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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第三部 銀河帝国編
32/71

第32話 婚約破棄からの運命という呪い

 作戦終了のハイタッチも終え、ようやく眠りに就くわたしとメルテ。


 だったのだが、わたしに取ってはこの眠りが曲者なのだ。


 静かに目を閉じていればいいのに、自然と呼吸が荒くなっていく。

 胸に手を置き深呼吸をするが、それでも全然気持ちは落ちつかず、寝返りを打つ。


 午前0時が迫っている。

 呪いが発動した時の激痛を思うと、平然としてはいられない。


 銀河帝国の宇宙戦艦を脱出して、宇宙での戦闘、そして、銀河解放軍との接触。

 一日でかなりいろんな事をしたけど、果たしてこれで正解だろうか?


「マリー、何か気になる事がありますか?」


 メルテがわたしの様子がおかしい事に気付いた。


「大した事じゃないから気にしないで」


 そうは言ったが、わたしの声は張り詰めている。


「新しい環境に馴染めませんか?」


「まあね」


 と、答えたものの、実際は宇宙という新しい環境より、呪いという以前からの環境の方が問題なのだ。


「マリー、それなら」


 メルテが上体を起こすと部屋の灯りが点いた。

 機関部の爆発まで起こせるメルテなら、灯りを操作するなんて朝飯前なんだろう。


「リラックスできる酸素濃度に調整しましょう」


「そんな便利な事もできちゃうの?」


「深呼吸して下さい」


 わたしはふうっと息を吐き出すと、身体の力を抜いた。

 言われた通りにリラックスして、眠りに就こうとした。

 ところが、


「環境シークエンスを使います」


「シークエンス……!」


 わたしは目が一気に目が冴えてしまった。

 聞き捨てならない単語が飛び出して来て、飛び起きる。

 シークエンスとは、ゴーディクがわたしに掛けた呪いの事を指して、使った言葉だ。


「シークエンスって一体何なの?」


 メルテが宇宙空間で戦闘艇のハッチを開ける際にも、シークエンスと言った。

 その時も環境シークエンスと言っていた。

 いろんな用途のシークエンスがあるの?


「量子力学とナノマシンによって、自然界に干渉するために行われる一連の処置を、わたし達はシークエンスと呼んでいます」


「よく分からないわ」


「そうですね……」


 メルテは首を傾げて考え込んだ。


「わかりやすく言うと、計算式を記述すればその内容がそのまま、現実にできる技術の事です」


 あんまり分かりやすくはなかった。

 だけど、それはこの際どうでもいい。


「メルテ、一つ聞いていい?」


 正確に理解することより重要な事がある。

 質問しなければならない事がある。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 メルテはしばらく答えなかった。


「…………。


 ……あります」


 そして、珍しく言いよどんだ。

 今まで何事にも率直だったのに。


「それをわたしから取り除く事はできる?」


「不可能です」


 これは即答だった。


「何度か試みました。

 電気的な干渉を行い、機能の停止や、破壊も試みました。

 しかし、不可能でした」


 そんなにいろいろやってたんだ。

 そして、メルテがそこまでやっても取り除けなかったなんて。


「オートパイロットの能力の及ぶものではありません。


 ……神の御業です」


 どこかで聞いた言い方だった。


「じゃあ何か分かる事はある?」


 ほんのわずかでも情報が欲しい。


「わたしの把握できた特性はこうです。


 このシークエンスは高次元からマリーの座標に固定されています。


 あなたが宇宙のどこにいようと、いつ何時(なんどき)であろうと、そして、どの時間線にいようとも、あなたの座標から離れないように固定されています。


 正確には固定されている訳ではなく、マリーのいる空間と時間に常に存在し、効力を及ぼしています。


 取り除くどころか、三次元の世界からは触れる事すらできません」


 メルテの分析の内容は、壮大なものだった。

 改めてとんでもないものだと思い知らされた。


「マリーとファーワールド=マカリスターの会話を聞いて、それがこのシークエンスだと理解しました」


 あの時メルテは何も言わなかったけど、状況を把握していたみたい。


「時間遡行は銀河帝国の科学力でもなし得ない事ですが、このシークエンスを使えばできるのかも知れません」


 メルテにも手に負えない代物だった。それどころか銀河帝国の科学力でも手に余るものだったみたい。


「それにしても、このシークエンスと呼ぶのは紛らわしいわね」


 環境シークエンスなんてものも出て来た現状では区別し辛い。

 正式名称をわたしは知らないけど、区別はしたい。


「そうだ。

 メルテ、何シークエンスか名付けてよ」


「わたしがですか?」


 わたしより語彙力ありそうだし。


「演算してよ」


「演算は必要ありません。

 ですが、そうですね……」


 メルテは沈思黙考を始めた。

 瞳の幾何学模様は回転しない。

 演算と無関係な事には反応しないようだ。

 あごに手を当て、首をかしげた様子はいつもより幼く見えた。


「時間、空間、時間線を超越して影響を及ぼすシークエンス……」


「あんまり長いのはやめてよ」


「そうですか、では……」


 しばらく考え込んでいたメルテは顔を上げ、言った。


「運命シークエンス、でどうでしょうか?」


「運命……!」


 大げさな名前だ。

 しかし、わたしはこの名称がしっくり来てしまった。


 別にわたしは運命論の信者ではない。

 生まれながらに運命が決まっているなんて、何だか後ろ向きな考え方で好きじゃない。


 しかし、この場合。

 空間、時間、時間線を超越して、わたしの人生に影響を及ぼすものを何と呼ぶべきか考えた場合、運命と言う呼び方は、あまりにも適切な感じがする。


「正しくありませんか?」


「いいえ、これ以上ないくらい正しいわ」


 この呪いは運命的に運命的だ。

 この名称しかない。

 わたしは今後、自分に掛けられた呪いを、「運命シークエンス」と呼ぶ事にした。


「もう休みましょうか」


 かえって目が冴えてしまったのではないか、とも思っていたが、わたしは程なく深い眠りに付いた。

 そもそもかなり疲れていたし、メルテの環境シークエンスのおかげかも知れなかった。


 そして、


「おはようございます、マリー」


 目を覚ましたわたしの前にはメルテがいた。

 二段ベッドのはしごにつかまり、わたしをのぞき込んでいる。


「よくお休みできましたか?」


「うーん……、とっても」


 伸びをする余裕もある。

 胸を光の刃で貫かずに済んだのだから、よくお休みできたと言って差し支えない。


 わたしは無事に宇宙での2日目を迎える言葉ができた。


「ファーワールド=マカリスターが朝食を一緒にいかが? との事です」


「分かったわ」


 宇宙2日目、少しずつ真相にも近づきつつある。

 呪い改め、運命シークエンスの謎を解き、故郷の惑星を銀河帝国の魔の手から救うのだ。

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