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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第一部 王国編
4/60

第4話 婚約破棄からの宮廷魔術師の考察

「ローズマリー=マリーゴールド!

 お前との婚約を破棄する!」


「やったーっ!」


 王子の声を聞いたわたしはガッツポーズをした。

 また戻って来る事ができた。

 今度こそ午前0時に殺される謎の真相を突き止めなければ!


「ローズマリー、何を喜んでいるのだ?」


 と、それは良かったのだけど、ここでわたしは玉座の間が静まり返っている事に気づいた。


 王子の顔もひきつっている。


 しまった。

 婚約破棄されてガッツポーズで喜ぶ公爵令嬢があるだろうか。


「えーと、これはその……、ほら。

 やっちまった、的なやったーです。


 いやー、これはやっちまったなー。

 やったー、やったー」


 頭を抱えるジェスチャーで弁解するわたし。


「はしたないでしたわね。

 ごめんあそばせ、ほほほ。

 ほほほほほ……」


 そして、上品に振る舞うわたしだが、自然な流れでフォローできたとは言い難かった。


「ほほほ。で理由は何でしたっけ?」


 わたしは話題を変える事にした。


「お前は再三、余の政治に口を出して来た。

 国を意のままにしようとするお前の行為は、もはや看過ごす事はできん!」


「ですよねー」


 やっぱり同じだった。


「これは仕方がありませんわね。

 じゃあそういう事でサヨナラ~!」


「おい、ローズマリー……!」


 そそくさと退出するわたし。

 今日のわたしは忙しい。

 分かってる事にいつまでも構っていられない。


「ロ、ローズマリー様!

 お守りできず、本当に申し訳ありません!」


 マナー講師のシボーン先生が泣きながら現れたのも、これまで通り。


「わたしなら何とも思ってないから、気にしないで。

 よしよし。

 よしよしよしよし……」


 シボーン先生をハグして、頭を撫でるわたし。


「ああ、ローズマリー様! 何と気丈な!」


 彼女は感極っているが、わたしは本当に何とも思ってないのだ。

 3回目だし。


「ローズマリー様!

 これでお別れなど残念でなりませぬ」


 次はマーク騎士団長だ。


「わたしなら大丈夫。後は任せましたわ」


「おお、ローズマリー様!

 その様なご無理をなされますな」


「本当に大丈夫。

 全然大丈夫」


 大丈夫過ぎてもどかしいくらい。


「それに引き換えあの王子の奴は全く許されませぬ!」


 怒り心頭の騎士団長。

 気持ちは嬉しいが、それどころじゃない。


「ああ、でも後で手紙を公爵家に届けて欲しいかも」


 必要な事を告げ、足速に立ち去るわたし。

 ここまではいい。

 重要なのはこの後だ。


 わたしは、わたしを見つめて廊下に立っている宮廷魔術師に話しかける。


「火にかけている薬品、沸騰してダメになってしまいますよ」


「はっ! そうだった!」


 若い魔術師は目を見開いて、急いで自室に戻る。

 跡をつけて、彼の研究室をのぞき込むと、今度は紫色の煙は上がっていない。


「ふーっ、間に合った!」


 ほっとしているシャラーナ。

 それを確認して、彼の研究室にわたしは入って行く。


「ほらね。言った通り」


「ロ、ローズマリー様?!」


 不意に現れたわたしにびっくりしているシャラーナ。


「ど、どうしてこんなところに?!」


 どぎまぎして、キョロキョロしている。

 今までは挨拶するくらいで、特に接点はなかったので、仕方がない。


「薬品がダメにならなくてよかったですね」


「ありがとうございます。

 でも僕の実験の事、よく分かりましたね」


「大した事じゃないの」


 三回目だし。


「それより、お礼の代わりにわたしの質問に答えてもらっていい?」


「ロ、ローズマリー様が僕に質問ですか?!」


「魔術に関する質問があるの」


 この王宮で魔法に一番詳しいのは恐らく天才魔術師と呼ばれた彼。

 わたしに掛けられた魔術について尋ねるなら、彼が一番だろう。


「魔術ですか?」


 婚約破棄された元王妃候補が、魔術の事を聞いてくるのは、さぞ不自然な事だろう。


「変な話で信じられないでしょうけど、本当の事なの」


 わたしを改めてよく見るシャラーナ。


「信じますよ」


 よかった!

 さすが天才魔術師! 勘がいい、


「あなたは臭いますから」


 は?


 臭い?

 王子との謁見前に、身だしなみを整え清潔にしたはず。

 香水をかけ過ぎた?

 それも注意をしてるんだけどな。


「そうじゃありません」


 自分の袖の臭いをかいでいるわたしに、彼は首を振った。


「呪いの臭いですよ。

 あまりに強力過ぎて臭うんです」


 突然の一言に、わたしの動きは止まる。

 呪い?


「誰かがわたしを呪ってるって言うの?!」


 王子?

 ラーリン?

 王妃の立場を狙った他の貴族家?


 可能性はいくらでもありそう。


「いえ、これはとても人間にできる芸当じゃない。

 とんでもなく強力な呪いです。

 魔族でも最上級の、それこそ魔王クラスでなければ掛けられないほどの」


 話が大きくなって来た。

 どうやらすごい呪いだったみたい。


「ローズマリー様は呪いの性質を、どの程度つかんでいますか?」


 どの程度、と言われれば、2回殺された程度には理解している。


「夜の0時になった瞬間に殺されて、王子に婚約破棄される直前に戻される。

 それが呪いの性質」


 なるべく分かりやすいように、わたしの身に起こった事を説明した。


「時間が戻る?!」


「そう。今回でもう3回目。

 ちなみにあなたの薬品がダメにならなかったのは今回が初めて」


 魔術師は大きな目をしばたかせて驚いていた。


「時間を戻す呪いだなんて、聞いた事もありません。

 道理で……、想像した以上です」


「そんなに臭い?」


 魔術師の顔を覗き込む。

 やっぱりこれは気になっちゃう。


「ご、ごめんなさい!

 誤解を招く言い方でした。


 いわゆる香りではなく、気配のようなものです」


「じゃあ臭くない?」


「ローズマリー様は全然、臭くなんてありません!」


「ホント? よかった!」


「で、でも強力な呪いがかけられているのは確かです。


 解き方も分かりません」


 うーん、残念。

 でも、魔族が実家を襲った事実はあるし、魔王が関わっている可能性は高いかも。


「だからと言って魔王に会う訳にはいかないし……」


「勇者もまだ現れてませんしね」


 勇者の剣の刺さった岩は城下町の広場にある。

 この国を建てたのがそもそも千年前の勇者で、戦いの後に剣のあった場所に建てたのがこの国なのだ。


 勇者の剣は資格のない者は、岩から引き抜く事すらできない。

 選ばれたものだけが、苦もなく引き抜けると言う。


 魔王が現れる時、勇者も現れると言われているが、未だ剣を抜ける者は現れていない。


 王子もかつての勇者の子孫だが、抜けなかった。

 まあ遊んでばかりで、剣術もからっきしなので、当然と言えば当然だけど。


「勇者現れないかなあ、今日中に」


 今日中に魔王が倒されれば、わたしにかけられた呪いも解けるかも知れない。


「今日中に勇者が現れて、今日中に魔王を倒すなんて、さすがに無理ではないですか」


 確かに。

 でも、そうしてもらうしかないのだ。

 何しろ明日になる瞬間、夜中の0時に殺されてしまうのだから。


「あ…、でも……」


 その時、わたしは閃いた。


「今日ダメでもまた時間が戻る訳だし、次回も引き続き探せばいいじゃない」


「そんなに時間が戻る事を当て込んでいいんですか?」


「戻れないなら死ぬだけだし」


 時間の戻る呪いを解くために時間を戻ってやり直す、なんて本末転倒な感じもするけど、他にどうしようもない。


「とにかく行ってみるしかないわ」


 わたしとシャラーナは、勇者の剣の刺さる岩の場所、通称「剣の岩場」に向かった。

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