第41話 婚約破棄からの最高の気分
「ローズマリー=マリーゴールド、お前との婚約を破棄する!」
「おお……………!」
わたしはよろめいた。
玉座の間の全ての人々がわたしに注目する。
騎士団や重臣達がわたしを心配そうに見つめる。
シャラーナ=カーミルも実験中である事を忘れ、愕然としている。
ゼイゴス王子の恋人、ラーリンはほくそ笑んでいる。
王宮の誰もが、わたしの受けているであろう衝撃の、浅からぬ事を疑い得なかった。
しかし、直後のわたしの行動は、彼らの予想していないものだった。
「なんてまぶしいの!!」
ふらふらと窓に駆け寄り、開け放つわたし。
わたしは窓から差す陽光のまぶしさに、よろめいていたのだった。
その暖かさに感激の声を上げずにはいられない。
宇宙空間の死の暗黒が凍りつかせた心が、太陽の光によって溶かされていく。
「なんて暖かいの!!」
生命の存在を許された大地で浴びる陽の光は、まるで母の胸に抱かれたような安心感をわたしに与えてくれる。
「なんて清々しいの!!」
青空を見上げるわたしを爽やかな風がなでる。
両腕を広げ、それを全身で受け止めるわたし。
「ああ、最高の気分だわ!!」
久し振りの地上の感触を堪能するわたし、だったが……
「何で喜んでいるんだ!?」
ゼイゴス王子からツッコミが入る。
しまった。
どこの世界に、婚約破棄されて最高の気分になっている公爵令嬢があるだろうか。
「えーと、これはつまり……。
そう………。
ほら、あれです。
婚約破棄で落ち込んだけど、青空を見ていたら立ち直っちゃったなあ、って感じなんです」
「立ち直り早っ!」
やはり自然な感じにフォローできたとは言い難かった。
けど、もうその事はどうでもいい。
「それではわたくしは出発いたします。
ご機嫌よう」
スキップで玉座の間から出て行くわたし。
宇宙の閉塞感から解放されて、陰鬱とした気分は吹き飛ばす事ができた。
あとはやるべき事を済ますだけだ。
わたしが立ち去った後、玉座の間にいた人々もそれぞれの持ち場に戻った。
シャラーナ=カーミルも研究室に戻る。
「シャラーナ、魔法薬は沸騰してたから火を止めて置いたわ」
「マ、マリー様!?」
わたしは先にシャラーナの部屋で帰りを待っていた。
その間に魔法薬がダメにならないように火を消しておいた。
これでスムーズに話が進む。
「なんでマリー様が僕の部屋にいるんですか!?」
もちろん、彼にはこれまで通り、いろいろ説明する事がある。
しかし、まず真っ先に通しておきたい話があった。
「この魔法薬を分けて欲しいの。
これ、ティアラ病の特効薬でしょ?」
そう。
わたしの依頼でシャラーナが作った、この魔法薬が今こそ必要なのだ。
わたしはシャラーナに諸々の事情を説明した。
「なるほど。
宇宙でもティアラ病と似た病気が流行ってるんですか」
呪いの気配を察知できるシャラーナはすぐに信じてくれた。
「そういう事ならどうぞ持って行ってください。
他にも僕にできる事があれば言って下さい」
わたしはそんな彼の厚意に、遠慮なく甘えさせてもらう事にした。
具体的には、魔王ザンの魔法陣から転移魔法を習得してもらい、ゴーディクの書類から宇宙の言語を習得してもらった。
もちろんわたしも、彼に頼りっきりではない。
魔王ザンを打ちのめし、魔竜リンドを下僕とし、そして……、
「わたしの呪いを解く方法を教えなさい」
ゴーディクの喉元に迫るユウちゃんの切っ先。
わたしは再び高速艇に乗り込み、ゴーディクと対峙していた。
「ローズマリー=マリーゴールド……」
今度こそ銀河帝国と渡り合わなければ。
そして、わたしに掛けられた呪い、運命シークエンスを解除しなければ。
こうして、わたしの二度目の宇宙の冒険が始まった。




