第66話 婚約破棄からの明かされる真実
高密度の物体を高速回転させると周囲の時空が歪む。
そこでは過去と未来が交錯する事になる。
現在の形状になった瞬間、ブラックホール内部では、銀河の始まりと終わりの瞬間が同時に発生するようになった。
そして、ブラックホール内部にその状態を知覚する存在が現れた。
(わたし達は自分達の事を『ウィル』と名付けました)
ウィルは、銀河をより発展させ、より長生きさせようと考えた。
無数の時間線が生む可能性の中から最も好ましいものを模索した。
しかし、人間が自分の体内を見る事ができない様に、ウィルも銀河で起こっている事を正確に知る事はできなかった。
まして分岐する時間線の全てで起こった出来事を把握する事はできなかった。
しかし、今から五千年前、銀河帝国の科学者達はが、銀河中心ブラックホールが意志を持った存在である仮説を立てた。
彼らはブラックホールにマイクロウェーブを照射する事で、自分達の存在をその存在に観測させる事ができると考えた。
ブラックホールの重力と電磁場を突破できるだけのマイクロウェーブを打ち出す事ができればブラックホール内の意志と交信する事ができると。
自分の体内を見る事のできないウィルは、その小さなくすぐりのような体内の反応によって、初めて特定の時間線の銀河の民の声を知覚できるようになった。
ウィルはブラックホールに生じる高密度物質を量子的な力に変換して銀河に干渉する。
しかし、基本的には銀河で起こる事に干渉しない。
銀河全体のエネルギーを大きく消耗してしまうからだった。
それでも銀河の文明があまりにも早く滅亡してしまう事態には干渉し、銀河の繁栄を促した。
その数少ない干渉が、銀河帝国の帝都惑星に行われた。
銀河帝国の科学者達がウィルの存在に気付くからだった。
一度だけ接近する巨大隕石の進路を変えた。
「だから今回も、銀河帝国を守るために干渉したの?」
「いいえ。それは違います。
解放軍によって銀河帝国が解体されても、宇宙の発展への影響は軽微です。
銀河帝国が解放軍に敗れ去ったとしても我々は干渉しません」
「だったら何で惑星グランドに干渉したの?」
干渉なんて言い方では、言い足りない事だけど。
(もちろん銀河の存続に対して、重大な影響があるからです)
惑星グランドの崩壊は軽微な事だとでも言う訳?
落ち着きかけた気持ちがまたざわついてきた。
しかし、そんな事には構わず、淡々とした声が告げた。
(わたし達がローズマリー様に干渉しなければこの銀河は滅亡してしまうのです)
「どういう事?
干渉しなければどうなるって言うの?」
干渉しなければ、つまりわたしが午前0時に光の刃で胸を貫かれなければ。
「あなたはマリーゴールド公爵邸にたどり着きます」
当然そうなるだろう。
「そして、あなたはダイカント=マリーゴールドによって幽閉されます」
「!? なんで?」
「ダイカントが、あなたと本当は血が繋がっていない事が露見する事を恐れたからです」
「わたしは屋敷に一度戻ったけど、幽閉なんてされなかったわ」
一度、宇宙との貿易への協力を求めて公爵邸を訪れている。
幽閉どころか、門前払いにされている。
「それは、状況が変わったからです。
剣を抜いて勇者となり、魔界三強を制したあなたを、幽閉する訳にいかなかっただけです」
「わたしを幽閉……、そんな事……」
そんなことはあり得ない、と言えるかと言うと、残念ながら父上ならそうしてもおかしくはない。
殺されないだけ優しい、と言いたいところだが、何らかの利用価値がないか考えていただけだろう。
「魔王の侵略に対しては、あなたではなく、本来の勇者が立ち上がります。
彼によって、魔王ザンも魔竜リンドも殺害されます」
魔界二強も真の勇者には歯が立たないようだ。
「しかしここで、本来の魔神官、ヴォータは自らを生贄にして魔神カルワリオを復活させます。
カルワリオは勇者を殺し、人間界の半分を破壊する事になります」
ゴーディクの任務に魔神カルワリオの復活阻止があったのはこのためか。
「さらに、ちょうどこの頃、銀河帝国が惑星グランドを見つけます。
銀河帝国の降伏勧告にカルワリオは激怒し、両者は全面戦争に突入します。
カルワリオと銀河帝国の戦いで人間界はさらに破壊され、滅亡寸前になります。
そして、あなたの幽閉されていた塔も破壊されます。
すでに孤独の中で心を病んでいたローズマリー様は、絶望と怒りのあまり特異点の力に目覚めるのです。
終末の魔女となったあなたはあっさりとカルワリオと銀河帝国艦隊を壊滅せしめます。
時間を操作するあなたに銀河帝国艦隊も歯が立ちません。
そして、理性を失い、終末の魔女となったあなたは誰の言葉にも耳を貸しません。
あなたの物理法則を捻じ曲げ、時空をも歪めた戦いは、銀河のリソースを大きく消耗してしまいます。
それにより、この銀河は寿命を終え、収束を迎えるのです」
聞いてるだけで鼓動が速くなった。
恐ろしい悪夢のような物語だと思った。
特にわたし自身が登場人物である事が。
わたしが物理法則と時空を歪めることによって、銀河が消滅するという事が。




