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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第三部 銀河帝国編
28/71

第28話 婚約破棄からの追跡機接近

 潜り込んだ戦闘機の中にいた少女、オートパイロットのメルテはわたしをマスターと呼び、惑星グランドまで連れて行ってくれる事になった。


 わたしが一人で戦闘機を操縦して、惑星グランドに到着するのはまったく現実的ではない。

 メルテとの出会いは幸運と言う他なかった。


 しかし、後ろを振り向くと、戦艦から戦闘機が飛び出して来た。


「後ろを見て、メルテ!」


「後ろは見なくて大丈夫です。

 お手元のモニターをご確認下さい」


 前を向くと前方の座席の一部がこちらに倒れ、机のようになっていた。

 机は大分部が黒いガラス面に占められていて、そこには複数の光が。

 これがモニターかな。


「三機の同型機に追跡されています」


 モニターの中央の光に迫る三つの光。

 わたし達の乗り物と追手を意味しているのか。


「この乗り物は、こんな便利な事ができるのね」


「データはわたしが収集し、本機と同期して、モニターに表示しています」


「あなた、そんな事できるの?!

 どんな魔法?!」


「演算しました」


 よく分からなかった。


「あなたってもしかして、魔法生物か何か?」


 能力があまりにも人間離れしている。

 発言も何だかおかしいし。


「銀河帝国には魔法文明はありません」


 そうなんだ。

 ゴーディクにしても、メルテにしても不思議な能力を使っているように見えるけど。


「じゃあメルテは人間なの?」


「身体は人間と同じ有機物ですが、工場で生産されました。

 目的に応じたカスタマイズを受けて、出荷されています。


 宇宙艇のコンピュータを電気的に制御できる能力を与えられたのが、オートパイロットです」


 工場で人間を作るなんて!

 でも、人間である事には変わりないみたい。


 しかし、それはさておき敵から追跡されている。


「逃げられそう?」


 同型機って言ってた。

 実際モニターの光も一定の距離を保っている。

 これなら追いつかれないんじゃないか、と思っていたら、


「確実に撃墜されます」


 えっ……?!


 メルテのあまりにも落ち着いた言い方に、わたしは耳を疑った。


「三機の同時攻撃を避ける事は極めて困難です」


「そうなの?」


「ビーム兵器は撃たれた後に反応して回避する事はできません。

 そして、相手が一機ならば、射線の予測は可能ですが、三機の連携攻撃には対処できません」


 連携して来たらおしまいって事ね。

 連携攻撃はしてくるのかな。


「オートパイロットは連携攻撃を得意としています」


 おしまいじゃない!


「情報を同期しながら戦えるのがオートパイロットの強みです」


 そんな事、自慢げに言われても。


「こっちから仕掛ける事はできないの?」


「誘導ミサイルなら背後を攻撃できますが、同型機なので迎撃されるのは必至です」


 うーん、何か他の方法は……。


「勝利は難しいですが、生き残る事は可能です」


「ホント?!」


 それで全然構わない。

 勝利でなくたって構わない。


「この戦闘機のコクピットはそれぞれ脱出ポッドになっています」


 この乗り物から分離して脱出できる乗り物がある、って事かな?


「脱出ポッドは惑星グランドに向かうように、わたしがプログラムします。


 そのあと、わたしが本機で交戦して敵機をおびき寄せるので、マリーは脱出して下さい」


 ん……?

 なんか話がおかしいんだけど。


「それであなたは?

 生き残る事は可能なんでしょ?」


 おびき寄せても問題ないなら、そもそも脱出する必要もない。


「不可能です。


 ですが、マリーは生き残れます。

 問題ありません」


 いやいや、おかしい。


「メルテはどうするの? って聞いてるの!

 問題あるでしょ?!」


「オートパイロットは有機機械で、人権がないので問題ありません」


 …………!


 オートパイロットってそういう……。


「マリーが生還できれば人的被害はありません」


 だんだん何を言っているのか、分かってきた。

 分かりたくもない事を言っているのが、分かってきた。


 工場で人間を作って戦争をさせて、人権がないから人的被害はない、ですって?

 ふざけた話だわ。


「メルテ、その作戦は採用しないわ」


「しかし、他には方法が……」


「わたしがマスターなら従いなさい」


「ですが、それではマスターの生命が守れません」


 こういう事には反論するのね。

 でも、それもきっと工場で「入力」されたんだろう。


「戦いを生き残って、わたしはあなたとハイタッチをする。


 これがわたしのマスターとしての命令。

 分かった?」


 一瞬、メルテの瞳の幾何学模様が動いた。


「ハイタッチは検索しました。

 ですが、この状況との関連性が分かりません」


「この状況じゃないわ。

 どんな状況でもそれが命令。


 あなたも生き残らなきゃ命令は達成できない。

 生き残らなきゃ命令違反よ」


 わたしはシートベルトを外して、立ち上がった。

 幸運にも心強い味方を手に入れたと思っていたが、どうやら彼女に任せていればいい訳ではないみたい。


「この戦い、わたし達二人で戦って、二人で生き残るのよ」

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