第28話 婚約破棄からの追跡機接近
潜り込んだ戦闘機の中にいた少女、オートパイロットのメルテはわたしをマスターと呼び、惑星グランドまで連れて行ってくれる事になった。
わたしが一人で戦闘機を操縦して、惑星グランドに到着するのはまったく現実的ではない。
メルテとの出会いは幸運と言う他なかった。
しかし、後ろを振り向くと、戦艦から戦闘機が飛び出して来た。
「後ろを見て、メルテ!」
「後ろは見なくて大丈夫です。
お手元のモニターをご確認下さい」
前を向くと前方の座席の一部がこちらに倒れ、机のようになっていた。
机は大分部が黒いガラス面に占められていて、そこには複数の光が。
これがモニターかな。
「三機の同型機に追跡されています」
モニターの中央の光に迫る三つの光。
わたし達の乗り物と追手を意味しているのか。
「この乗り物は、こんな便利な事ができるのね」
「データはわたしが収集し、本機と同期して、モニターに表示しています」
「あなた、そんな事できるの?!
どんな魔法?!」
「演算しました」
よく分からなかった。
「あなたってもしかして、魔法生物か何か?」
能力があまりにも人間離れしている。
発言も何だかおかしいし。
「銀河帝国には魔法文明はありません」
そうなんだ。
ゴーディクにしても、メルテにしても不思議な能力を使っているように見えるけど。
「じゃあメルテは人間なの?」
「身体は人間と同じ有機物ですが、工場で生産されました。
目的に応じたカスタマイズを受けて、出荷されています。
宇宙艇のコンピュータを電気的に制御できる能力を与えられたのが、オートパイロットです」
工場で人間を作るなんて!
でも、人間である事には変わりないみたい。
しかし、それはさておき敵から追跡されている。
「逃げられそう?」
同型機って言ってた。
実際モニターの光も一定の距離を保っている。
これなら追いつかれないんじゃないか、と思っていたら、
「確実に撃墜されます」
えっ……?!
メルテのあまりにも落ち着いた言い方に、わたしは耳を疑った。
「三機の同時攻撃を避ける事は極めて困難です」
「そうなの?」
「ビーム兵器は撃たれた後に反応して回避する事はできません。
そして、相手が一機ならば、射線の予測は可能ですが、三機の連携攻撃には対処できません」
連携して来たらおしまいって事ね。
連携攻撃はしてくるのかな。
「オートパイロットは連携攻撃を得意としています」
おしまいじゃない!
「情報を同期しながら戦えるのがオートパイロットの強みです」
そんな事、自慢げに言われても。
「こっちから仕掛ける事はできないの?」
「誘導ミサイルなら背後を攻撃できますが、同型機なので迎撃されるのは必至です」
うーん、何か他の方法は……。
「勝利は難しいですが、生き残る事は可能です」
「ホント?!」
それで全然構わない。
勝利でなくたって構わない。
「この戦闘機のコクピットはそれぞれ脱出ポッドになっています」
この乗り物から分離して脱出できる乗り物がある、って事かな?
「脱出ポッドは惑星グランドに向かうように、わたしがプログラムします。
そのあと、わたしが本機で交戦して敵機をおびき寄せるので、マリーは脱出して下さい」
ん……?
なんか話がおかしいんだけど。
「それであなたは?
生き残る事は可能なんでしょ?」
おびき寄せても問題ないなら、そもそも脱出する必要もない。
「不可能です。
ですが、マリーは生き残れます。
問題ありません」
いやいや、おかしい。
「メルテはどうするの? って聞いてるの!
問題あるでしょ?!」
「オートパイロットは有機機械で、人権がないので問題ありません」
…………!
オートパイロットってそういう……。
「マリーが生還できれば人的被害はありません」
だんだん何を言っているのか、分かってきた。
分かりたくもない事を言っているのが、分かってきた。
工場で人間を作って戦争をさせて、人権がないから人的被害はない、ですって?
ふざけた話だわ。
「メルテ、その作戦は採用しないわ」
「しかし、他には方法が……」
「わたしがマスターなら従いなさい」
「ですが、それではマスターの生命が守れません」
こういう事には反論するのね。
でも、それもきっと工場で「入力」されたんだろう。
「戦いを生き残って、わたしはあなたとハイタッチをする。
これがわたしのマスターとしての命令。
分かった?」
一瞬、メルテの瞳の幾何学模様が動いた。
「ハイタッチは検索しました。
ですが、この状況との関連性が分かりません」
「この状況じゃないわ。
どんな状況でもそれが命令。
あなたも生き残らなきゃ命令は達成できない。
生き残らなきゃ命令違反よ」
わたしはシートベルトを外して、立ち上がった。
幸運にも心強い味方を手に入れたと思っていたが、どうやら彼女に任せていればいい訳ではないみたい。
「この戦い、わたし達二人で戦って、二人で生き残るのよ」




