第46話 婚約破棄からの謀略阻止
「マリーマリー! 銀河中心戦線からもう戻って来たのかい?」
宇宙6日目にして、銀河連邦本部にたどり着いたわたし達。
「我々も着いたばかりで、まだジャーゼラ議員に会ってないよ」
ファーワールドもメクハイブもわたし達の素早い到着に驚いている。
日程の大幅な繰り上げに成功した。
ここまでは順調な滑り出しだ。
「議員には、ティアラ病の特効薬のサンプルを渡し、極秘の会談を申し出ている」
ジャーゼラ議員との交渉にも同席できそう。
ここからは1度目の宇宙では体験してない未知の状況だ。
このまま全てを丸く収めたい。
交渉の場は議員会館という建物で、会議場とは離れた寂れた場所にあった。
中心部の巨大建造物と比べると小さな建物だった。
それでもコート王国の王城と変わらない大きさだけど。
その建物の一室に、数人の護衛に囲まれたジャーゼラ議員がいた。
強烈に記憶に刻まれた人物だが、前回とは大分印象が違った。
「頂いた特効薬で孫娘の病は回復傾向にある」
落ち着いた穏やかな感じに見える。
そりゃあ暗殺行為直前の印象とは違うか。
「でも、わたしが銀河帝国に脅されていた情報を一体どこで?」
「申し訳ありません、議員。
それは言えないんです」
未来を見てきたなんて言っても、信じてもらえるか分からないし。
「まあいい。
わたしもファーワールド君を暗殺なんてせずに済んでよかった」
心底ホッとした感じのジャーゼラ議員。
「これ以上の銀河帝国の伸長は防がなければならない。
奴らの危険性を会議で訴えよう。わたしを脅した事も暴露する」
「その事で議員が危険に晒されたりしませんか?」
「覚悟の上だ」
ジャーゼラ議員は、前回はファーワールドを暗殺した人物だが、今度は心強い味方になってくれそうだ。
元々、銀河帝国に危機感を持っていた人だし。
と、ひとまずの安心をしていたところたったが、ファーワールドのふところから大きな音が。
「ちょっと失礼」
席を外すファーワールド。
小型の機械を耳に当てている。
遠く離れた相手とも会話できる機械のようだ。
「マズイな」
機械をしまったファーワールドは深刻な表情になっていた。
「この建物はオートソルジャーに包囲されている」
「オートソルジャー?」
「オートパイロットの歩兵版と思ってもらえばいい。
統率が取れている上に、死を恐れない。
厄介な相手だ」
オートパイロットと同じなら、情報を同期して連携が得意って言ってたっけ?
人権がないと言う自意識を持っていて死を恐れない、なんて酷い性質もメルテによって思い知らされている。
「もしかして、わたし達の戦艦が追跡されていた?」
敵の戦艦だし。
「それならもっと早く襲撃されている。
議員に盗聴器でも付けられていたかも知れない。
メクハイブ、調べたのか?」
「もちろん調べたが、帝国の技術力は日進月歩だからな。
最新の通信傍受シークエンスなどが付いていればなかなか対応できない」
ジャーゼラ議員の動きは筒抜けだったのかも。
メルテにシークエンスが仕掛けられてないか調べてもらえばよかった。
「そう言えばメルテは?」
議員との交渉に気を取られていて、気付かなかったが、メルテの姿が見えない。
「メルテさんなら『付近を警戒します』って言ってました」
護衛のシャインの言葉にわたしはドキッとした。
彼女は今までわたしのそばを離れた事はない。
独自の行動を取るなんてらしくない。
また身代わりになろうなんて考えてるんじゃないか、とわたしは心配になってきた。
「議員は僕のうしろに。
我々が突破口を開きます。
マリーマリー、戦えるかい?」
光線銃を抜くファーワールド。
「任せて」
ユウちゃんがわたしの手に収まった。
交渉の場に刃物を持って入る訳にはいかなかったが、部屋の外には連れて来ていたのだ。
「無事でいて、メルテ」
まだ戦闘が始まった気配はない。
メルテも無事なはずだ。
建物の外をのぞいて見たけど、敵の姿は見えない。
「本当に敵に囲まれているの?」
「塀の外に10人以上。
周囲の裏道にも反応がある」
「隙のない布陣だな」
連携攻撃が得意らしいから、さぞ完璧な布陣なんだろう。
犠牲者は誰も出したくないが、正攻法ではオートソルジャーに歩がありそうだ。
ユウちゃんでなんとか先制攻撃をかけ、出鼻を挫きたい。
そう思っていた矢先、議員会館の外で銃撃の音と火花が起こった。
その後さらに周囲で爆発が起こった。
「よく分からないがこのチャンスに脱出しよう」
わたし達が建物の外へ出ても敵は現れない。
そう思っていると、銃撃の音が止んだ。
恐る恐る外に出てみると、何人もの倒れている姿が。
よく見るとそれらはメルテと似た服装をしている。
「オートソルジャーです」
シャインがつぶやく。
「一体誰が?」
「オートソルジャーの部隊をこの短時間で倒せる部隊など心当たりがない」
ファーワールド達も不思議がっていたその時だった。
「部隊ではありません」
現れたのは両肩に大きな銃火器を抱えたメルテだった。
「奇襲部隊はわたしが殲滅しました」
「メルテ! どこに行ってたの?」
メルテに駆け寄るわたし。
どうやら傷は負ってないみたい。
「オートソルジャーの同士の通信を傍受していたので奇襲をかけました。
ファーワールド氏とジャーゼラ議員を一度に亡きものにする機会を狙っていたようですね」
「黙っていなくなるから心配したのよ」
「オートパイロットの製造以降、オートソルジャーは生産されていません。
旧型で、戦闘能力は低いと分かっていました。
実際戦術メソッドは5世代以上前のものでした」
歩兵がオートソルジャーで、パイロット能力が付加されたのがオートパイロットだったらしい。
メルテの方が新型だから勝てた、という事のようだ。
「助かったけどね」
ジャーゼラ議員を守りながらの脱出は、かなり困難だっただろう。
「マリー」
メルテが手のひらを広げている。
「作戦終了です」
「ん、何?」
「ハイタッチをして作戦終了です」
無表情ながら、うずうずしているメルテ。
結構気に入ってたのかな。
「作戦成功!」
乾いた音が響く。
こうしてメルテの活躍で、ジャーゼラ議員との会談は無事に終了したのだった。




