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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第一部 王国編
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第7話 婚約破棄からの勇者進撃

 勇者の剣を引き抜いたわたしは魔王退治の旅に出る事になった。

 また、王国に代々伝わる勇者の衣を授かる事になった。


 紋章がデザインされただけの普通の長袖のシャツとパンツに見えるが、選ばれた者が身に付けると神々の加護によって身が守られると言う。


 でも、剣なんて握った事もないのに、勇者になって魔王退治なんて、無茶振りにも程がある。


「でも勇者になったら、今日を迎える事ができたんでしょう?」


 そうなのだ。

 今朝は午前0時になっても殺されなかった。

 勇者になる事が正解で、この呪いは解けたのだろうか。


「この呪いはあなたに魔王を倒させようとしていたのかも知れません」


 そうなのかも知れない。

 でも、だったら呪いを掛けて午前0時に殺すのではなく、ちゃんと用件を伝えて欲しかった。


「でも、やるしかないか」


 わたしは魔王退治に向かう事にした。


「シャラーナ、ついて来てもらっちゃって、ごめんなさいね」


「いえ、僕はいいんです」


 マーク騎士団長が、シャラーナにわたしの支援を命じたのだった。

 わたしとしても、呪いについて知識のある彼がいてくれるのは助かる。


「あなたも行くよ」


 わたしが呼びかけると、勇者の剣は元気にピョンと飛び上がった。

 見慣れるとちょっとかわいい。


「そうね。あなたにも名前を付けましょう」


「名前? 伝説の勇者の剣にですか?」


「だってまるで生きてるみたいだし、名前がない方が変じゃない?」


「過去の勇者の物語では剣に名前を付けた話は聞いた事ないなあ」


 飛び跳ねながらついてくる勇者の剣を振り返りながら、考え込むシャラーナ。


「英雄とか神々の名前とか、聖獸の名前でも付けますか?」


「それはかわいくないかなあ」


 もっと愛着を込めた名前で呼びたい。


「そうだなあ。

 勇者の剣だからユウちゃんでどう?」


「そんな安直な……」


 呆れ顔のシャラーナ。


「君、どう?

 ユウちゃんじゃダメ?」


 勇者の剣を見つめるわたし。

 すると勇者の剣はわたしの周りを跳ね回った。


「ユウちゃんって名前、気に入ってくれた?」


 上を向いている剣の柄の部分を前に傾け、前傾姿勢になる勇者の剣。

 それは喜んでくれているように見えた。


「嬉しい!

 よろしくね、ユウちゃん!」


 名前のついた勇者の剣と共に旅を続けるわたし達は北に進む。


 廃墟となった市街地が。

 魔王に占拠されたジュレーンの街だ。

 人気がなく、荒れ果てた市街地を抜けると、ひとつの城にたどり着いた。

 領主の追い出されたその城は、魔王の手下に占領されていた。


「この城が魔王の拠点になったら、いよいよ魔王は王国を本腰をあげて攻めてくるわ」


 だからその前に騎士団を強化しなければ、と思っていたのだが、婚約破棄されてしまいどうにもならないと困っていた。


「お詳しいですね、ローズマリー様」


「王妃になったら国の事を把握しなければいけないと思ってたから……。


 今となっては意味のない事だけど」


 わたしは婚約破棄された。

 王妃になる日など来ない。


「ゆ、勇者になったんだから重要な事じゃないですか」


 シャラーナは慌ててフォローを入れる。


「僕も魔法でサポートしますよ」


「あなたも戦えるの?」


「普段は研究メインですが、一応魔法で戦う事もできます」


「そう。無理はしないで。


 それにしても、本当にわたしに戦いなんてできるのかしら?」


 よき王妃になるために、礼儀作法や知識は叩き込まれたけど、剣術なんて習った事がない。


「過去の勇者が皆、武芸の達人だった訳ではありません。

 ただの村人が勇者の剣を握った瞬間に、剣技に目覚めた例もあります」


「そういうものなのかな」


 すでに王宮の旅立ちの儀の時に、鞘に収める時に握っているけど、特に剣技に目覚めた感覚はなかった。

 気まずくて、早く王城から出たかった感覚しかない。


「ユウちゃん、わたしが魔物と戦えると思う?」


 わたしは隣でふわふわ滞空しているユウちゃんに話しかけた、その時だった。


「人間ども、何しにきやがったあ!」


 空中から声がする。

 見上げれば、山羊の頭をした、羽の生えた屈強な姿が。


「レッサーデーモンですね。魔界の下級悪魔です」


 シャラーナは魔物の名前を知っていたが、その表情は強張っていた。

 筋骨隆々なその姿は、下級と言っても強敵な事が想像が付いてしまう。


 でも戦わなければ。わたしは勇者なのだ。

 どうやって戦えばいいのか、知らないけど。


「やっつけなきゃ、ユウちゃん!」


 とにかく手を前に突き出し、ユウちゃんを呼ぶ。

 剣を握る事で戦闘能力に目覚めたりするかも知れない。


 後ろをついて来ていたユウちゃんが、風を切る音を立てて飛んで来る。


「あれっ?!」


 しかし、わたしの手には収まらず、レッサーデーモンに向かって行く。


「なんだ、この剣は?!」


 ユウちゃんに気付いたレッサーデーモンは山羊のような角を突き出し、ユウちゃんを迎え打つ。


 その直後、ゴトッと重いものの落ちる音が。


「ぐおおっ、おれの角があああっ!」


 レッサーデーモンの角が片方、切り落とされていた。

 頭の切り口はとても鋭利だった。

 勇者の剣の切れ味は伊達じゃない。


「野郎! 剣の分際でっ!」


 レッサーデーモンユウちゃんとの戦いが始まった。

 が、勝負は一瞬で決まる。

 あっと言う間に、ユウちゃんは斬り込んで敵の左胸に刺さっていた。

 そして、レッサーデーモンの身体から離れたユウちゃんは一度地面を跳ねると、城内に飛び込んで行った。


「ちょっ……、どこ行くの?」


 その後、城内から怒号や武器の激突する音や爆音などが響き渡った。

 魔物達の恐ろしい咆哮や、断末魔の声も。


 その後、静まり返った城内からユウちゃんが飛んで戻って来た。

 わたしの周りを跳び跳ねている。


「君、戦って来たの?」


「とにかく城内を探索してみましょう」


 城内は魔物の死体が散乱していた。


「うーん、ちょっと残酷かなあ」


 と、わたしは血の気の引く思いだったが、


「でも、この城にいた魔物はかなり強力ですよ」


 シャラーナは驚いているようだった。


「ガーゴイルやゴーレム、ドラゴンまでいます。

 騎士団を派遣しても、討伐するには大きな被害が出た事でしょう」


 魔物の知識はあまりないけど、大型の魔物の死体もある事は分かる。

 騎士団の犠牲を出さないで取り戻せたなら。それはよかったかな。


 最上階への階段を上がるとユウちゃんがいた。

 わたしを見つけると近くまで寄って来た。


 玉座の間には一際巨大な悪魔が倒れていた。

 角も翼も大きく、城の前で出会った悪魔とは格が違うのは明らかだった。


「これはグレーターデーモンです!

 このモンスターまであっさり倒すなんて!」


 シャラーナも驚いている。

 全体的に強力なモンスターばかりだったみたい。


「この悪魔がこの城の魔物達のリーダーでしょうね。

 魔王軍の幹部かも知れない」


 やはり勇者の剣の名は伊達じゃない。


「それにしても勇者ってこういうものなの?」


 剣が勝手に動いて城のモンスターを全滅させてしまった。

 想像していたのとちょっと違う。


「勇者によっては剣技よりも魔法が得意だったり、作戦立案が得意な参謀タイプもいたようですよ」


「剣が勝手に戦ってくれるタイプも?」


「それは聞いた事がありませんね」


 とにかく、ここを拠点に魔王軍の進攻が本格化する事態は防ぐ事ができたようだ。


 ☆☆☆


 わたし達が魔王の城を目指す事を決めたその時、城の上空に三人の翼の生えた人影があった事をわたしは知るよしもなかった。


「普通に魔王様に報告しなきゃ」

「微妙に魔王様に報告しなきゃ」

「逆に魔王様に報告しなきゃ」


 人影は魔王の城を目指し、飛ぶ。


 飛んで行った先には切り立った無数の岩山がそびえていた。

 通称デスマウンテンと呼ばれる場所にその城はあった。


 そびえる城の尖塔、その最上階のテラスに三人は降り立った。


「魔王様ー!」


 その部屋の主に三人は駆け寄って行く。


「普通に勇者が出た!」

「微妙に勇者が出た!」

「逆に勇者が出た!」


「ああ?」


 部屋の奥の玉座で闇が動いた。

 黒いフードと黒いマントを纏った男が立ち上がる。

 それが魔王だった。


 マントから灰色の筋骨隆々な腕がのぞく。


「この前奪った城がやられちゃった!」


「何だと?」


 フードの奥で鋭い牙が光る。


「ここまでは貧弱な人間ばかりだったが、そう簡単にはいかんか」


 勇者と魔王の対峙の瞬間が迫っていた。

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