いた方がいい。うまく根付きで抜ければ、敷地内に移植して樹林ハビタットのメンバーを増やせる。

 こうした植物の管理さえ怠らなければ、石垣に生えてくる植物は、年季が入るほど面白くなってくる。

 普通の土壌より乾燥しやすく、根も張りにくい過酷な環境であるから、生えてくる植物は種類もサイズも他の場所と違うことが多い。

 同じような別環境、たとえば道路わきの舗装の隙間とどう違うのか、という話になるが、そういう場所はすぐ除草されてしまったり、除草剤を撒かれてリセットされてしまったりする場合が多いが、石垣の隙間はそういうリセットが行われないことがポイントだ。

 作って数年くらいは、大した変化は見られないが、何年も経って遷移が進んでくると、少しずつ種構成が変わって来る。

 これは、除草剤に弱い種や、乾燥に極端に強い種、栄養分の少ない状況に強い種などが生き残っていくせいだと思われる。

 とある海辺の漁村で見つけた石垣には、周辺ではほぼ絶滅したナデシコを発見したことがあるが、ナデシコは上記の三条件を、見事にクリアしている。絶滅危惧種なのと「大和なでしこ」などという言葉もあるので、たおやかで脆弱なイメージを持つ人もいるかもしれないが、本来は強靭な生命力を持ち、勝手にどんどん増える植物なのだ。

 最大の弱点は『除草剤』であり、これを撒かれるとどんどん消えていく。また、自家不和合性、つまり自分の花粉では種子を作りにくい性質も持っているようで、同じ系統のクローン個体ばかりになると、これもどんどん消えていく。

 だが、乾燥にも貧栄養にも強く、種子以外でも株分けで殖えるので、環境が整えばすぐに大群落となる。

 発見したのは非常に古い石垣だったが、除草しづらく、他の植物も生えづらい石垣の隙間であればこそ生き残っていたものであろうと思う。


 山間部や林の近くなどの湿度の高い場所だと、表面を蘚苔類が覆うようになることもあり、地衣類も発達してくる。そうした苔や地衣類の上に、さらに植物が着生することもあり、テラリウムのような光景も見られるかもしれないし、地衣類を食うイシノミや地衣類に擬態するガの仲間のような特殊な昆虫も観察できるかもしれない。

 このように石垣で石の表面の生態系づくりにチャレンジしたい場合は、使用する石を選ぶ必要がある。流紋岩や花崗岩など、硬く微細な穴の少ない火成岩は、表面に水分をあまり貯め込まないので、苔が着きづらく剝がれやすい。これに対して堆積岩の仲間や火山岩は、微細な穴があり、土やほこりが表面に溜まりやすく、苔や地衣類、他の植物も着生しやすくまた剝がれにくいのでおすすめである。

 ただし、多孔質の石は、どうしても軽く脆い傾向がある。一段や二段積むなら問題はないが、高く積むような場合は危険なので脆い多孔質の石は使わない方がいい。


ハチについて

 石垣を管理する際に、ヘビなどよりも問題となりやすいのはハチである。

 前述したように、ハブの住む島嶼をのぞいて、日本には危険度の高いヘビはほとんどいない。

だが、オオスズメバチやキイロスズメバチなどが、石の隙間に巣を作ることはあって、場所によっては、こっちの方がずっと厄介だ。

 場所によって、というのは、べつに近寄らずに済む場所なら、彼らが巣をかけている間、近寄らなければいいだけのことで、わざわざ殲滅しに行く必要はないということである。

 毎年必ず同じ場所に巣を作る、ということでもないし、イラガやドクガの幼虫を積極的に狩ってくれるから、生態系バランス上も放っておけるならその方がいい。

 しかし、どうしてもよく人が通る場所に巣をかけてしまったなら、スズメバチ類であれば業者に頼んで駆除してもらった方が無難ではある。

 春先などは数も少なく、そう攻撃的でもないのだが、秋口から次第に攻撃性が高くなり、数メートルまで近づいただけで、集団で襲ってきたりするから、甘く見てはいけない。

 夏ごろはただ威嚇してきただけの連中が、秋になると問答無用で刺してくることもあるので、ことスズメバチに関してだけは、注意していただきたい。

 だが、それ以外の石垣に住み着くハチに関しては、そう怖がる必要はない。

 アシナガバチの仲間、ジガバチなどの狩りバチ、ハキリバチなどが石垣の隙間を利用して巣をかけることがあるが、どれも攻撃性は高くない。

 そればかりか、花で吸蜜して花粉を媒介したり、対象の芋虫やクモなどを捕獲したりして、ビオトープ全体の生態系に深く関わる生物なので、怖がらずに見守っていただきたい。

だが、アシナガバチも種によっては、巣に近づきすぎると攻撃してくる場合はあるし、狩りバチも条件位によっては刺してくることはある。

 必要以上には近づかないようにし、遠くから見守るなど、つきあい方は気を付けなくてはならないが、その辺を飛び回っている程度では、刺されることはまずない。

 どうしてもじっくり観察したい場合は、捕獲して透明なプラ容器の中に入れるか、巣を望遠レンズで狙うようにすると良い。



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