第42話 婚約破棄からの二度目の宇宙
「わたしに協力しない?」
二度目の宇宙。
目の前にいる初老の男性は、魔神官ダイザーこと、銀河帝国の大佐、ゴーディクだ。
前回は交渉を持ちかけたが、騙し討ちにあい、わたしは巨大戦艦内部で追われる立場に陥った。
しかし、わたしは敢えて前回と同じ会話をした。
前回と同じ行動を取った。
それは、メルテや銀河解放軍との出会いを繰り返すためだ。
そこまでの行動はなぞっていきたい。
「この高速艇に隠れていて欲しい。
調べられる限りの情報を与える」
同じ会話をすれば、同じ返事が返ってくる。
会話は順調に進んだ。
ところが着艦の直前、
「息子の写真だ。見るか?」
と、言われた時だった。
「それはただの紙切れで、家族なんかいないんでしょ?」
思わずわたしは余計な事を言ってしまった。
前回は「15年も家族に会ってない」という言葉に同情したら裏切られた。その事を思い出し、ついうっかり反論してしまった。
わたしがしまった、と思っていると、
「家族はいる」
不機嫌そうな言葉と共に、ゴーディクは紙を差し出してきた。
ただし、さっき手を入れていたポケットからではなく、別のポケットから。
今回渡された紙には絵が描かれていた。
いや、絵と言うには現実そのまんまだった。
これが写真というものなんだろう。
写っていたのは若い男女と幼い少年。
男性の方はゴーディクとよく似ていた。
笑顔ではあったが、眉間に皺が寄っている。
一方の女性は美しく優しそうな印象の人物だったが、その表情にはわずかな不安の陰りが見える。
無理もない。
これからこの夫婦は15年間、離れ離で暮らすの事になる。
少年の無邪気な笑顔が、まぶしくて逆に辛い。
「家族に会いたいでしょう?」
これから彼はわたしを騙し討ちにする。
情けなどかけるべきではないのだが、思わず口に出てしまう。
「そうだな……」
目を細めたその表情には偽りようのない家族への思いが見てとれる。
殺してやりたいと思った相手だが、憎み切れない気持ちになってしまう。
しそれでも着艦の瞬間はやって来る。
そして、ささいな会話が歴史を変える事はなかった。
ゴーディクは操縦桿を急速に傾け、高速艇を転倒させた。
すでに心の準備が出来ていたわたしは、静かな気持ちでその様子を眺めていた。
前回は転倒した後に、慌ててユウちゃんの空けてくれた穴に飛び込んだ。
しかし、今回は踏みとどまれる態勢で、その瞬間を待ち構えていた。
ユウちゃんが穴を空ける様子を眺める余裕すらあった。
わたしは静かに高速艇を脱出し、戦艦の床に着地した。
「ゴーディク大佐、操作パネルに何か置かれています」
「何だと?」
「これは写真ですか?」
「あの女、わざわざ置いて行ったのか……」
本当は、くしゃくしゃにして捨ててやろうか、と思っていたんだけどね。
これも二回目の心の余裕か。
さあ、メルテに会いに行こう。




