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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第一部 王国編
3/60

第3話 婚約破棄からの状況把握

「ローズマリー=マリーゴールド!

 お前との婚約を破棄する!」


「それはさっき聞きました」


 まったく、何を言っているの?

 こっちは致命傷を負って、それどころじゃないのに…………。

 って、あれ?


「何を言っているのだ? ローズマリー?」


 おかしい。

 胸にも背中にも傷はないし、出血もしていない。

 みるみる痛みも引いていく。

 あれは夢?

 夢だけど痛かった?


 そして、あれが夢なら、王宮で婚約破棄されたこの状況が現実?

 でも、前に婚約破棄された記憶もあるんだけど。

 正夢なの?

 頭がこんがらがってきた。


「り、理由を聞いてもよろしいですか?」


 わたしは記憶の中と同じ事を尋ねてみた。


「お前は再三、余の政治に口を出して来た。

 国を意のままにしようとするお前の行為は、もはや看過ごす事はできん!」


 やっぱり記憶と同じだ。

 と言うか、寸分違わず同じセリフだ。


 侍女のラーリンが口元に手を当て、含み笑いをして、王子と顔を見合わせた。


 これも全く同じだ。


 しかし、いつ寝たんだろう?

 王宮のど真ん中で寝て、自分が殺される夢を見た?


 それに、この王宮から故郷までの出来事は、悪夢のような出来事ではあったけど、夢で済ますにはあまりにも鮮明だ。

 婚約破棄を宣告された屈辱も、背中から刺された痛みも。

 あれが夢だったなんて思えない。


 夢じゃないなら何なのか?

 分からないけど、とにかく記憶にある事が目の前で起こっている。


「ローズマリーよ。分かったら、今すぐ余の前から消えるがよい」


「かしこまりました」


 記憶ではここで「お考え直し下さい」と言ったら、王子はさらに激怒した。

 そのやり取りをもう一回したくはない。

 わたしは、今度はすんなり引き下がってみた。


「じゃあそういう事で、わたしはマリーゴールド公爵領に戻ります」


 そう言ってすぐに玉座の間を立ち去るわたし。

 今度は悲しみや屈辱はない。

 と言うか、頭がこんがらがって、それどころじゃない。


「ロ、ローズマリー様!」


 廊下でシボーン先生が呼び止めて来たのも同じだった。


「ローズマリー様は最高の王妃になられます!

 なのに……!


 こんな事、なんて理不尽な……!」


「その気持ちだけで十分ですわ」


 先生をハグして頭を撫で別れる。

 このやり取りも知っている通りだ。


 次にやって来たのはマーク騎士団長だ。


「これでお別れなど残念でなりませぬ」


「騎士団長、あなたにもお世話になりました」


 やはり同じ結果。

 同じやり取りを繰り返す事になった。


 城を出る際、宮廷魔術師のシャラーナが大騒ぎしていた。

 紫色の煙が立ち込めていた。


「沸騰し過ぎた!」


   という叫び声がする。

 彼は、わたしの婚約破棄に気を取られて、魔法薬作りを失敗した。

 これも記憶にある出来事だ。


 うーん、何もかもあまりにも鮮明に覚えている。

 胸を刺された痛みを思い出そうとすると、恐怖で息が苦しくなってくる。

 あの記憶と現在の状況、どちらも現実としか思えない。

 と、すれば……。


「これは、もしかして……」


 わたしはここである推論に辿り着いた。

 これは正夢なんかじゃなく、「時間が戻っている」のではないだろうか?


 午前0時になった瞬間に、婚約破棄される直前に戻った。

 そう考えると、つじつまが合う。

 と、思いつつもやはりそういう夢だと考える方が自然なんじゃないかとも思う。


 そして、これが本当に時間が戻っているのならば、わたしには一つしなければならない事がある。

 それは、今夜起こるであろう公爵家襲撃の阻止だ。

 一刻も早くこの事実をお父様に知らせなければ。


「公爵家に手紙を送りたいのですが」


 急いで馬を飛ばしてもらえば間に合うんじゃないか。

 騎士団長に相談してみた。


「他ならぬローズマリー様の頼みならば、聞かぬ訳には参りませぬ」


 騎士団長にお願いしてみると、すぐに早馬を出してくれた。

 わたしは何者かの襲撃に備えるよう、お父様に注意を促す手紙を送った。


 信じてもらえるかは分からないが、上手くいけば襲撃を阻止できるだろう。

 犯人も捕まえられると尚いいけど。


 わたし自身も馬車で故郷に向かう事にした。

 前回の帰りの馬車では、悲しみと屈辱で胸の張り裂けるような思いだった。

 しかし今は、午前0時に、実際に胸が張り裂けて殺される事の方が問題だ。


 そんな事を考えている間に、故郷の公爵領にたどり着いた。

 すでに真夜中だったのだが、何やら街が騒がしい。

 火災が起きているようには見えないが、それでも普段とは様子が違う。


「何かあったのですか?」


 馬車を降りて、松明を持った住民に話を聞いてみた。


「街が襲撃されるって情報を、公爵様が手に入れたらしいんですよ」


 お父様はわたしの情報で動いてくれたようだ。


「そ、それで襲撃者は捕まったのですか?」


「ええ、退治したらしいですね。

 その噂で街中持ち切りですよ」


 どうやら上手くいったみたい。

 屋敷の襲撃は阻止できたようだ。


「襲撃者が何者だったか、分かりますか?」


 わたしを刺し殺した者も襲撃者の一味の可能性が高い。

 一体誰がわたしの死を望んだのか?


「魔族ですよ。

 こんな南にまで現れるなんて」


「えっ……?」


 予想外の答えに目が点になった。

 魔族?

 わたしは魔族に殺された? 何故?


 釈然としなかったが、それでも襲撃を防ぐ事はできた。

 屋敷に戻ってお父様に婚約破棄された事を報告しよう。

 それはそれで気が重いが、屋敷が炎上するよりは、断然いい。


 屋敷に向かおうとしたわたしはたまたま街の中央の時計台を見た。

 それは長針と短針が重なる瞬間だった。

 午前0時。

 1日が終わり、次の1日が始まる瞬間。


 その時だった。


「な……んで…………?」


 背中に激痛が走り、その痛みは心臓を貫き、みぞおちから光輝く刃物が見えた。


 襲撃は阻止されたはず。

 実際、屋敷の火災は防がれている。

 一体どういう事?


 しかし、これが二度目だったからか、わたしは冷静に状況を把握しようとしていた。

 口から血の泡が出て来るが、頭の中はクリアだった。


 せめてわたしを殺す相手の顔が見たい。

 そう思って、身体を反転させた。


 みるみる身体から力が抜けていき、崩れ落ちる。

 しかし、どうにか仰向けに倒れ、背後を見る事ができた。


 しかしそこには、誰もいなかった。


 真夜中とは言え、魔族出現騒ぎのせいもあり、灯りを持った人がたくさんいる。

 視界は良好と言っていい。


 しかし、わたしの後ろには暗殺者の姿も、魔族の姿もなかった。


 倒れながらも後ろを注視していたし、倒れた後は背後がよく見える仰向け状態だ。

 それなのに視界にあったのは石畳の街並みだけ。


 誰もいない?

 しかしわたしは誰かに刺された。

 現にこうしてわたしの胸には刃が…………、


 なかった!


 あの光輝く刃物はもう刺さっていなかった。

 しかし、傷がなかった訳ではなく、傷口からどんどん血液が失われている。


 しかし、なぜ刃物がなくなっているのだろう。

 刃物をわたしの身体から取り出したなら、その感触は絶対に分かる。


 今まさにこんなに痛いのだ。

 感触が分からないなんて、あり得ない。


 魔法によるもの?

 魔力でできた刃物なら、刺さった後で消え失せても不思議はない。


 魔族の襲撃と関わりがあるのなら、その可能性もありそう。


 それなら、夜中の0時に殺害されて、婚約破棄される瞬間に戻される事も魔王のしわざだろうか?


 そんな事を考えている間にいよいよ意識を失う瞬間がやって来た。


 その時わたしは、奇妙な事ではあるけれど、婚約破棄の瞬間に戻される事を期待していた。

 そして今度こそ自分の置かれた状況の謎を解きたいと思っていた。


 調べる時間が、チャンスが欲しい。

 これで終わりなんて嫌。

 婚約破棄の瞬間でいいから戻りたい。

 そう思いながら、わたしは意識を失った。


 ☆☆☆


 そして、視界が明るくなり、わたしは玉座の間にいた。


「ローズマリー=マリーゴールド!

 お前との婚約を破棄する!」


「やったーっ!」


 わたしはガッツポーズで叫んでいた。

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