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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第二部 魔界編
25/71

第25話 婚約破棄からのマリー、星の海へ

「わたしが円盤に転移できたら、あなたはこの部屋の中を調べて」


「何があるんですか?」


「大事な事よ」


 これでシャラーナは銀河帝国の襲来を知ってくれるだろう。

 知ったから何ができるのかは分からないけど。


「マリー!

 地下から何か出てくるぞ!」


 ザンの叫び声が聞こえる。

 ダイザーが出発の準備を終えたようだ。

 いよいよ円盤の発進の時がやってきた。


「リンド!

 あの円盤は空を飛ぶわ。

 わたしとシャラーナを乗せて追って」


「うむ、よかろう」


 今度は快く乗せてもらえそうだ。


「ダイザーの奴め、逃がすものか」


 元々ダイザーとも険悪だしね。


「ぼ、僕も乗るんですか?!」


「わたしを円盤の中に転移させて欲しいの」


「動いているものに転移なんてやった事がありませんよ!」


「行ったぞ!」


 そうこうしてる間についに円盤は発進した。


「お願い! あなただけが頼りなの」


 このチャンスを逃す訳には行かない。

 ザンも転移魔法を使えるが、あまり得意ではないようだ。

 ここは天才宮廷魔術士の力に期待したい。


「うーん……。


 目の前の物体なら座標を意識しないでいいから、近付けばできるかも」


「いいわ。リンド、追いつける?」


「ガハハハ!

 誰に言っておる」


 リンドはスピードを上げる。


「しっかり掴まっておれ」


 円盤がみるみる近付いてくる。


「わ、わ、わ、速い!」


 シャラーナは必死にリンドにしがみついている。

 わたしもそうだけど、目は円盤から離さない。


 そして、宣言通りリンドは円盤の間近まで迫った。


「いいわよ、リンド」


 わたしは身体を反転させると、片手でシャラーナの腕を掴み、もう片方の手でシャラーナの背中を抑えた。


「マ、マリー様?!」


「わたしが支えてるから、片手を離して魔法を使って」


 顔は円盤の方を向けて、タイミングを見計らう。


「マ、マリー様の髪が……、かかって……!

 距離が近いですよ!」


 わたしの長い髪が邪魔になってるみたい。

 そんな事を言われても、わたしも両手がふさがっているのでどうにもできない。


「タイミングはわたしが指示するから」


 円盤を見ながら答える。


「マリー様! 僕も一緒に行きます。

 危険過ぎますよ」


「それはダメ」


 円盤から目を離さなさずに答える。


「わたしが様子を見て、大丈夫そうなら次回はお願いするわ」


「次回って……」


「そうね、おかしいよね」


 わたしは死んで時間が戻される事を前提にした話をしている。

 だけど、それにシャラーナを巻き込む訳にはいかない。


「誰かが取り返しのつかない事になって、それしか正解が見つからない、そうなるのが怖いの。


 だから一人で行かせて」


 すでに散々巻き込んでいる。

 ここまで手伝ってくれただけで十分だ。


「マリー様……、一人であまり抱え込まないで下さい。

 次回でも構いませんから、何でも相談して下さい。

 僕は必ずあなたの話を信じます」


「ありがとう」



「貴様ら、準備はいいか?」


 リンドの声が響いてくる。


「近付くぞ!」


 ついにダイザーの円盤が目前に迫って来た。


「シャラーナ、お願い!」


 シャラーナが詠唱すると、目の前シャラーナの片手が輝き魔法陣が現れる。

 そして、腕を伸ばし、円盤に手をかざす。


「リンド近付いて!」


「任せよ!」


 この金属の機体の向こうへ転移する。

 失敗したら空中に投げ出されるかも知れない。

 身体が機体に寸断されるような位置関係で転移してしまうかも知れない。


 それでも後には引けない。


 シャラーナの腕を強く握り、叫んだ。


「今よ!」


「はい!」


 円盤の機体に刻まれる、呪文の描かれた魔法陣。


「いきますよ、マリー様!」


 シャラーナの声を聞いた瞬間、視界が歪み身体が浮き上がったような気がした。

 そして、次の瞬間、足元に固い感覚が現れ、視界がはっきりして来る。


 わたしは円盤の内部へ突入した。


 円盤の中は見た目どおりに狭い。

 外からは窓などないように見えたが、底面には円形の窓があった。


 外の様子が伺える。

 わたしは魔界の地形を上から眺めていた。


 リンドの姿も見えたが、すぐに小さくなって見えなくなった。

 シャラーナも無事に着陸できていればいいけど。


『別異相空間を脱出します』


 どこからともなく声が聞えたと思ったら、足元の地形が一変した。

 薄暗い岩山ばかりの魔界の地形から、青い海に大陸の浮かぶ、明るい場所になった。


 わたしは人間界に転移したという事を直感した。

『別位相空間』というのが魔界なのか。

 宇宙には魔界からは行けないのかも。


 円盤は雲より高くさらに上へ。

 夜のような星空の世界へ。


 わたしがいたはずの世界は青い球体に。

 大陸も海も雲も視界の中に。

 両極の周辺にはオーロラまでが小さく見える。


 初めて海を見た時はその大きさに圧倒された。

 しかし、それが今は闇の中に小さな青になってしまっている。

 わたしは本当に住んでいた惑星を離れ、宇宙に来てしまったのだ。


「■■■■■■、こちらゴーディク大佐。

 無事惑星グランドを脱出した」


 ダイザ―の声に急に現実に戻される。

 わたしが発見された訳ではないようだ。

 ダイザーかいる場所は階段の上の円盤の上部だ。


 恐らく魔法か何かで、遠くにいる相手と会話しているのだろう。


「艦隊との合流地点を指示されたい」


 艦隊とは海の船の事ではないと思う。

 宇宙を移動するための船、いや、軍艦だろう。


 いきなり発見されなくてよかった。

 よく考えたら、わたしはこの円盤を操作できない。

 目的地に向かう前に交戦するのは危険だ。

 今はまだ隠れていなければ。


 そうしている間に数時間が経過した。

 おそらく日付も変わっているはず。


「これが正解なのね」


 胸に手を置きほっと一息。

 どうやら新たな一日を迎える事ができたようだ。

 前回は魔界に行くことが正解で、今度は宇宙に行くことが正解。

 何だか誘導されてるみたいで、いい気がしない。


 しかし、今回は呪いを掛けた本人が目の前にいるのだ。

 ここで全てに決着を付けてしまいたい。


「こちら、第十二艦隊。

 跳躍航行を終了しました。


 艦隊の座標を送信します」


 しばらくすると円盤の壁から声がしてきた。


「了解した」


 ダイザ―の応答する声。

 ダイザーが銀河帝国と合流する時が迫っている。


 今しかないと思った。


「■■■■■艦隊を視認でき次第、着艦の手続きをおこな……」


 ダイザーは息を飲んで沈黙した。

 その首元にユウちゃんの切っ先がきらめく。

 思わず顔を上げるダイザ―だが、そこにはユウちゃんが浮遊しているだけだった。


「後ろよ」


 わたしはダイザ―の背後にいた。


「ローズマリー=マリーゴールド…………!」


 わたしは表情がこわばるのを感じた。

 殺意すら湧いてきた。

 しかし、その気持ちを抑え、尋ねた。


「わたしの呪いを解く方法を教えなさい」

第2部、魔界編終了です。

第3部、銀河帝国編をお待ち下さい。

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