・『草地ハビタット』で生き物を管理する その2
・チョウなど昆虫の吸蜜源としての草
チョウなどの昆虫の吸蜜として、花は重要である。しかし、在来種の草本で「大量に蜜を出し」「周年利用出来て」「誘引性も高い」植物は基本的にない。
園芸種や外来種には、上記の条件をクリアする草もあるが、外来種や園芸種を導入するのは、ビオトープの理念から外れる。
これは、ただ単にイデオロギーの問題ではなく、おそらく日本の生態系を維持する上でも望ましいことではないのだろう。
在来の植物がある時期に集中して花を咲かせ、短期間だけ誘引性を高める傾向があるとするならば、それは生態的にそういう必要があったからではないか。
つまり、その方が有利だったからであろうし、それを前提として昆虫も生活環を組み立てている可能性が高い。それを、誘引性が高いからといって、周年花を咲かせるような園芸種や外来種を多く植えたりすれば、どこかに歪みが来る。
よってやはり、できればビオトープにおいては在来の植物にこだわりたい。
周年花を咲かせるのは難しいが、春先のみとか、秋のみとかに高い誘因力を発揮する草本はあるので、そういう種類を組み合わせれば、結構長い期間、花に昆虫が来ている状態を観察できる。
まず、ホトケノザ、ノカンゾウ、在来タンポポ、ニリンソウ、カタクリ、エンゴサク、ムラサキケマン、スミレ類などなど、早春から春にかけて野山に咲く花は結構ある。
他の背の高い草がまだ芽出しくらいの時期に、さっさと可憐な花を咲かせ、初夏までに実を作る。中にはそのまま枯れ、夏ごろには消えてしまって来年の春まで地上部は無くなってしまう草もある。
これらは花期は短いものの、春先にミツバチなどの栄養源としては貴重だし、早く発生するチョウや越冬型のチョウには砂漠のオアシスと呼んでいい存在だ。
問題は、これらの草はほとんどが、自然度の高い里山の林床や里地に生えていることで、そういう場所で掘り取って来るのは、泥棒であるから推奨できない。
こうした盗掘による被害は決して無視できないもので、そのせいで消滅した自生地もある。そりゃあ、自生地がなんかの工事でつぶされることになって、そうなるくらいなら、と掘り取って来ることが、非難されるかというと微妙ではある。だが、生き物って奴は、その生息環境に合わせて進化してきたものであり、生息環境とワンセットでその種といっても過言ではない。
特に植物のように移動力の低い生き物は、その自生地に合った形質を受け継いで進化してきている。つまりその自生地から離れてしまった時点で、滅亡したも同然なのだ。
ゆえに、ホームセンターでもカタクリだのなんだのと山野草として販売されているのを見かけるが、そういったものを購入してきて植えるのも、生物多様性保全としては意味がなく、ビオトープとしてはまったく推奨できない。
それくらいなら、街中や街路樹まわりで、この季節に花を咲かせる様々な草を利用した方がいい、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ヤハズエンドウ(カラスノエンドウ)、ノボロギク、レンゲ、シロツメクサなどなど、で、問題はこれらみごとにすべて外来種だということ。
特にヒメオドリコソウは、在来種のホトケノザと雑種まで作ってしまって面倒なことになっている。
まあ、どれも日本に渡って来て長いこともあって、一面に埋め尽くしたり、他種を駆逐したりする侵略的行動をとっているわけではない。よって、こいつらを積極的に駆除する必要はないかも知れないって理由をこじつけ、吸蜜源として利用するわけだ。
とはいえ、もともと生えているのを、除草しないようにしてやるくらいの配慮でよく、採ってきて植えたり、水や肥料をやったりする必要はない。あくまで吸蜜源を残してやるために駆除しない、というスタンスで。
夏から秋にかけては、逸出したニラやノゲシなども吸蜜源となる。こうした外来植物に頼らなくてはならないのは辛いところだが、都市部の庭では他に有効は方法はないと思う。
もし里山里地が近いならば、ヒヨドリバナ フジバカマ、オミナエシ、ハギ、ミソハギ、オカトラノオといったその季節の花々が咲くので、これらが自生しているようなエリアなら、それらを保護してやったり、種子をいただいてきたりくらいは、容認されると思う。
あと吸蜜源としては、草本以外には樹木もあり、こちらの方が開花期間も長く、誘引性も高いものがあるので、別項でご説明したい。
・カナヘビ
トカゲの仲間で、ニホントカゲより小さくて細長く、ツヤのない皮膚をしているのがニホンカナヘビである。
草地ハビタットとして考えた場合、もちろんニホントカゲも住み着くことはあるが、ニホントカゲを呼ぶにはまた違ったハビタットを用意した方がいい。
カナヘビは小さな昆虫やクモなどを食べる。草地でよく見かけるが、林縁部や石垣の隙間などにもいるし、石や倒木の上で日光浴=バスキングをしているのもよく見かける。
このへん、ニホントカゲと重なった生態ではあるが、どうも、より草地に適応している節があるのだ。体重が軽いせいか、草の上にいることも多く、大きな葉の上で日光浴するのを見かける。長い尻尾は、草の上を移動するのにバランスをとるために役立っているようである。
彼らの移動力は低く、環境を整えてやったからといって、すぐさまやって来たりはしない。
周囲にカナヘビの住む林縁や草原、公園などがあれば話は別だが、いきなり住宅地の庭に現れたりすることは少ないだろう。
ただ、建造物に挟まれた狭い水路脇でも草むらが残っていたりすると、そこに細々と住んでいることがあって、そういう場所近くに草むらビオトープを開設すると、高確率で引っ越してくる。
カナヘビは、決して開けた場所が好きというわけではなく、やはり隠れる場所が近くにあった方がいい。林縁部や河川敷などに多いのも、隠れ家が近くにあるせいだ。
草むらビオトープの場合は、倒木や刈草を積んだ場所がこれに当たり、そういう隠れ家はコオロギやゴミムシなどを呼び寄せるので、餌場ともなる。
だが、倒木などはなかなか入手しにくいし、よほどうまくレイアウトしないとみっともなく見える場合もある上に、一本や二本では隠れ家として心もとない。
よって、瓦や植木鉢の割れたものを積んで、その隙間を利用してもらうのも良い方法だ。
これはもちろん、木の板や樹皮、コンクリ片など様々なもので代用できるから、自分で工夫してみると良い。
カナヘビを誘致する場合、気を付けなくてはならないのはネコの存在である。
屋外飼育の猫や野良猫の密度が高いと、カナヘビは食われてしまう。いや、食われるのならまだいい。もてあそばれて殺された挙句、捨てられることの方が多い。
カナヘビに限らず、トカゲでもカエルでもネズミでもモグラでも小鳥でも、小型動物という小型動物は同じ運命をたどると考えていい。
近所のおかしな人が餌やりをしている場合はどうしようもないが、間違っても自分が外ネコに餌やりなどしないようにしてほしい。
もちろん、アオダイショウやシマヘビなどのヘビ、イタチ、カラスやキジなどもカナヘビを捕食するが、それらが来るほど自然度が上がって来れば、まあ、カナヘビもそこそこの生息密度になっているだろうし、食いつくされることはないだろう。
外ネコの問題点は、カナヘビなどを捕食できなくても、もらったエサでどんどん殖える点にある。つまり、わずかに残った野生小動物を食いつくしてしまうわけで、持ってきた獲物をほのぼの画像としてSNSにアップしている場合ではない。
・カヤネズミ・アカネズミ
意外に思われるかもしれないが、立地が良く、草の密度が一定以上あって、人間によるプレッシャーが低いと、十メートル四方程度のハビタットでも、カヤネズミが来ることはある。
経験上だが、山沿いで水田脇のため池ビオトープには、そのエコトーン部分にススキとヨシとクサヨシの混生群落があり、毎年カヤネズミが来ていた。
秋、草刈りをして初めて気づくレベルの話ではあったが、三×八メートルくらいの群落に二つくらい巣が発見された。
カヤネズミがよく住むとされる河川敷からは遠いが、水田そのものにも住み着くことがあるらしいから、より巣をつくりやすいヨシやススキがあるビオトープへやって来たのであろう。
さすがに住宅地のビオトープでは難しいだろうが、自宅が水田地帯にあったり、河川敷に隣接した立地だったりする場合は、草丈の高いイネ科やカヤツリグサ科の植物を優占させるように管理すると、カヤネズミが来る可能性はある。
アカネズミの場合は、もっと地上近くにカヤネズミのそれとよく似た巣をつくる。
アカネズミは、社寺林などが数百メートル程度の距離にあると、草地に巣をつくるようである。以前、密生させたサツマイモの蔓の間に巣をつくられたことがあるが、開けた農村部で、近場に社寺林はあったが、除草剤でまったく林床に植物がないような場所であった。
アカネズミを呼ぶ草地の条件はよく分からないが、巣の場所がサツマイモであったことを考えると、春から秋にかけて、密生した状態のまま、ほとんど人が手を入れないような状況であるのがポイントであろうと思う。
ゆえに、数メートル四方でも『一切草刈りをしない場所』を作ってみるのが、アカネズミ誘致には良いと思う。