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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第二部 魔界編
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第20話 婚約破棄からの追跡行

「そう言えばダイザーの本拠地って何て言うの?」


「カルワリオ神殿。

 魔神カルワリオを祀る神殿だ」


 やはり魔神官の本拠地は魔神を祀る場所のようだ。


「何をのろのろしておる?

 わしがダイザーを討ち取ってよいな」


 リンドの巨体が上空を通り抜けた。

 あまりの衝撃に頭を押さえるわたし。


「待ちやがれ、リンド!


 ちいっ、行っちまった。仕方がねえ。

 飛行の速さなら、魔界中探してもリンドに勝てる奴はいねえからな」


「そうなの?」


「ああ、あの図体からは想像つかねえだろ」


 確かにその通り。みるみる遠ざかっている。

 あの巨体であんなに速く飛ぶなんて。

 実際に目の前で見たのでなければ、なかなか信じられなかっただろう。


「とにかく行きましょう」


 できればリンドに討ち取られる前に、ダイザーから話が聞きたい。


 ザン、リンド連合軍が崖下で戦っている脇を走って、ダイザーを追跡するわたし達。


 するとふいに目の前の地面に魔法陣の輝きが。


「これも何かの罠?!」


 思わず身構えるわたしとザンだったが、


「マリー様ーーーっ!」


 魔法陣から現れたのは、コート王国の宮廷魔術師シャラーナだった。


「よかった、上手くいった!」


「シャラーナ!

 どうやってここへ?」


「転移魔法陣の仕組みを解析しました」


 すごい。

 誰に教わったでもないでしょうに。


「なんでここに転移できた?」


 ザンもびっくりしているみたいだった。

 魔界に来た事なんてないでしょうに。


「魔法陣には使用者の名前が記されているんです。

 で、その名前を転移先を書く場所に記しました。


 それであなたの座標に転移したんです」


「お前は魔界語が分かるのか?」


「いいえ。

 ですが音声で魔法を制御する呪文には共通点があります。


 魔法陣に必要な単語から類推しました。

 転移魔法であると言うヒントがありましたからね」


 うーん、やっぱり彼は天才なんだなあ。


「シャラーナ、今わたしに呪いを掛けた魔神官ダイザーを追っているの」


「え、そうなんですか?!

 話が早いですね」


 すでに一回失敗してるので、わたしにとっては全然早くないけど。

 とにかくシャラーナと合流して先を急ぐ。


「あれがカルワリオ神殿だ」


 それは尖塔の付いた神殿のような建物だった。


 神官でもある、魔界三強の一角の居城としてはうってつけだ。


 神殿の前には魔竜リンドがいた。

 見たところダイザーと交戦している感じではない。


「奴めは神殿の中に逃げおったわ」


 神殿の入り口は小さくて、リンドには追跡できないようだ。


「今から炎を吐いて、中を灼き尽くしてやろうとしておったところよ」


 そう言って神殿の入り口に近付くリンド。


「やめて!

 ダイザーには聞き出さなければならない事があるんだから」


「そうか、ならば奴を追うのだな。

 外はわしが見張っておいてやろう」


 わたしとザンとシャラーナは神殿に入った。

 中には人気はなく、無気味な祭壇があるだけだった。


「地下への階段がありますよ!」


 シャラーナが指差したのは祭壇より奥の部屋の隅だった。

 地下への階段があったが、気になるのは階段の脇にクシャクシャになった絨毯が捨て置かれていた事だ。


「隠し階段って事?」


「そいつは妙だな」


 ザンはしっくり来ていないようだった。


「魔神の祭壇はここにある。

 魔神官がこれ以上何を隠すんだ?


 奴の一番の目的は魔神の復活のはずだ」


 それは分からないけど、わたしとしては彼の目的はどうでもよかった。

 わたしに掛けられた呪いが解けさえすれば。


「とにかく降りてみましょう」


 この地下からどこかに脱出できる可能性もある。

 早く彼を見つけなければ。


 わたし達が降りた先は広い空間ではあったが、四方も壁に覆われていて、見通しはよかった。

 ここからどこかへ脱出する事はできないだろう。


「あれは何?!」


 ほぼ何もない空間だったが、部屋の中央には見た事のない不思議な物体があった。


 それはお皿のような円盤型をしていた。

 その中央に球体が付いていて、お皿の上半分は透明だった。


 そして、球体の中には黒いフードを被った人影が見えた。


「ダ……、ダイザー!!」


 わたしの声が聞こえたのか、ダイザーと目があった。


 大きく目を見開いたダイザーは焦っているようだったが、すぐに視線を下に向けた。

 その後、ダイザーが顔を上げると、円盤が音を立てて浮き上がった。


「あれは空を飛べるのか?」


「何だ、ありゃあ?!」


 シャラーナもザンもこんなものは見た事がないようだ。


「こんな地下で浮き上がったってどうってことも……、


 ええっ?!……、まずいって!」


 上を見上げたわたしは我が目を疑った。


 天井が開き始めていた。

 その向こうに赤黒い空が見える。

 この地下の天井は開閉して、円盤が発進できるようになっていたのだ。


「飛んで逃げられちゃう」


 あの円盤は乗り物で、ダイザーは空に逃げようとしていた。


 こちらを一瞥するダイザーの表情に、もはや焦りは見えなかった。

 円盤は浮き上がり、発進した。

 瞬く間に円盤はすがたを消していた。


「おい、今飛び去って行ったものは何だ?」


 地上で待っていたリンドも円盤を目撃していた。


「あれにダイザーが乗っているの!

 地下にあれを隠していたみたい」


「あれにダイザーが?」


 空の彼方に消えたダイザー。

 もうお手上げだろうか。

 空中に逃げた相手を追跡する方法は……。


「そうだ!」


 わたしは魔竜リンドを見上げて叫んだ。


「わたしを乗せてちょうだい。

 一緒にダイザーを追いましょう」


 空中では魔界一の素早さを誇ると言うリンドならばあの円盤に追いつけるはず。


 わたしはいいアイデアだと思ったのだが、


「人間を乗せるだと! ふざけるな!」


 リンドは突然怒り出してしまった。


「わしは人間の下僕になった覚えなどない!」


「あ、あなたを侮辱してるんじゃないの。

 ただ力を貸して欲しいだけ」


「人間を乗せるなど、あり得んわ!」


 リンドは何だか分からないけど、カンカンだ。


「お願いよ、リンド!

 あいつを倒すためにここまで来たんでしょ?」


「ぐぬぬ……」


 必死に頼み込んでみるわたし。

 リンドも迷っているようだけど……。


「ならばわしがダイザーを追いかける。

 それでよかろう」


「ちょっとした待って、リンド……」


 巻き起こる突風。

 リンドは飛び去ってしまった。

 こうなっては首尾良くリンドがダイザーを捕まえる事を祈るしかない。


 しかし、リンドの激怒は予想してなかった。

 下僕がどうとか言い出すとは思わなかった。


 まったく!

 この大事な時にしょうもない事で怒り出すなんて。


「マリー様、塔に登ってみませんか?」


 わたしがイライラしているとシャラーナが話しかけてきた。


「ダイザーについて何か手掛かりがあるかも」


 そう言えばこの建物は地下だけでなく、塔もあった。


 思いがけず呪いを解く手掛かりがあるかも知れない。

 わたし達は塔を上る事にしたのだった。

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