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『石垣』と『生垣』というハビタット


 庭の敷地の中、あるいは外との区切りは何らかの形で必要になる。ならばフェンスや塀ではなく、どうせならそれを生き物の住処にも活用したらどうか、ということである。

 石垣と生垣、どちらも古今東西使われてきたオーソドックスな手法だが、やり方によって生物多様性をグッとアップさせることが可能だ。

 まず石垣だが、石垣なら何でもいいわけではない。最大のポイントは隙間があるかどうか、である。

 隙間を完全にモルタルで埋め、まったく穴のない構造のものは、ハビタットの機能としてはブロック塀と大きく違わない。

 しかし、いわゆる従来工法である『空石積み』であれば、隙間を様々な生物が利用でき、生物多様性は飛躍的に向上する。

 「飛躍的」などというのが、大げさかどうか、少々解説したい。


 まず、隙間がないとシェルターとして機能しないことくらいは分かるだろう。いざという時の隠れ場所。これがないと安心して生活できない生物がいるわけだ。

 といっても、空石積みの石垣を作るには、相当な熟練の技術が必要であって、素人が真似をしてすぐにできるものではない。

 形ばかり似たものができたとしても、何かのきっかけで崩れやすく、大変危険だ。

 地震などあったら、重い石があちこちに散乱して物を壊すことになりかねない。

 ただ、プロの積んだ空石積みは、地震にも強くその心配は薄い。

 素人工事でも崩れにくい方法として、木杭を等間隔で打ち、その間に石を放り込んでいく方法もあるが、これだと石垣の中身がすべて石になる。つまり「石垣の奥のいい湿度の土壌」が無いことになるので、効果は半減である。

 蛇籠じゃかごといってワイヤーや針金で作った籠の中に石を入れる方法も同様で、崩れる心配はないものの、内部の土が無いことになる。

 もっとも、それを見越して先に盛り土をしてから杭を打ち、隙間に石を放り込む手もあるし、そうでなくともただのコンクリ塀よりは隙間のある石垣の方がずっとマシではある。

 それに、施工後年数が経てば隙間に土が溜り、草が生え、奥の方に土壌らしきものも形成される。また、高く積み上げず、石を二個か三個積むようにすれば、たとえ崩れても大したことはないから、どうしてもプロに頼めない場合はこれでもいい。


 次に生垣だが、樹種の選定と管理しすぎないことがポイントである。

 まず、樹種の選定だが、生垣を地域遺伝子を持つ在来樹種で作ろうとすると、かなり難しい。公園などでよく見る生垣は、カイヅカイブキ、サツキ、アベリア、ユキヤナギ、レンギョウなどで、在来樹種で作成された生垣というので思いつくのは、シラカシくらいであろうか。

 幸いなことに、どの種も勝手に野生化して殖えていくようなものではなく、侵略的でないので、使用に大きな問題はないと思われるが、その中でも優劣はある。

 特にカイヅカイブキは、誘引される昆虫がほとんど無く、樹脂成分がきついためか、葉も枝もなかなか分解されずに残るため、そのハビタットの生物多様性にはあまり寄与しない。

 腐りにくいのを逆手にとって、大きく育った丸太を、長期間野外に使用しても腐らない素材として、堆肥場の枠やヒキガエルなどのシェルターとして利用はできるが、まあ、その程度だ。

 また、サツキも原種が在来の割には、カイヅカイブキほどではないが、生物にあまり利用されない樹種である。花に来る昆虫はそこそこいるが、誘引力はさほどでもない。

 ユキヤナギはホシミスジというチョウの食草になるし、早春の花には昆虫も来るので、悪くはない。レンギョウも早春に花を咲かせる。

 だが、これらの中で、最も推したいのは、実はアベリアである。

 アベリア、別名ハナゾノツクバネウツギは、タイワンツクバネウツギとアベリア・ユニフロラという外国産種の雑種であるが、雑種ゆえに繁殖力のある種子を作らない。

 剪定に強く、短く刈りこんでもすぐ復活するし、枝を挿しておけばよく根付くので増やしやすい。

 しかし、種子を作らない割に花は豊富に蜜を出し、昆虫をよく誘引する。アゲハチョウやスジグロシロチョウなどのチョウの他、オオスカシバやホシホウジャクなどの訪花性のガやクマバチ、マルハナバチなども良く来る。花期も桁外れに長く、春から秋まで咲き続けるので、やって来る昆虫を狙ってカマキリやクモも住み着く。

 この桁外れに長い花期。日本在来の植物ではありえないことではある。

 地域生態系にとっていいことばかりかというと、誰も検証した人はいなさそうで不明なのだが、おそらく、妙に訪花昆虫がアベリアに偏って来てしまったり、本来は花のない時期に蜜が供給されたりすることで、バランスの変化はあるものと思う。

 だから、挿し木でいくらでも殖えるからといって、あまり調子に乗って巨大な生垣は、作らないようにしていただきたい。

 徒長した枝は、カマキリの産卵や大型のクモの巣にちょうどよく、向こうが透けない程度に繁茂するため、アシナガバチが中に巣をつくることもある。また、根元部分には何故か他の樹種の実生が生えやすく、エノキなど在来種が、生垣に混ざることも往々にしてある。

 こうした特徴は、正直、人工的なキッチリした管理をしたい人にとってはマイナス要素ばかりだが、ことハビタットとして考えた場合には、すべて長所になる。


 そして、前述した空石積みの石垣の上に生垣があるとさらに良い。

 たとえば生垣だけでは、トカゲが住むには隠れ家が不十分だし、石垣だけでは誘引されるだけの餌がない。だが、石垣と生垣を組み合わせれば、隠れ家の周囲に餌が住み着く状態となるわけだ。

 また石垣というハビタットと、生垣というハビタットが上下にある状態というのは、スペースの節約にもなる。

 このすぐ脇に、草地ハビタットがあって、堆肥場が並んでいれば、それらのハビタット同士のエコトーンが効果的に働き、両方を利用する生物が殖えて、さらに効果は大である。



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