第12話 婚約破棄からの解けてなかった呪い
「ローズマリー=マリーゴールド、お前との婚約を破棄する!」
魔王を撃退したものの、午前0時に発動した呪いで殺され、婚約破棄の瞬間に戻されたわたし。
勇者になった事で発動しなくなった呪いが、再び発動した。
何がいけなかったのか。
魔王を殺せばよかった?
だけど、呪いは彼によるものではなかったみたいだし。
うーん……。分からない。
「おい、ローズマリー! 聞こえているのか!」
「聞こえております」
状況は進展したと思ってたのに、また振り出しに戻ってしまった。
結局、呪いの謎は何も解決していない。
でも、一度は呪いが発動しなかったこの状況には何かヒントが……。
「何を考え込んでいるのだ? ローズマリー!」
王子がキレているが、こちらはそれどころじゃない。
とは言え、ここで考え込んでいても仕方がない。
まずしなければならない事は……。
「……ユウちゃん!」
わたしが窓の外に手をかざして叫ぶと、瞬く間に勇者の剣が玉座の間に飛び込んで来た。
ユウちゃんはわたしのかざした手にキャッチされる。
「わたし、勇者だったんです」
剣を掲げるわたし。
「な、何を言っている……?」
目をまん丸にしているゼイゴス王子。
「勇者の剣を抜いたわたしが勇者です」
わたしが手を離すとユウちゃんはゆらゆら滞空し始める。
「これが動かぬ証拠です」
例によって、めっちゃ動いてるけど。
「魔王をやっつけるので、勇者の衣も下さい」
「ど、どういう事なのだ!?」
王子もラーリンもみんな、わたしとユウちゃんに釘付けになっている。
「これぞまさしく勇者の剣!
間違いございませぬ」
マーク騎士団長が近づいて来て、宙に浮いていたユウちゃんを手に取り確認する。
そして……、
「必ずや魔王を討ち果たし、ここへ戻って来るのだぞ」
「おお、我が主君よ。永遠の忠誠を誓います」
旅立ちの儀式もその場で済まし、わたしは魔王討伐に旅立つ。
ついに「出ていけ」と言わせずに「必ず戻って来るのだぞ」と言わせた。
別に戻って来たくはないけどね。
シャラーナにも事情を話し、同行してもらう。
城を出た後は、歩きながらこれまでの状況を説明した。
「魔王に勝ったのに、呪いは消えない?」
「あの魔王、呪いなんて使えないみたい。魔法苦手なんだって」
「魔王は魔法が苦手なんですか?」
いろいろ驚かせて申し訳ないけど、本当にいろいろあったのだ。
わたしはシャラーナに、今の状態を説明した。
「こうなっちゃうと、どうすれば正解なのか、分からなくって……」
「うーん……。そうですね。
でも、勇者になった後、呪いが発動しなかった。
これは重要な事だと思います」
腕を組み、考え込むシャラーナ。
「それに、他の勢力って事はですよ。
まだ魔王と同等の存在がまだ魔界にいるという事ですよね」
魔王は、盟約によって一番に人間界に攻め込む事になったとも言っていた。
「それらの勢力の君主も、魔王クラスの力の持ち主って事になりますよね。
なら、そいつらの中にマリー様に呪いを掛けた奴がいる可能性もあるのでは?」
おお、そう言えばそうかも!
「そう考えると、魔王の城とは反対方向の公爵領に魔物が現れた説明もつきます」
魔王とは別の勢力の魔物なら、魔王が知らない訳だ。
「やっぱりあなたって頭いい!
頼りになるわ」
「い、いえ、マリー様のお役に立てたなら光栄です」
赤面するシャラーナ。
そうと決まれば善は急げだ。
勇者の快進撃が始まった。
「ぐああああああ!」
そして、首尾よく終わった。
手をかざし、空飛ぶユウちゃんを魔王の首に突き付ける。
「あなたを殺す事が目的じゃない」
さて、ここからが重要だ。
「魔界にいる、あなた以外の実力者の情報が欲しいの」
「おれ以外の奴の情報だと?」
明らかに不愉快そうな表情になる魔王。
「ふん、知った事かよ。
どうせ次はリンドの番だ。
すぐに会う事になる」
魔王は魔方陣を作り出した。
これは前回見覚えがある。
魔界に帰るための転移魔法の魔方陣だ。
このままじゃ逃げられてしまう。
「他の奴に負けるなよ。
お前を倒すのはオレなんだからな」
「普通に負けるなよー」
「微妙に負けるなよー」
「逆に負けるなよー」
ハーピー達も魔王の元に集まっていく。
「あっ、待ちなさい!」
わたしも魔王の方に駆けて行く。
ここで逃す訳にはいかない。
そう思った時だった。
わたしの横で素早く風が動いた。
見れば魔方陣にユウちゃんが突き刺さっている。
「ユウちゃん、ナイス!」
これで魔方陣を止められる。
そう思った時だった。
魔法陣から光の柱が立ち昇った。
ハーピー三姉妹の姿がかき消える。
魔方陣はまだ生きてるみたい。
ハーピー達の転移は完了したようだ。
魔王はそのまま、地面に魔力を注ぎ続ける。
「あばよ」
「待ちなさい!」
走りながら手を伸ばすわたしは、ユウちゃんにギリギリ触れる事ができた。
「間に合っ……」
その瞬間、魔方陣から光の柱が伸びた。
「ついて来んな! 魔法が乱れる!」
「話が途中でしょ!」
「おれは、魔法が得意じゃないんだぞ!」
威張って言われても困る。
きれいな円形だった光の柱が歪み出して、振動が伝わって来る。
「ど、どうなっちゃうの?」
「知るかよっ!」
そして、わたしとユウちゃんは、魔王と共に歪んだ光に包まれたのだった。
第1部 王国編完です。
第2部 魔界編(仮)は鋭意制作中です。
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