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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第三部 銀河帝国編
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第41話 婚約破棄からの最高の気分

「ローズマリー=マリーゴールド、お前との婚約を破棄する!」


「おお……………!」


 わたしはよろめいた。


 玉座の間の全ての人々がわたしに注目する。

 騎士団や重臣達がわたしを心配そうに見つめる。

 シャラーナ=カーミルも実験中である事を忘れ、愕然としている。

 ゼイゴス王子の恋人、ラーリンはほくそ笑んでいる。


 王宮の誰もが、わたしの受けているであろう衝撃の、浅からぬ事を疑い得なかった。


 しかし、直後のわたしの行動は、彼らの予想していないものだった。


「なんてまぶしいの!!」


 ふらふらと窓に駆け寄り、開け放つわたし。

 わたしは窓から差す陽光のまぶしさに、よろめいていたのだった。


 その暖かさに感激の声を上げずにはいられない。

 宇宙空間の死の暗黒が凍りつかせた心が、太陽の光によって溶かされていく。


「なんて暖かいの!!」


 生命の存在を許された大地で浴びる陽の光は、まるで母の胸に抱かれたような安心感をわたしに与えてくれる。


「なんて清々しいの!!」


 青空を見上げるわたしを爽やかな風がなでる。

 両腕を広げ、それを全身で受け止めるわたし。


「ああ、最高の気分だわ!!」


 久し振りの地上の感触を堪能するわたし、だったが……


「何で喜んでいるんだ!?」


 ゼイゴス王子からツッコミが入る。


 しまった。

 どこの世界に、婚約破棄されて最高の気分になっている公爵令嬢があるだろうか。


「えーと、これはつまり……。


 そう………。

 ほら、あれです。


 婚約破棄で落ち込んだけど、青空を見ていたら立ち直っちゃったなあ、って感じなんです」


「立ち直り早っ!」


 やはり自然な感じにフォローできたとは言い難かった。

 けど、もうその事はどうでもいい。


「それではわたくしは出発いたします。


 ご機嫌よう」


 スキップで玉座の間から出て行くわたし。

 宇宙の閉塞感から解放されて、陰鬱とした気分は吹き飛ばす事ができた。

 あとはやるべき事を済ますだけだ。


 わたしが立ち去った後、玉座の間にいた人々もそれぞれの持ち場に戻った。

 シャラーナ=カーミルも研究室に戻る。


「シャラーナ、魔法薬は沸騰してたから火を止めて置いたわ」


「マ、マリー様!?」


 わたしは先にシャラーナの部屋で帰りを待っていた。

 その間に魔法薬がダメにならないように火を消しておいた。

 これでスムーズに話が進む。


「なんでマリー様が僕の部屋にいるんですか!?」


 もちろん、彼にはこれまで通り、いろいろ説明する事がある。

 しかし、まず真っ先に通しておきたい話があった。


「この魔法薬を分けて欲しいの。

 これ、ティアラ病の特効薬でしょ?」


 そう。

 わたしの依頼でシャラーナが作った、この魔法薬が今こそ必要なのだ。


 わたしはシャラーナに諸々の事情を説明した。


「なるほど。

 宇宙でもティアラ病と似た病気が流行ってるんですか」


 呪いの気配を察知できるシャラーナはすぐに信じてくれた。


「そういう事ならどうぞ持って行ってください。


 他にも僕にできる事があれば言って下さい」


 わたしはそんな彼の厚意に、遠慮なく甘えさせてもらう事にした。


 具体的には、魔王ザンの魔法陣から転移魔法を習得してもらい、ゴーディクの書類から宇宙の言語を習得してもらった。


 もちろんわたしも、彼に頼りっきりではない。


 魔王ザンを打ちのめし、魔竜リンドを下僕とし、そして……、


「わたしの呪いを解く方法を教えなさい」


 ゴーディクの喉元に迫るユウちゃんの切っ先。

 わたしは再び高速艇に乗り込み、ゴーディクと対峙していた。


「ローズマリー=マリーゴールド……」


 今度こそ銀河帝国と渡り合わなければ。

 そして、わたしに掛けられた呪い、運命シークエンスを解除しなければ。


 こうして、わたしの二度目の宇宙の冒険が始まった。

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