第34話 婚約破棄からの銀河中心戦線
わたし達は昼食をとってから、銀河中心戦線に向かう解放軍と合流する事にになった。
「よろしくお願いします、マリーさん」
案内してくれるのは、わたしと変わらない年齢に見える青年だった。
「解放軍のシャインです。
マリーさん、わたしの声を覚えてませんか?」
そう言われてもさっぱり分からない。
「初めてあなたと通信したパイロットです。
是非お会いしたかったと思ってました」
あの時の兵士が彼だったのね。
「わたしの隊がマリーさん達とお供をします。
あなた達のペイトリオットⅡも整備してありますよ。
こちらへ」
戦闘艇まで案内してくれるようだ。
感じのいい青年でよかった。
「さあ、あなたもどうぞ
えーと……」
「メルテです。了解いたしました」
メルテにも話しかけたが、こちらは少しぎこちなかった。
やはり帝国のオートパイロットには恐怖感があるようだ。
ハッキングされて艦を爆破されそうになったのだから、しょうがないか。
「そう言えば戦線までどのくらいかかるの?」
銀河系図では惑星は点に過ぎなかった。
距離感が全然違うはず。
「5000光年くらいの距離なので跳躍を使えば半日程度です」
銀河系の中で言えばそれほど離れていないので、半日で済んだみたい。
それでも惑星何万個分もの距離がある。
やはり宇宙は広大だ。
「メルテさん、戦闘艇の跳躍航行に合わせられますか?」
「機体名さえ教えて頂ければ、そちらの跳躍ユニットと同期します」
「同期なんてできるんですか?
解放軍の機体なのに」
「フリープラネッツ通常型と強襲型はすでに解析しました」
「す……すごい」
「演算しました」
会話の意味はよく分からないけど、メルテが演算したなら多分大丈夫だろう。
こうしてわたし達はシャイン隊と共に銀河中心戦線に旅立った。
まあわたしは星空を見ているだけだったけど。
跳躍航行中の、高速で動く星々はちょっとしたスペクタクルだった。
呪いを掛けられていなければ、戦場に向かっているのでなければ、素敵な旅路だっただろう。
やがて目的地の惑星が見えてきた。
海は少なく、青よりは黄土色の惑星だった。
ちなみに着陸はしなかった。
なぜなら、
「軌道エレベータのプラットフォームに入場します」
地表から宇宙空間まで人工物で繋がっていて、そこに建物作られていたからだ。
「すごい!
こんな大きなものが作られているなんて!」
宇宙まで続く塔だなんて。
「これは標準的な施設ですよ。
いや、連邦や帝国と比べれば旧式になるのかな」
「確かに単線式の軌道エレベータは、今となっては帝国でも少数です」
メルテの話を聞く限り、帝国領の惑星でもこの軌道エレベータと言うのは一般的らしい。
自分の故郷がとっても田舎に思えてしまう。
いつの日か、惑星グランドにも同じものが作られるだろうか。
そんな事を思っている間に、シャイン隊はその建物、軌道エレベータのプラットフォームに入場した。
戦闘艇を降りると背後に星空が見えた。
目線の高さの星空って、何だか不思議な感じ。
「そう言えば宇宙では人間は生きられないんじゃなかったっけ?」
「プラットフォーム全体が環境シークエンスの範囲になってます」
そうなんだ。便利なものね。
「まずは指揮官に到着の報告をしましょう」
「指揮官はどんな人?」
わたしが当然の流れと思ってした質問だったが、シャインの表情は一瞬曇った。
この質問を想定していない訳がなくて、つまり説明したくない事なのではないかとわたしは勘ぐった。
そういう表情の曇りを感じた。
「ウェイカー司令という人で、この辺りの惑星の人物です」
最前線を任されているのだし、それなりの戦歴を持った人物なのだろう。
「シャイン隊、ようやく来おったか」
聞こえてきた声の主は恰幅のいい巨漢だった。
口ひげにも白髪が混じっているので、壮年だろう。
「お前が噂の帝国の艦船から逃げて来た娘か?」
「ローズマリー=マリーゴールドです。
宜しくお願い致しますわ」
できる限り礼儀正しく自己紹介する。
「ふん」
しかし、残念ながらいいリアクションは得られなかった。
「帝国の戦闘艇を奪ったというから、どれほど強い奴なのかと思ったが、小娘ではないか」




