その1
●小ネタその1●
直江景綱(以下、景綱)「殿、今川の策略で武田が塩止めを食らっておるらしいですぞ」
上杉謙信(以下、謙信)「何!? 塩止めだと!?」
景綱「はぁ。そのようでございます」
謙信「信玄の治める甲斐と信濃は内陸の土地だからな。塩が自国で取れぬというのをいい事に、今川は何と卑劣な事を……」
景綱「いやいや、これも軍略というものでございましょう」
謙信「何を言う景綱! こんな事は武士道に反する事だぞ! 毘沙門天もお許しにはなるまい。ということで、信玄に塩を送ってやれ」
景綱「はぁ。……はぁっ!? ほ、本気でございますか!? 謙信様!」
謙信「オレは嘘は言わんぞ。それくらい知ってるだろ? オマエ」
景綱「いや、そりゃそうですが。わざわざ敵に送りつけるような真似は……」
謙信「何を言うか!!! 塩が取れないと言う事がどれだけ大変な事かオマエ分かっているのか!?」
景綱「ひぃ!? すみません分かってませんでしたぁー!!! すぐさま武田殿に塩を送らせますーーー!!」
謙信「ふんっ! 全く! しかし塩がないとは、本当に気の毒な事だぜ……オレなら耐えられないな」
景綱「こ、怖かっ……!! しかし謙信様はお人が良いのう。わざわざ敵方に塩を送るなど……ふぅ」
真田幸隆(以下、幸隆)「お屋形様、朗報です。塩が届きました」
武田信玄(以下、信玄)「何? 今川が塩止めを止めたか?」
幸隆「いえ。他の国からわざわざ送って下さったようですが」
信玄「何と……! 我の治める国は内陸部だから塩を自力で取ることは適わぬ。それを見越して何処かの国が塩を送って下さったのか。何とありがたい……して、どこの国ぞ」
幸隆「越後でございます」
信玄「……越後?」
幸隆「はい」
信玄「…………幸隆、お主でも嘘を言うことがあるのか。面白い冗談だな」
幸隆「俺が嘘を? 冗談? 俺が? 言うと思いますか、俺が、嘘や冗談を」
信玄「いや、済まん。全く思わん」
幸隆「左様でございますか」
信玄「……ということは、本当に越後が? あの上杉謙信が?」
幸隆「そのようです」
信玄「……何と……敵である我に塩を送るとは。敵ながら天晴れな者よ。これだけあれば民にも配れるな。幸隆! まずは民達に塩を配れ!」
幸隆「はっ」
その後、何とか武田の領地への塩止めが収まりました。
信玄「良かった……これで民達が困ることはないな。しかしそれも軍神からの塩が無ければここまで持たなかっただろう。ありがたいことだ」
幸隆「そうですね」
信玄「うむ。こちらからも何か礼をせねばなるまい。何が良いだろうか幸隆」
幸隆「何でも良いんじゃないですか」
信玄「……塩を送り返すというのも面白味にかけるものか?」
幸隆「さあ」
信玄「…………これだけ大量の塩を送ってくれたのだ、越後では塩は多量に取れるのだろうな。他のものが良いか」
幸隆「そうかもしれませんな」
信玄「………………では奮発して砂糖にするか」
幸隆「はっ」
信玄(こういう時の幸隆は反論もせぬが案も出さぬな……)
景綱「殿、武田殿からお礼の物資が届きましたぞ」
謙信「何? もう塩止めは解除されたか。ふん、まあ塩止め如きで死なれても困るしな。アイツとは戦場で決着つけたいからな!」
景綱「(塩をちょっと取らないくらいで死なないとは思いますがな……) まあ、そうですございますな。武田殿も礼と言って物資を送ってこられるとは……こちらとしても助かりますな、殿」
謙信「あーそうだな。んで、何送ってきたんだ? アイツ」
景綱「砂糖にございます」
謙信「……砂糖?」
景綱「はい。砂糖とはなかなか奮発してくださいましたな~。なかなか手に入りにくいですからな、砂糖は」
謙信「……砂糖?」
景綱「はい? 砂糖ですが? どうなさいましたかな? 殿」
謙信「アイツ!!! 恩を仇で返しやがって!!」
景綱「ええっ!? ど、どこが仇ですか!? 砂糖など貴重品ではございませぬか」
謙信「送り返すなら塩か梅に決まってんだろーがっ!!」
景綱「……塩はともかく何故梅で?」
謙信「はぁ!? 酒の肴つったら梅干に決まってんだろうが!!」
景綱「はぁ。まあ殿はそうですね。殿、今更ですが何故武田殿に塩を送ったのですか?」
謙信「ああ!? そんなん武田領地の民が梅干を食べられなくなるなんて気が狂うに違いないと思うから送ったに決まってんだろーが!」
景綱「……あー、左様でございました、か。ちなみに謙信様は梅干を食べられなくなったら気が狂うのですかな?」
謙信「狂うな!!」
景綱「うわあ、きっぱりと」
謙信「酒と梅干のない生活なんて信じれねぇ! 生きてる意味もねぇ!! 皆そうだろう!?」
景綱「いや、殿だけだと思いますがね、そういう考えなのは」
謙信「ええい! 何たる侮辱!!! 景綱ぁ! 戦の準備だ!!」
景綱「……どこの国とですか」
謙信「武田とに決まってんだろうが! あ~今回ばかりはオレも堪忍袋の緒が切れたぜ!」
景綱「殿はいつもブッ切れた状態ですがね」
謙信「何か言ったか、景綱」
景綱「いえいえいえいえいえ!!! トンデモナイ。じゃー準備します……」