水辺がなくても来る生き物はいる
個人宅などでビオトープを作ろうとするときに、まず作っておいた方がいい、となる基本構造ってものがある。
まあ、池などの水場がそうだし、その岸辺のエコトーン、草むら、石積み、竹筒を束ねたもの、朽木丸太なんかである。
中でも水場や湿った場所、つまり「湿地帯」は、実際のところビオトープの中核と言っていいストラクチャーであり、それナシで成立するのか、と疑問に思う方もおられるだろう。
まず、水場が無ければ水生生物は住めない。
つまり、メダカもカエルも水生昆虫もいないビオトープとなる。
ビオトープを利用する生物の中には、一生水中や水辺にいる水生生物だけでなく、一生のうちの一時期や、季節の何割かを水中や水辺で暮らす連中も多い。
カエルやイモリなどの両生類、昆虫ではトンボのほとんどがそうだし、カゲロウやトビケラ、ヘイケボタルやゲンジボタル、あまりありがたられていないもので言えば、カの仲間もそうだ。意外なところでは、鳥もそうである。カモなどの水鳥は言わずもがなだが、多くの小鳥は小さな水場で水浴びするし、ハトやカラスも水を飲む。サギやカワセミなど餌を水中に求めるものもいる。もちろん、タヌキ、アナグマなども水飲み場に現れるし、イタチなどは水中の餌も狩る。
植物にしても、水生植物や湿生植物のぶん生えられる種類数が増えるし、水場からの水分で陸場の植物たちも元気になる。
そもそも水を必要としない生物などいないわけで、それだけでも「湿地帯」を作るメリットが大きいことが分かる。
小さな水たまり程度でも、アメンボやハイイロゲンゴロウが羽を休めに来たり、アキアカネやシオカラトンボが産卵に来たりするわけで、こうした反応の早さは管理者のモチベーションを高めもする。
だがしかし。
湿地帯を作れない場合、というのは実際にある。
何を隠そう、この俺がそうである。
理屈の通じない家族……まあ妻だが、自宅に湿地帯を作ることを断固として許さないのである。「蚊が発生するから」というのがその理由なのだが、その意思は徹底していて、植木鉢の水受け皿すら許されない。
水受け皿はまだしも、大きめの水域である池やプラ舟にボウフラが発生する確率は低い。メダカなどの捕食者が住めば、さらに確率は減るわけだが、それをいくら言っても妻には通じない。
たまに庭で蚊に刺されたりすると、水場が全くないにもかかわらず、俺の管理しているプランターや植え込みに嫌疑をかけるくらいである。
実は、自宅裏の家が庭に衣装ケースを埋め込んだ水場を作って放置していて、明らかにそこが発生源なのだが。
こうした場合以外にも、水源がどうしても確保できないとか、水場を庭に作ると風水的にまずいとか、プラ舟に親を殺されたとか、ビオトープに興味があっても、水場をどうしても作れない様々な理由が考えられる。
では、そういう庭ではビオトープが作れないのかというと、そんなことはない。
そろそろ言い古されているが「ビオトープ」は「ビオ(生物)」+「トープ(場所」の合成語であり「生物が住んでいればビオトープ」なのである。
水生生物だけが生物なわけではない以上、湿地帯のないビオトープだって作れるのだ。
ビオトープを構成するのは、「いくつかのハビタット」とそれぞれをつなぐ「コリドー」およびその繋ぎ目である「エコトーン」であって、それが水場である必要はない。
そんなビオトープでも、そこそこ魅力的な生物には出会えるし、楽しめるのだということ、そしてそういうビオトープならではコツや長所、短所などをここでご紹介しようというわけだ。
とりあえず、次項から「湿地帯無しビオトープ」の作り方と実例および注意点を述べて行こう。