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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第4部 因果時空決戦編
63/71

第63話 婚約破棄からの抑え切れない怒り

 惑星グランドは銀河帝国の隕石攻撃によって壊滅した。


 始めは何が起こったのか理解できなかった。

 あまりに現実感がなかった。


「いや、でもまだ何か、何か方法が……………」


 その時、眼下の光景が目に入った。

 隕石が巻き上げた土砂は塵となり、雲となって惑星を覆おうとしていた。

 しばらくは雨が降り続け、昼間であっても日の差さない状態が続くだろう。


 生き延びた人間がいたとしても、この星で生きる事など到底できそうもない。


 もはやわたしにできる事など一つもない。

 やっと手に入れたと思った幸せは、一瞬の内に失われてしまった。


「ダメ……、そんなのダメ……。ダメよ」


 呼吸が荒くなる。頭がくらくらしてくる。


「何らかの力により、惑星兵器の威力は半減。原因究明のための探索を開始する」


 そんなわたし達の前に迫る無数の巨大な影。

 銀河帝国艦隊が現れた。

 数百隻の戦艦からなる陣形を見るに、複数の艦隊だろう。


「戦闘艇を発見、乗員は3名。

 惑星兵器の落着前に脱出したと思われる」


「銀河帝国です。

 マリー、どうすればいいですか?」


 メルテが指示を仰いでいる。


「マリー様。このままではまずい。逃げましょう」


 シャラーナは提案している。


 わたしは何も答えなかった。

 しかし、何も考えていない訳ではなかった。

 それどころか、様々なな思考と感情が頭の中で渦巻いていた。


 そして、


「ただちに投降せよ。しからざれば攻撃する」


 その通信を聞いた瞬間、わたしの中で何かが弾けた。


 わたしは片腕を前方に向けた。


「マリー様!」


「マリー?」


「聞こえていないのか?

 応答せよ。


 投降しないなら……」


「黙りなさい」


 その瞬間、目の前の戦艦が爆散し、その中からユウちゃんが飛び出して来た。

 ユウちゃんで戦艦の動力部を狙い撃ちにしたのだ。


 自分にとっても予想外の速さだった。


「次……」


 となりの戦艦も同じように破壊。

 さらにその後ろの戦艦もモニターを見ながら撃破。


「……次。……次」



 ユウちゃんは敵艦を次々撃墜。

 十数隻の戦艦がたちどころに爆散していった。

 途中からはモニターを見てもいなかった。

 それらは一瞬の内に行われた。


 あのサイズの戦艦ならば一隻に千人程度は乗っているはず。

 一万人以上の生命が失われただろう。


 でもそんな事はどうでもいい。


 全員が爆発の瞬間に、痛みを自覚せずに死ねた訳ではないだろう。

 火災に巻き込まれたり、宇宙空間に投げ出されたりして、長く苦しんでから死ぬ人間もいただろう。


 でもそんな事はどうでもいい。


 復讐のためなのか、自分が生き残るためなのかもよく分からなかった。

 とにかく目の前の銀河帝国軍を根絶やしたかった。


「撤退だ。撤退し……!

 うわあああーーーーー!」


 さらに宇宙戦艦の轟沈は続く。

 わたしは撤退する戦艦も可能な限り攻撃した。


「帝国軍艦隊は撤退しました」


 メルテの声で我に返る。

 わたしは眼下の光景を見つめた。

 壊滅した母星。

 その全体を覆う雲の間から惑星兵器の不気味な姿が見えた。


「あの時、破壊していれば……」


 わたしは工廠惑星で偶然あれを見かけていた。

 こうなる事を知っていれば、日程を遅らせてでも破壊していたのに。


「……時間を戻さなければ……」


「マリー様?」


「そうよ。これは正解じゃない……」


 シャラーナの声が遠くから聞こえるが、返事はしなかった。


 こんな結果は受け入れられかった。

 やっと掴んだ幸せを失いたくなかった。


「やり直さなきゃ」


 隕石をわずかながら押し留める事はできた。

 わたしに何らかの特殊な力がある。

 ならば時間を戻す事はできないだろうか。


「取り戻さなきゃ……!」


 わたしはどうしてもそうしたかった。

 わたしの運命を取り戻したかった。


 自分の能力の高まりを感じる。

 隕石兵器を止めようとした事で、自分の能力の限界を超えようとしたからかも知れない。


 強く願うと、身体が熱くなり、気が遠くなってきた。

 気が付けば汗びっしょりになっていた。


「はあっ、はあっ……!」


「マリー様、大丈夫ですか?」


「マリー、落ち着いて下さい」


 視界が揺らぐ。

 何もかもが曖昧になっていくような感じがする。


 しかし、逆にはっきり感じられるものもあった。

 手を延ばし、まるで木の実をもぎ取るようにそれをつかんだ。


 そう思った瞬間、全てがクリアになった。


 そして、


「マリー、工場惑星に到着しました」


 メルテの声が聞こえる。

 そこは宇宙船の中だった。


 目の前には隕石兵器がある。


「メルテ、わたし達は銀河外縁部に移動中?」


「そうです」


「跳躍の直前?」


「そうです」


 やはり間違いない。

 工廠惑星の付近を通った瞬間に戻ってきた。


 わたしはついに運命シークエンスの力を用いずに、時間を戻る事に成功した。

 胸を光の刃で貫かれる事も、婚約破棄される事もなしに。

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