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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第三部 銀河帝国編
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第54話 婚約破棄からの新国家始動

「では軌道エレベータを作動させよう」


 ジャーゼラ議員が手元の機械を操作すると、急にに床が振動し始めた。

 そして、周囲の建物と共に床が下降をしていく。


「な、何なの?」


「この都市は地上ユニットなんだ」


 上を見上げると円形の床の中心部から柱が伸びている。


「現在、軌道エレベータの設置が行われています」


 メルテの落ち着いた声が聞こえる。


 エレベータの設置という事は、現在床は下降していて、あの柱はは上ではなく、下に伸びているって事?


「この速さなら短時間に設置できそうですね」


 シャラーナは感動していて、食い入るように下降の景色を眺めている。


 わたしも一瞬下をのぞいてみた。

 しかし、それはあまりにも急激な落下の光景で、血の気が引いてきた。


 シャラーナはよくこんなの見てられるなあ。


 しばらくするとエレベータの下降スピードは低下し、やがて完全にその動きを止めた。

 そこは無人島だった。


「建造に適した赤道地帯にちょうどいい島があってよかったよ」


「コート王国からも近い場所ですよ」


 シャラーナはこの島も知っていたようだ。


「軌道エレベータのテストが済んだら

 さっそく特効薬の製造を始めたい。


 シャラーナ=カーミル氏はスタッフと話を進めて欲しい」


 いよいよティアラ病の特効薬製造も本格始動だ。


「お願いするわ、シャラーナ。

 大変な事を任せてごめんなさいね」


「マリー様のお役に立てるなら光栄です」


「マリー君は建国と大統領就任の準備だ。

 君の方が大変だぞ」


 そう。わたしは大統領になる。

 全然実感が沸かないが、惑星侵略を回避するにはやるしかない。


「また肩書きが増えちゃった」


 勇者に加えて大統領まで。


「お前は魔界の帝王でもあるんだぜ」


「は?」


 魔王ザンだった。


「そんな物騒な役職に就いた覚えはないんだけど?」


「魔神カルワリオは当時の魔界三強を倒し、魔界の帝王と呼ばれた。


 お前も俺達を倒したんだから、魔界の帝王を名乗っていい」


 ゴーディク(この場合ダイザー)とは直接戦った事はなくて、勢力を壊滅させただけなんだけど。


「うむ。帝王マリー、いい響きよ」


 魔竜リンドも飛んで来た。

 二人はエレベータの降下を見て、こちらにやって来たらしい。


 しかし、魔界の帝王なんて全然いい響きには思われなかった。

 名乗っていいと言われても、こんな恥ずかしい肩書きを名乗りたいタイミングがない。


「こちらの方々は?」


 「魔界で出会った仲間達よ」


 ジャーゼラ議員はザン達とは面識がなかった。


「魔界……。

 魔法文明の源と言われる場所か。


 わたしは銀河連邦議員ジャーゼラ。

 よろしくお願い申し上げる」


「ザンだ。ダイザーとやり合ってるらしいな。

 こちらこそよろしくな」


「われはリンド、マリーに仕えておる」


 魔界の住民と銀河連邦のファーストコンタクトだ。


「では宇宙に戻ろう」


 議員が手元のパネルを操作すると、エレベータがまた宇宙に戻って格納されて行く。


「また戻っちゃうの?」


「惑星の環境データを一旦持ち帰って解析するのは、軌道エレベータ設置のセオリーです」


 メルテが教えてくれた。

 わたしにはよく分からない事だし、文句はない。


「ではマリー君とシャラーナ君にはまた外縁部に来てもらいたい。


 諸々の手続きがある。」


 惑星グランドに着いたと思ったらすぐ外縁部に。

 慌ただしい話だが、母星の命運がかかっている。

 これも文句はない。


「マリーマリー連邦共和国、必ず成功させよう」


「ちょっと待って! それどういう事!?」


 反射的に大声を出してしまう。


「何なの、そのふざけた名前!?」


「ファーワールド氏から、国名はマリーマリー連邦共和国だと聞いているが」


 確かにこんな名前をつけるのは、彼しかいない。


「ファーワールド! 何なの、この国名?

 わたしに断りなくどういう事?」


 わたしは思わずファーワールドに連絡を取っていた。


「先に国名を決めておかないと手続きができなかったんだ」


 だからってこれはひどい。ひど過ぎる。


「建国の英雄の名が国名に刻まれるのは定番さ。

 誇らしいだろ?」


 恥ずかしいけど。

 それなら百歩譲って、ローズマリーにして欲しかった。


「ファーワールドが勝手に決めたのだが、この名前も聞き慣れると悪くないぞ」


 副官のメクハイブもいながら何て事…………。


「手続きを急いだのは本当だ。

 それに、大切なのは名前より中身だろう?」


 確かにへそを曲げでゴネている場合じゃない。

 銀河連邦に加盟し、戦いを止めなければ。


 コート王国からも、マリーゴールド公爵からも支援は受けられない。


 これはわたしにしかできない。

 わたしがやるしかない。


 必ず建国を成功させる。

 必ずこの星を守ってみせる。


 こうしてマリーマリー連邦共和国の建設は始まった。


 と、言っても事務的な手続きで手一杯で、建国らしい動きは何もしていない。


 特効薬の製造プラントのスタッフを銀河連邦中から招き入れ、さらに彼らの生活環境を調える。


 ほとんどのお膳立てはジャーゼラ議員がやってくれたし、その過程も元々あった未開惑星との貿易のノウハウにのっとったものだった。

 建国はスムーズに進んだ。


 しかし、わたしはそれらを把握し、今後は大統領として運営してなければならない。

 あっと言う間に時間は過ぎ、夜は銀河連邦の正装であるスーツのまま眠る始末だった。


 あっと言う間に、その時はやって来た。

 惑星コートの軌道上に百隻からなる宇宙戦艦が現れた。


「いよいよね……!」


 大統領執務室備え付けの巨大モニターでその艦隊を眺める。


「10の艦隊からなる大艦隊です」


 メルテの観測してくれた最新の映像だ。


「ゴーディクが少将とかに昇進したのなら、ご挨拶に向かわないとね」


 前回は空を見上げ絶望的な気分になったが、今のわたしは意欲に燃えて集結中の艦隊を見下ろしている。


「惑星グランドに向けて、跳躍を開始して下さい」


 高高度プラットフォームが、マリーマリー連邦共和国が、銀河帝国艦隊の前に出現する。


「銀河帝国艦隊に告げます。

 ただちに軍事行動を中止しなさい」

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