第37話 婚約破棄からの中心戦線離脱
「帝国軍のヨルムンガンドのミサイルによって、帝国軍の戦艦が撃沈されました」
やっぱりそうだ。
見間違いではない。
帝国軍が帝国軍に攻撃したのだ。
しかも、直前の会話の内容から想像するに、特攻の命令を拒否したから攻撃されたようだ。
「思ったより敵艦を巻き込めたな」
しかもフォレスト将軍には罪の意識など微塵も感じられない。
こんな極悪非道な指揮官がいるなんて。
「自分から特攻しておればミサイルを無駄にせずに済んだものを」
「……!」
その通信を聞いた瞬間、ユウちゃんは旗艦ヨルムンガンドに突き進んでいた。
向かって行ったのは目の前の敵艦の動力部だった。
そして、ユウちゃんが艦内に突入し、戻って来ると、ヨルムンガンド大爆発を起こし轟沈した。
「……戻りましょう」
爆発の光景は、跳躍によって闇に塗り替えられた。
フォレスト将軍が冷酷な命令を下したからと言って、ヨルムンガンドの乗組員全員がそれに賛同していたとは限らない。
しかし、わたしはユウちゃんの行動を咎める気は起きなかった。
玉砕覚悟どころか、玉砕を強要する指揮官を放って置く気にはなれなかった。
「おお、でかしたぞ!
敵の旗艦を落とすとは!」
ウェイカー司令から通信が入って来た。
「そのまま、突き進んで敵の拠点を制圧するのだ!」
このチャンスを逃すなと言わんばかりのテンションだが、わたしは全然そんな気分ではなかった。
「あなた一人で行って下さい」
「なんじゃと?!
貴様、上官命令が聞けないというのか?!」
「あなたはわたしに引っ込んでろ、と命令したでしょ?」
はらわたが煮えくり返るような、それでいて背筋が凍るような、おぞましい気持ちに心が支配されていた。
ウェイカーの声を聞くのも嫌だった。
「わたしはもう帰ります」
「この好機に帰るなどどういう事か!
フォレストを倒したなら一気に拠点を攻めるべきだ!」
「好機ではありません」
会話に割り込んで来たのはメルテだった。
「この先の拠点と言うと小惑星キャゼリンですが、キャゼリンはディザールとカアンガの二惑星の活動範囲に当たります。
その二惑星はそれぞれキューバート、ザンジヌの二大将が駐屯しています。
どちらも苛烈な攻めと鉄壁の守りを特徴とした名将です。
現在の解放軍の戦力では惨敗するでしょう」
「新たに将官二名がこの宙域にじゃと?!
そんな話は聞いた事が……」
「10日前に下された命令です」
メルテが活動を始めるより以前の命令なのに。
情報収集をして、適的確な分析まで。
メルテはとにかくすごい。
「フォレスト将軍が倒されたなら、彼らはただちにに行動を開始すると思われます」
「うぬう……」
「ウェイカー司令、守りを固めれば膠着状態は維持できるのでは?」
それはシャインの声だった。
彼も交戦していたが、帰還したのだろう。
無事なら何よりだ。
「戦闘艇部隊も補給が必要です」
その表情には、心身共に疲労の色が見えた。
いい加減に休ませろという言外の主張が見えた。
「やむを得ん。帰還する」
現場の報告の後押しもあって、ウェイカー司令もようやく折れた。
こうして銀河中心部の戦いは終わったのだった。
「お疲れ様、メルテ」
わたしはアイデアは出したけど、実際に演算したり、戦闘艇を操作したのはメルテだ。
それに休戦できたのも、メルテが帝国の陣容を説明した事によるところが大きい。
「作戦終了よ。手を上げて」
「了解です、マリー」
メルテが手を上げ、わたしがその小さな手に自分の手を合わせると乾いた音が響いた。
わたし達は生き残った。
ハイタッチのノルマも達成だ。
「わたし達はこれからどうしますか?」
「そうね。
ファーワールドと合流しましょうか」
呪いを解くためには銀河帝国に接近したいけど、ウェイカー司令のように、犠牲を無視して強行突破する気にはなれない。
強力な将軍達が控えているらしいし。
ファーワールドの進めている銀河連邦との交渉に活路を見出した方がいいんじゃなかろうか。
どうせ銀河中心戦線は守りを固める訳だし。
「今日は休んで明日は銀河外縁部に向かいましょう」
わたしはこうして銀河中心戦線を離れる事にしたのだった。




