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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第三部 銀河帝国編
40/71

第40話 婚約破棄からの10日目の午前0時

 崩れ落ちるファーワールド。 

 何とか近づけた時には、身動き一つしていなかった。

 彼の周りは血の海になっていた。

 議員の手から光線銃がこぼれ落ちる。


「連行するんだ!」


 メクハイブの怒鳴る声が聞こえる。

 これでは会議どころじゃない。


「ファーワールドは?」


 一応聞いてみたが、メクハイブは黙って首を振った。


「ジャーゼラ議員に話を聞く。

 あなたはここにいて欲しい」


「分かったわ」


 メクハイブが去った後、わたしはファーワールドの白い顔を眺めた。

 穏やかな顔だった。微笑んでいるようにすら見えた。

 人を食ったような態度の、陽気な人柄だったが、危険に直面してすらもそれは変わらなかった。

 それどころか、孫娘の病気を治したい議員を気遣っているようですらあった。


 会って間もないが、彼は優しくて、勇敢なのだと分かった。

 人々から慕われていた事も容易に理解できた。


 少しすると沈痛な表情でメクハイブは戻ってきた。


「ジャーゼラ議員は孫娘の病気を治すには帝国の医療を使うしかないと言っていた。

 そのために依頼を受けたと」


 銀河帝国は、連邦と解放軍の同盟を黙って眺めているつもりなどなかった。

 ファーワールドと近しい議員を利用し、謀略を巡らせていたのだ。


「病って?」


「ティアラ病という伝染病だ。

 現在、銀河連邦中の惑星で猛威を奮っている」


 ティアラ病……!!


 わたしはその名前を知っている。


 わたしの故郷、コート王国で猛威を振るった伝染病だ。

 ゼイゴス王子が「かかった人間を隔離しろ。その内収まる」としか言わかったので、わたしが陣頭指揮を取って研究対策を行った。

 最終的にはわたしも感染して死にかけたが、間一髪で特効薬が完成して下火になっていった病だ。


「でもなんで同じ名前なの?」


 翻訳シークエンスが遠く離れた場所の病気に同じ名前を付ける事なんてある?

 翻訳が病気の性質まで分析するなんて事があり得る?


「恐らく翻訳シークエンスを持った誰かがマリーの国に来た事があって、性質をデータベースに入力したのでしょう。

 入力された性質から、似たような症状の別の病気に同じ名前を付ける機能なら、翻訳シークエンスにはあります」


 それもかなりの便利機能だが、宇宙からコート王国に来た人間なんて……。


「あっ……!」


 一人いた。

 わたしに呪いを掛けにやって来た奴が。

 ダイザーもとい、ゴーディクだ。

 わたしはあいつの顔を思い出し、腹が立ってきた。

 けど、今回は結果的に、奴が来た事が役に立った。


「惑星グランドではティアラ病の特効薬が発見されたのですか?

 変異を繰り返し強毒化していく特性を持つ、極めて危険な病気です」


「魔法薬はほとんどの病気を治せるの。

 それでも、ころころ変異する病気に対応するのはや異変だったみたいけどね」


 わたしも死ぬかと思った。

 最終的にどんな変異にも対応できる魔法薬が完成して、治す事ができたのだった。


「そんなものが作れるなんて、魔法文明はすごいですね」


「でも持って来てない」


 事前に宇宙でティアラ病が流行している事を知っていれば、魔法薬を持ち込む事もできた。

 それを議員が欲している事を知っていれば、魔法薬を渡してファーワールド暗殺を防ぐ事もできたかも知れない。


 しかし、何もかも後の祭りだ。

 帝国と対抗するために期待を寄せていた、銀河連邦との会議は実現できなかった。


「一旦拠点に戻ろう」


 わたしはメクハイブと共に戦艦で移動していた。

 7日間宇宙を移動して来たと思ったら、その日の内にまた戦艦に乗り込んで、来た道を戻る事になった。


 ファーワールドの死はショックだ。

 しかし、解放軍のリーダーなのだから命を狙われる可能性はあったのだ。

 全くうかつだった。


 今後の解放軍の事も気掛かりだ。

 リーダーを失い、会談も中断されてしまった。

 とても銀河帝国と対抗できるような状態ではない。

 メクハイブによると本拠地ではすでに逃亡者も出ていると言う。

 この先、どうすればいいんだろう。


 陰鬱な思いで見る宇宙の暗黒は、絶望的な気分を増幅させる。

 常に周囲を取り囲む死の世界は、何の活力も与えてくれない。


 ふと故郷が恋しくなってきた。


 青空の下に戻りたい。

 日光を浴びたい。

 大地の匂いを感じたい。


 天体の重力は魂を引き寄せる、と言う。


 惑星グランドに帰りたい。

 故郷に帰りたい……。


 そう思った時だった。


「ごぼっ……!」


 口から血の泡がもれる。

 激痛で胸を見れば、光の刃に貫かれている。


 そう言えば日付けの変わる時間だった。

 10日目にして、運命シークエンスが発動した。

 9日間発動しなかったが、ついに来てしまった。


 反省点は複数ある。

 これが正解の道だった、などとは思っていない。


 でもなぜ10日目だったのか?


 移動しただけの、無為に過ごした日々だってあったのに。


 もしや、今回の呪いは10日目で発動するのか。


「10日間の猶予がある……?」


 だとしたら、次の10日間でやるべき事は何か?


 銀河中心戦線の戦いでは、多くの犠牲を出してしまった。


 銀河外縁部では、解放軍リーダー、ファーワールドが暗殺された。


 せめてこの二つは何とかしたい。


「マリー!?

 まさか、これが運命シークエンスなのですか?!」


 メルテが駆け寄ってくる。

 瞳の幾何学模様が回転している。

 状況を演算しようとしている。

 しかし、わたしが演算の結果を聞く事はできないだろう。


「そうよ……。

 これがわたしの……、運命……」


 わたしは運命論の信者などではない。

 しかし、今は運命を受け入れ、理解し、対応していくしかないのだ。


「またね、メルテ……」


 意識が遠くなっていく。

 視界が闇に閉ざされていく。

 まるで宇宙の闇に、全てが呑み込まれていくようだった。


 こうしてわたしは7回目の死をむかえた。

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