第60話 婚約破棄からの忙しい日々
コート王国との戦闘の危機は回避できた。
銀河帝国との停戦合意も成立した。
運命シークエンスも消滅した。
しかし、それでほっと一息になどならない。
大統領になったわたしは大忙しだった。
ティアラ病の特効薬の取り引きだけで、永遠に利益が出せる訳ではない。
いずれはティアラ病は収束する。
マリーマリー連邦共和国の収入源となる、宇宙貿易用の新たな魔法アイテムをシャラーナと共に探さなければならなかった。
また宇宙の進んだ技術を、惑星グランドに取り入れたかった。
唐突に出現したマリーマリー連邦共和国は警戒もされている。
特に軌道エレベーター周辺の国家とは友好な関係を築かなければ。
わたしは、銀河連邦に所属する文明の代表及び、惑星グランドの各国の指導者と連日会談を重ねた。
「複数の銀河連邦の要人と1日で会談するスケジュールを組みました。
このスケジュールに従って跳躍すれば、翌日の惑星グランドの各国の訪問にも間に合います」
「すごいわ、メルテ!」
「演算しました」
メルテの演算能力は戦闘と操縦以外でも発揮された。
わたし一人ではまともにスケジューリングなんてできなかっただろう。
「お前の留守は俺達が守ってやるから安心しろ」
「ワシらに立てつける者などそうはおるまい」
国の守り手として、魔王ザンと魔竜リンドの魔界二強の存在感は絶大だ。
「マリー様、新しい魔法アイテムを作りました。
探知魔法と電子回路を組み合わせたモニターです。
シークエンスを使って魔力をプールする事ができそうなんです」
わたしでは言ってる事がよく理解できないけど、何やらすごそう。
シャラーナは宇宙の技術、シークエンスも学んでいた。
天才魔術師も相変わらずの活躍をみせている。
「僕らは宇宙に戻るよ」
ファーワールドやメクハイブ達、銀河解放軍とは別れの時が迫っていた。
「マリーマリーのおかげで銀河帝国の他星の侵略も防げそうだ。
銀河連邦に対帝国の気運が生まれつつある」
マリーマリー連邦共和国以外にも、銀河連邦加盟による銀河帝国侵略の阻止を目指す惑星は現れているらしい。
銀河連邦にもそれらの国家を支援する動きがあるという。
「ここまで帝国に対抗できるとは思ってなかった。君のおかげだ」
「ありがとう、マリー君」
「わたしの方こそ銀河解放軍にはお世話になりました」
銀河解放軍はこれからも銀河帝国の侵略を受ける人々を守り続けるのだろう。
できる限りの支援をしたい。
「さあ、食事の時間ですよ」
ゴブリンのリーゼロッテの料理の腕は一流で、人間界の料理もあっと言う間に習得した。
ちなみに彼女の夫であるヴォルフガングも魔王ザンの元で、マリーマリー連邦共和国の防衛に参加してくれている。
「ああ、おいしいかった」
昼食を食べ、ひとときのティータイム。
「さて、頑張りますか!」
それが終わると、高高度プラットフォームから地上を眺めながら、気合いを入れる。
休日などないようなものだが、不思議と私は元気一杯だった。
建国が軌道に乗ってくるのは、楽しくて充実感のある事だった。
あれ?
なんかわたし今、幸せかも?
婚約破棄され、王妃にはなれなかった。
死と婚約破棄を繰り返す恐ろしい呪いを掛けられた。
9回婚約破棄され、魔界と宇宙を巡り、恐怖と苦痛と隣り合わせの冒険をした。
ただ状況に対応していただけだった。
一度は破綻した人生を、マイナスをなんとか0にしようと、あがいてきただけだった。
でも、今は心が満ち足りでいた。
信頼できる仲間と共に、人々のために働き、母星と銀河の橋渡しをする。
それはやりがいのある事だ。
こういう人生も悪くないと思った。
そして、わたしはそのように生きていくのだろうな、と思った。
★★★
だってこの時のわたしは、婚約破棄に10回目があるなんて知らなかった。




