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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第三部 銀河帝国編
27/71

第27話 婚約破棄からのオートパイロット、メルテ登場

 ダイザーとの交渉が決裂したわたしは、巨大戦艦内で追われる身となってしまった。


 わたしが脱出するために乗り込もうとした機体のコクピットのには、すでに銀髪の少女がいた。


 戦うしかないと思い、ユウちゃんを引き寄せるわたし。

 しかし、


「初めまして、マスター」


 少女が口を開いた。


 瞳も髪とまったく同じ銀色。

 華奢な体型で、顔立ちもわたしより年下に見える。

 紫色のボディスーツを着ていて、袖口には銀色のラインが。

 軍人達とは明らかに異質に見えた。


「オートパイロット1200号機です。

 本機のナビゲーションを担当いたします」


 攻撃してくる様子はない。

 わたしは手の動きを止めた。

 もう少し様子を見てみようと思っていると、


「マスターのお名前を出力して下さい」


 少女の口から予想外の言葉が出てきた。


「出力、……って何?」


「音声で、出力して下さい」


 名前を言えって事?

 それならそう言えばいいのに。

 変な子だなあ。


「名前はローズマリー=マリーゴールドよ」


「入力しました。

 ローズマリー=マリーゴールド様ですね。


 よろしくお願いいたします。

 ローズマリー=マリーゴールド様」


「長いからマリーと呼んで」


「了解しました。

 コードネームを入力しました、マリー」


 了解してくれた。

 ノリで自己紹介してしまったが、どうもこの子は、わたしが侵入者である事を分かってないみたい。


「わたしはどうしても故郷に帰らなきゃいけないの。


 あなたに危害を加える気はないから、この乗り物を譲ってちょうだい」


 なるべくなら争いを避けたい。

 しかし、少女はきょとんとして言った。


「故郷はどちらになりますか? マリー」


「えーと、惑星グランドとか言ってたけど」


 思わず答えてしまうわたし。

 ゴーディクの日誌や通信に出て来た単語だけど、確か合ってるはず。


「座標を確認しました。 発進いたします」


「えっ、ちょっ……!」


 少女が両手を前にかざすと戦闘機の計器類が作動し、機体が振動し始めた。


「ハッチを閉鎖します。シートにお座り下さい」


「本当にあなたが連れてってくれるの?」


 わたしは侵入者なんだけど。


「わたしはこの銀河の全座標が検索可能です。

 お任せ下さい、マリー」


 計器類を操作しながら応える少女。

 そういう事を聞いてるんじゃないんだけど。


「勝手に発進しちゃっていいの?

 ええと……。


 そう言えば、あなたの事はなんて呼べばいい?」


「わたしはオートパイロット1200号機です」


「そんなの言いづらいわ」


「ではコードネームを出力して下さい」


 出力、ね。

 わたしが名付けるのか。


「うーん……………。


 じゃあメルテで」


 昔飼ってた猫の名前にしてみた。

 小柄な少女に何となくイメージが重なったのだ。

 オス猫だったけどね。


「コードネームを入力しました。わたしはメルテです。

 さあ、搭乗して下さい」


 乗り物のいろんな場所が光り輝やいたり、目盛りが動いたりしている。

 発進の準備をしているみたい。

 わたしは言われるままに、後ろの座席に乗り込んだ。


「スクランブル。

 艦内に侵入者あり」


 しかし、まだサイレンは鳴っていて、放送も続いている。

 そして、


「侵入者あり。発見し、捕獲せよ」


 閉じたハッチの表面にわたしの顔が写し出された。

 仏頂面で悪そうな顔をしている。

 いつ書いたのか知らないけど、もっとかわいい顔を選んで欲しかった。


「マスターを探しているようですね」


 メルテはついに気付いてしまった。

 こうなったら、やっぱり戦うしかないか。

 名前まで付けて心苦しいけど。


 わたしはユウちゃんを抜いて、立ち上がろうとした、けど。


「発進間近なので席を立たないようお願いします」


「えっ?」


「あとシートベルトをお締め下さい」


「わたしを捕まえなくていいの?

 あなた、銀河帝国なんでしょ?」


「わたしはマリーをマスターとして入力しました。

 マリーの命令を遂行します」


 わたしがマスターだから、言う事を聞いてくれると言う。


「でも、出入り口が閉じてるんだけど」


 この戦艦に入る時には見えていた星空が見えない。

 出入り口が閉まっているようだ。


「侵入者が艦内に潜り込んでいるため、全ゲートが封鎖されています。」


 それは納得する他ない。

 侵入者は間違いなく今、艦内にいる。


「システムに直接アクセスをします」


 そう言うとメルテは出入り口を凝視した。

 戦闘機のハッチに彼女の顔がおぼろけに写る。

 どうやらまた瞳の幾何学模様が回転しているようだ。


 その後、出入り口が上下に開き始めた。


「あ、あなたがやったの? 魔法?」


 手も触れずに一瞬で開けてしまうなんて。


「一体どうやって……」


 振り返ったメルテの瞳の幾何学模様の回転が止まった。


「オートパイロットはゲート開閉の権限を持っていないので、プロテクトを破りました」


「そんな事できるの?」


「演算しました」


 よく分からないけど。


「さあ、参りましょう、マリー」


 事もなげに言うメルテ。

 程なく戦闘機は宇宙に飛び出した。


「惑星グランドに向かいます」


 本当に戦艦を脱出できてしまった。

 これがわたしとオートパイロット、メルテの出会いだった。

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