第44話 婚約破棄からの電撃作戦
二度目の銀河中心戦線。
この戦線の問題は敵味方共に指揮官の采配がお粗末な事だ。
彼らに任せていては、多くの犠牲が出てしまう。
特に銀河帝国側のフォレスト将軍は部下にを強制的に特攻させる冷酷な人物だ。
まずはこの状況を打破しなければ。
見えてきた拠点の惑星を前に覚悟を新たにする。
「この女を連れてくるために増援を1日遅らせたのならば、ファーワールドの奴も勘が悪くなったものよ」
前回どおり、イライラしているウェイカー司令。
「すみません、マリーさん。
ウェイカー司令は気が短いんです」
「大丈夫。よく知ってるわ」
二度目だし。
「シャイン隊も来たので、すぐに出……」
「すぐに出撃します!」
ウェイカー司令の言葉を遮るわたし。
彼の攻撃命令など待っていては、無駄にたくさんの命が失われてしまう。
「メルテ、指示した作戦の準備はできてる?」
「完了しています」
「待て!」
「オッケー、上出来よ」
「待たんかと言っておる!
誰が出撃していいと言った?!」
ウェイカー司令が怒鳴っているが、引き下がる気はない。
「どれほど強い奴なのかをお見せしますわ」
優雅に一礼して、ペイトリオット2に向かう。
「一体どうするつもりなのだ?!」
「跳躍を使ってヨルムンガンドの背後に回り込み、奇襲をかけます」
「ばかな!
そんな事をすれば自分が挟み撃ちになる」
「ヨルムンガンドの背後には部隊はいません」
「そんな訳があるか! 寝言を言いおって」
確かにわたしもそんな訳があるかと思ったが、実際に背後に部隊はいないのだ。
「大体、戦闘中の密集状態の複数の艦の跳躍は禁じられておる」
「そうなの?」
前回、戦闘宙域での跳躍がタブーだとは聞いたが、戦闘の始まる前に奇襲をかけるなら問題ないと思った。
わたしはシャインの方を振り返る。
「跳躍の精度には誤差が生じます。
同じ座標に跳躍すると接触して大事故に繋がります。
だから解放軍では、戦闘中の複数の艦の密集状態での艦の跳躍を禁じています」
便利な跳躍も弱点はあるみたい。
「人間の演算能力の限界なんです」
「ふん、机上の空論だったな」
人間の演算能力の限界……?
「メルテ、あなたの演算能力で、密集状態の戦艦の跳躍はできる?」
「できます」
「10隻でもできる?」
「256隻までできます」
上出来!
「ではわたし達は参りますわ」
ウェイカー司令を置いて出撃するわたし達。
かくして10機の遊撃部隊はヨルムンガンドの後方に跳躍した。
メルテの演算のおかげで、危険な事故も起こらなかった。
そのままヨルムンガンドに攻撃を加える事も可能だけど、まずは戦闘の中止を訴えたい。
「みんなはここで突入に備えて」
「分かりました、マリーさん」
この場をシャインに任せ、帝国軍旗艦ヨルムンガンドの目前に向かうわたしとメルテの乗った戦闘艇。
「何っ!?
おまえは一体?」
大柄な初老の男性と目が合う。
それがフォレスト将軍だった。
「こちら銀河解放軍のローズマリー=マリーゴールドです。
直ちに戦闘を中断して下さい」
できる限り犠牲を減らしたい。
まずは交渉を試みた。
「何を寝言をほざきよるか」
顔を真っ赤にして激昂するフォレスト将軍。
「無益な戦闘は避けたいと思っております。
どうか賢明なご判断を」
「誰かこやつを撃ち落とせ」
まるで聞く耳を持たない。
「高速艇を呼び戻せ!
こやつに特攻させろ!」
高速艇が一機まっすぐこちらに向かってくる。
「特攻なんて馬鹿な事はお止めなさい!
命を大切にして!」
わたしは高速艇に訴える。
しかし、
「コントロールが利かない!
助けてくれえ!」
聞こえてきたのは悲鳴のような通信だった。
「演算しました。
ヨルムンガンドから遠隔操作されているようです。」
「なんて事!」
前回も、強制的に特攻させられた戦艦を、目の前で見た。
「わしに命令なんぞしおって!
己の愚かさを思い知れ!」
勝ち誇るフォレスト将軍。
「そうね。
わたしは愚かだった。思い知ったわ」
わたしはフォレスト将軍をにらみつけた。
「あなたと交渉しようなんて愚かだった」
「ふん、あの世で後悔す…………!」
その続きをフォレスト将軍が口にする事はできなかった。
将軍の胸から刃が突き出していた。
それは勇者の剣、ユウちゃんだった。
わたしはユウちゃんを潜入させてから、艦の前方に回っていたのだ。
交渉の余地があればよかったが、それが無理だった場合の保険だった。
そして、緊急の状況で、ユウちゃんはよくわたしの意図を汲んでくれた。
「フォレスト将軍は討ち取りました。
しかし、わたしは無益な争いを望んでいません。
こちらの指示に従って下さい」
かくして、二度目の中心戦線の戦いは迅速にに終了した。




