第64話 婚約破棄からの覚醒する力
わたしは運命シークエンスを掛けられる事なく、時間を戻る事に成功した。
もちろん婚約破棄もされずに。
「こ、ここはどこですか?」
シャラーナが困惑している。
戦闘艇ごと時間を戻ったので、彼もついてきてしまったようだ。
でもそれは些細な問題だ。
「まずは……………!」
目の前には姿は隠されているが、巨大な鉄の球体がある。
これこそが故郷をめちゃくちゃにする事になる隕石兵器だ。
これで未来を変えられる。
あの忌まわしい未来をなかった事にして、幸せを取り戻す事ができる。
ユウちゃんを隕石兵器の位置に差し向ける。
わたしは落着後の隕石兵器を見ているので、その動力の場所も分かっていた。
「行って!」
憎しみのこもったわたしの命令によってユウちゃんが隕石兵器に吸い込まれていく。
直後に惑星兵器から爆発が起こる。
しかし、巨大過ぎるせいか、一度の爆発で消滅する事はなかった。
「だったら!」
再びユウちゃんを差し向ける。
完全に破壊しなければ。
破壊し尽くすまで、何度でも攻撃しなければ。
わたしは隕石兵器の様々な場所をユウちゃんで攻撃した。
大爆発が何度も起こっている。
「敵部隊はどこだ?!」
「確認できません!」
帝国兵の通信が聞こえる。
いくら探しても、敵部隊なんていない。
しかし、一本の剣による攻撃だと言っても信じられないだろう。
「明らかに新兵器を狙っている!
何としても探し出せ!」
「そう言われても一体どこに………、うわあああっ!?」
彼らを生かしておく理由はない。
後の災いの種にならないように殲滅しなければ。
通信を通じて帝国兵達の怒号と悲鳴が聞こえてきたが、何とも思わない。
母星の崩壊を防ぐために必要な事だと思うと、憐れみをかける事など思いも寄らない。
そんな通信の一つだった。
「訓練中の新兵のシャトルを脱出させる!」
「駄目だ!
今はそこら中で戦艦が爆発しているんだぞ!」
切迫したやり取りが聞こえてきた。
「残骸だってそこら中にある。無理だ!」
「ゴーディク中将の息子もいるんだぞ!」
その瞬間に工廠惑星から発進するシャトルが見えた。
そう言えばゴーディクは、息子が後方に配属された、と言ってたっけ?
ならばここにいても不思議はない。
「うわあーーーっ!」
強行発進したシャトルだったが、ほどなく爆散した戦艦の残骸が迫って来た。
激突すればシャトルも、中の人員も無事では済まないだろう。
「……ふん」
しかし、わたしはその事には心が動かなかった。
「子供を守るために戦うという事は、いずれはその子供も戦う事になる。
そんな事も分からないからこうなるのよ」
そんな事より次の行動はどうするか。
「ユウちゃん、戻って」
まずはユウちゃんを船の近くに戻そうとした。
しかし、わたしの意に反してユウちゃんは船から離れて行く。
ユウちゃんが向かったのは新兵達のシャトルの方だった。
シャトルの目前で動きを止めたユウちゃんは、激突目前の戦艦を両断した。
「優しいのね、ユウちゃん」
戻って来るユウちゃん。
わたしは助ける気はなかったが、ユウちゃんの活躍で新兵達は九死に一生を得たのだった。
「次にいきましょう」
シャトルが無事にこの宙域を離脱する姿を見届け、わたし達は転移した。
「あと少し……。あと少しで全てが終わる……」
銀河帝国の首都惑星の間近に転移したわたしだが、息がきれてきた。
さすがに、長時間の激しい戦闘と二度の転移は疲れた。
「マリー様、少し休んで下さい」
「そうはいかないの……」
守っているだけではダメだ。
惑星グランドが壊滅したあの光景は忘れられない。
せっかく掴んだ幸せはあっけなく消え去った。
あの絶望をもう二度と味わいたくない。
幸いわたしは自分の意思で時間を戻せるようになった。
これから銀河帝国軍のありとあらゆる兵器を破壊して回ろう。
いや、いっそ、銀河帝国自体を滅ぼしてしまおうか。
皇帝を倒せば戦いは終るだろうか。
軍人を皆殺しにすればいいだろうか。
首都惑星を滅ぼした方が確実か。
必要ならそうしよう。
二度とわたしの幸せは壊させない。
わたしの幸せの邪魔をする者達は何人たりとも許さない。
その時、一機の高速艇が近づいて来た。
それはのろのろとしていて、攻撃のそぶりも見えなかった。
ユウちゃんを差し向けるべく構えるわたし。
油断はしない。破壊しない理由はない。
「お待ち下さい。ローズマリー様」
攻撃しようとしたまさにその瞬間、円盤から声が聞こえてきた。
「銀河帝国はローズマリー=マリーゴールド様に降伏いたします」
何を今さら。
あらゆる兵器を破壊すると決めた。
降伏する必要などない。
「皇帝は退位し、銀河帝国は解体いたします。
今後の領土拡大行為に関しては、永遠に行わない事を宣言します」
さすがに動きを止めるわたし。
帝国を解体?
「ローズマリー様に掛けられたシークエンスについても説明をいたします」
「急に何を言い出すの?」
「急ではありません。
全てがこの時のためでした。
このタイミングでローズマリー様と接触する事が我々の目的でした。
銀河帝国はその役割を終えました。もう必要ありません」
説明を受けてもさっぱり理解できない。
「首都惑星においで下さい。
我々の目的を説明いたします。
その高速艇にお乗り下さい」
高速艇の中は無人だった。
自動操縦なのだろう。
罠である疑いは考えた。
と、言うよりわたしの思考の大半は疑念に占拠されていた。
銀河帝国など、まったく信用していない。
それでもわたしはこの申し出を一蹴できなかった。
それはわたしに掛けられた呪いの正体を知りたかったからだ。
運命シークエンスなんて訳の分からないものを、わたしにセットした理由を知りたかった。
その機会があると言うなら、どうしても無視する事はできなかった。
「少しでも怪しいと感じたら攻撃するわ」
そのためには首都惑星に行くしかない。
高速艇に乗り込んだわたしに円盤の中から声が聞こえてきた。
「疑念はもっともですが、今この銀河にローズマリー様を害する事のできるものは存在しません。
それに、この銀河は消滅の時が迫っています。
我々も手短に説明を済ませなければなりません。
その上で、別の時間線に進まなければ」
「消滅?
消滅って、どういう事?」
「我々の目的はこの銀河の消滅しない時間線を見つける事なのです」




